日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年仙審第19号
    件名
漁船第一大洋丸漁船第一海竜丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難裁判庁

?橋昭雄、安藤周二、供田仁男
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第一大洋丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第一大洋丸漁労長兼二等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:第一海竜丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
大洋丸…左舷船尾外板に破口を伴った凹損
海竜丸…船首外板に破口を伴った凹損

    原因
海竜丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
大洋丸…動静監視不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第一海竜丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る第一大洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第一大洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Cを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年9月16日04時20分
三陸東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大洋丸 漁船第一海竜丸
総トン数 499トン 298.01トン
全長 65.46メートル 51.05メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 919キロワット
3 事実の経過
第一大洋丸(以下「大洋丸」という。)は、船尾船橋型かつお一本釣り鋼製漁船で、A及びB両受審人ほか日本人19人及びキリバス共和国人9人ら総勢30人が乗り組み、操業の目的で、平成7年9月6日10時00分岩手県山田湾を発し、翌7日三陸東方沖合の漁場に至って操業を開始した。
ところで、A及びB両受審人は、船内職務を原則としてA受審人が航海関係及びB受審人が一般作業を含む操業関係を分担して行うことにしていた。しかし、B受審人は、有資格者でもあることから、実質的な総指揮者として漁場及びその針路の選定や操業の中止などほとんどの作業について決定を下していた。
また、船橋当直体制については、会社の方針により、操業及びこれに関連した作業時を除いた漁場移動時などの場合には、当直等作業熟練者と若手の各1名を組み合わせた9組から成る2人体制を編成し、各直2時間輪番制で行われていたが、操業時及びその後の塩水冷凍作業時並びに未明に行われる前日から塩水冷凍中の漁獲物を冷凍倉に移し変える作業時には、漁労長が1人で船橋当直にあたり、漁労長を除いた全乗組員が同作業に従事することになっていた。
そこで、A受審人は、船長として船橋内に当直中における注意事項を掲示し、無資格の船橋当直者に対してその指導及び指示を直接行っていた。しかし、B受審人に対しては、同人が航海士としての経験も豊かであったことから、見張りに関することなどの通常の船橋当直上の基本的な事項については特に指示を与えることを要しなかった。
こうして、越えて15日B受審人は、北緯40度53分東経146度55分の地点で、操業を続けていたところ、本邦南方海上に発生した大型の台風12号が本邦に接近中であることを知って、早めに岩手県大船渡港に避難を開始することにしたが、避難の途中でも好魚群の反応を得た際には操業するつもりでいったんは操業を打切り、かつお144トンを獲て、船首3.5メートル船尾5.0メートルの喫水をもって、同日16時20分針路を225度(真方位、以下同じ。)に定めて機関を全速力前進にかけ、避難途上にあたる北緯39度00分東経145度00分の操業地点に向かった。
翌16日03時45分B受審人は、北緯39度21分東経145度00分の地点に達したころ、定例の塩水冷凍中の漁獲物移し変え作業を行わせるために昇橋し、当直中の甲板長及び甲板員と交替して1人で船橋当直に就き、航行中の動力船が掲げる灯火のほか船橋前及び前部マストに500ワットの作業灯各2個を点灯し、針路を次の予定操業地点に向かう180度に転じ、機関を全速力前進にかけたまま南向きの弱い海流に乗じて12.2ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で自動操舵により進行した。
