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1998年(平成10年)

平成9年門審第84号
    件名
貨物船フェリーあけぼの防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、吉川進、清水正男
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:フェリーあけぼの船長 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
右舷船首部に破口、北防波堤の南東端のブロックの一部が破損し、少し移動

    原因
操船不適切(潮流の影響)

    二審請求者
受審人A

    主文
本件防波堤衝突は、操船が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月31日18時15分
鹿児島県鹿児島港第2区新港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船フェリーあけぼの
総トン数 6,466トン
全長 141.5メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 13,239キロワット
3 事実の経過
フェリーあけぼの(以下「あけぼの」という。)は、鹿児島県鹿児島港から奄美群島の各港を寄港して沖縄県那覇港に至る定期航路に就航する、船首、船尾にスラスター及び2軸1枚舵を備えた船首船橋型貨客船兼自動車渡船で、鹿児島港から那覇港に向かう途中、台風9号の影響を受けて運航スケジュールの一部取り止め、平成8年7月31日07時45分鹿児島港第2区新港の6号岸壁に着岸して旅客及び積荷を降ろしたのち、社船を接岸させるための沖がかりで、A受審人ほか運航要員22人が乗り組み、09時45分同岸壁を離れ、10時10分神瀬灯台から172度(真方位、以下同じ。)1.15海里の地点に仮泊したのち、船首4.8メートル船尾5.7メートルの喫水をもって、17時55分同地を抜錨して再び同岸壁に向かった。
ところで、鹿児島港は、鹿児島湾の北西部に位置し、港内を第1区から第4区までの港域に分け、第1区の本港、第2区の新港、第3区の南港及びこれらの港域を除く第4区の外港からなり、このうち新港は、北側の本港と南側の南港との間にあって、主に、巡視船や奄美群島及び沖縄航路の定期航路の船舶が発着し、その出入口は、いずれも先端に灯台が設置されている鹿児島新港北防波堤と鹿児島新港南防波堤(以下「鹿児島新港」を冠する防波堤及び灯台名については冠称を省略する。)間の東に開いた防波堤入口で、そこには航路幅170メートル長さ450メートルの第3航路が東西方向に設定されており、出入航船舶は、同港西側奥の巡視船専用さんばしと同防波堤入口の中間地点とを結ぶ、090度又は270度の見通し線を目安として出入りしていたが、防波堤入口付近においては、大潮時に北又は南に向かう潮流が強いことから、これらの潮流を加味して、どちらかの防波堤に寄せた針路をとるなど適切な操船方法を採っていた。
抜錨前、A受審人は、入港部署を令して船首に一等航海士ほか2人を、船尾に二等航海士ほか1人を、船橋に三等航海士と操舵員を、機関室に機関長ほか機関要員を配置し、揚錨後、船首及び船尾のスラスターを使用して船首を回頭してほぼ326度に向け、17時58分両舷機を極微速力前進にかけ、徐々に増速して18時03分港内全速力前進まで上げ、同時04分神瀬灯台から236度900メートルの地点に達したところで、新港から出航してくる2隻のフェリーを左に替わすため、いつもの針路より2度右方に寄った、007度に定め、10.0ノットの対地速力で進行した。
その後、A受審人は、出航してきたフェリーと互いに左舷を対して替わしたのち、18時07分両舷機を半速力前進続いて微速力前進まで減じ、同時08分前防波堤灯台と城山のテレビ塔が一線となる、神瀬灯台から319度1,220メートルの地点に達したとき、左舷10度をとってゆっくり左転し、防波堤入口の中央に向けて入航する、270度の見通し線上に向かったが、前示フェリーを替わすのに少し右方に寄せており、また、折からの北に向かう潮流があることを知っていたものの、その影響に対応して南防波堤寄りの針路とするよう大角度の左舵をとらなかった。
18時11分半A受審人は、両舷機を極微速力前進に減じ、同時13分、北防波堤灯台から097度420メートルの地点に達し、270度の針路としたところ、見通し線より40メートル北側に寄せられていることに気付いたが、大角度の左舵をとることなく、操舵員に小刻みに260度、続いて250度の針路を指示し、右舷機を微速力前進続いて半速力前進として左転を試みたものの、船体が左方に寄らないで更に北側に寄せられたので、このまま前進して入航するかいったん後進して再度入航を試みることにするか迷いが生じ、同時14分半両舷機を停止した。
しかし、A受審人は、後進をかけても北防波堤に接近しているので既に間に合わないと思い、再び右舷機を微速力前進続いて半速力前進とし、自ら右舷ウィングで船首及び船尾のスラスターも使用して船体を左方に押したが、効果がなかったのでこれを止め、船首が防波堤入口の内側に少し入っていたので右舵一杯をとって船尾を左方に振ろうと試みたところ、船首が北防波堤の間近に迫り、危険を感じて両舷機を全速力後進にかけたが及ばず、18時15分あけぼのの右舷船首が、218度を向いて約6.0ノットの前進速力で、北防波堤の南東端の角に76度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の東北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、14時35分鹿児島地方気象台から大雨、雷、強風、波浪、洪水の各注意報が発表されていた。
衝突後、A受審人は、後進をかけて北防波堤から離れたのち、両舷機を半速力前進にかけて新港に入航し、18時30分6号岸壁に着岸して損傷状況を調査するなどの事後措置をとった。
衝突の結果、あけぼのは、右舷船首部に破口を生じ、北防波堤の南東端のブロックの一部が破損し、少し移動したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件防波堤衝突は、鹿児島県鹿児島港新港の防波堤入口に向けて入航中、潮流の影響に対応する操船が不適切で、北防波堤に寄った進路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県鹿児島港第4区の仮泊地から抜錨して同港新港の防波堤入口に向けて入航する場合、当時、北に向かう潮流があったから、潮流の影響に対応して南防波堤寄りに針路をとるなど、適切な操船を行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、北に向かう潮流があることを知りながら、早目に南防波堤に寄せる針路とするなど適切な操船をとらなかった職務上の過失により、潮流の影響を受けて北防波堤に寄った進路で進行し、あけぼのの同防波堤との衝突を招き、同船の右舷船首部に破口を生じさせ、北防波堤を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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