04時00分半B受審人は、右舷前方約5海里のところに操業中のかつお漁船2隻のレーダー映像とその明るい灯火を認め、また左舷船首50度4.5海里に第一海竜丸(以下「海竜丸」という。)のレーダー映像を初めて探知した。その後、右舷側2隻の同レーダー映像が後方に替わったことから、これで付近には自船が避航船の立場になる他船が存在しないものと思い、以後左舷側に対しては特に気にもかけず、いすに腰掛けて海竜丸に対する動静監視を行わないまま続航した。
ところが、04時11分半B受審人は、左舷船首50度2海里のところに海竜丸を認めることができるようになり、その後同船が前路を右方に横切り、その方位が明確に変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で接近中であったが、引き続き同船の動静監視を行わなかったので、このことに気付かず、自船の進路を避けずに接近する海竜丸に対して警告信号を行わず、その後同船と更に接近しても減速するなどして衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行した。同時20分少し前左舷正横少し後方至近に海竜丸の灯火に気付いたが何らの措置を取る間もなく、04時20分北緯39度14.6分東経145度00分の地点において、海竜丸の船首が、原針路、原速力のままの大洋丸の左舷船尾部に後方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、冷凍倉内で作業中、突然衝突の衝撃を感じて直ちに昇橋し、事後の措置にあたった。
また、海竜丸は、船尾船橋型かつお一本釣り鋼製漁船で、C受審人、D及びE両指定海難関係人ほか15人が乗り組み、操業の目的で、同月9日14時50分青森県陸奥湾の蓬田を発し、翌々11日04時35分三陸東方沖合北緯39度48分東経147度53分の漁場に至り、適水調査を行いながら操業を開始した。
ところで、C受審人は、船橋当直体制を編成するにあたって伯父にあたるD指定海難関係人と協議し、居眠り運航の防止及び見張りの強化のために2人1組による2時間5直制で行うことにした。その際、E指定海難関係人が船橋当直をはじめ一般作業に関しても未熟であったことから仕事を教える必要があったので、同人を漁労長の船橋当直に組み入れた。またD指定海難関係人に対しては、同人が航海経験の豊かなことから、船橋当直を任せておけばよいものと思い、他船に対する動静監視及び船長への報告など船橋当直に関する指示を行わなかった。
こうして、越えて15日16時27分C受審人は、北緯39度51分東経147度31分の地点で操業を続けていたところ、台風12号の接近を知って宮城県女川港に避難することにして操業を打切り、かつお30トンを獲て、船首3.0メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、避難の途中で魚群に出会えば操業を行うつもりで、針路を255度に定め、南向きの弱い海流の影響を受けて2度ばかり左方に圧流されながら11.2ノットの速力で同港に向かった。
翌16日03時55分D指定海難関係人は、北緯39度15.5分東経145度04.1分の地点で、相当直のE指定海難関係人を伴って当直交替のために昇橋し、当直中の甲板長から右舷前方約6海里のところを大洋丸が航行中である旨の引継ぎを受けたが、船長からの当直に関する指示を受けなかった。D指定海難関係人は、同引継ぎを受けてレーダーにより右舷船首55度5.8海里に大洋丸の映像を確かめるとともに、同船の白、白、紅3灯及び明るい作業灯を視認し、航行中の動力船が掲げる灯火を表示して以後の当直に就き、同じ針路で自動操舵により進行した。
ところで、D指定海難関係人は、04時から定例の各船との連絡及び台風等気象情報の入手にあたるに際し、E指定海難関係人に対して右舷前方に大洋丸の存在を知らせたが、同船が同業船で自船と同様に台風避難のために陸岸に向かって同航中であるものと思い、同船の異常な接近などを早めに報告させるように適切な指示を与えないまま、船橋後部に位置する海図室兼無線室に入って連絡にあたり、その後の同船の動静監視を行わなかった。
E指定海難関係人は、平素より船長から他船の灯火が見えたら相当直の漁労長に知らせるように指示され、操舵室右舷側前部に置かれたいす代わりの木箱に腰掛けて前方の見張りにあたっていた。
04時11分半E指定海難関係人は、右舷船首55度2海里に接近した大洋丸を認めるようになり、その後同船が自船の進路を左方に横切り、その方位が明確に変わらないまま、衝突のおそれがある態勢で自船に接近中であった。ところが同人は、大洋丸が次第に自船に近付いていることを知ったものの、当直交替時漁労長も同船の存在を知っており、また同船が自船より少し船速が速いように見えたので、そのうちに自船を追い抜いていくものと思って同人に大洋丸の接近を報告しなかった。
一方、D指定海難関係人は、引き続き無線での連絡に気を取られ、依然同船の動静監視を行わず、大洋丸の接近に気付かなかったので、その旨を船長に報告せず、同船の進路を避けないまま続航した。
ところが、04時20分わずか前E指定海難関係人が、右舷船首至近に大洋丸の左舷側後部が迫るに及んで「船が衝突する。」と叫ぶや、D指定海難関係人が、これを聞いて海図室から飛び出し、右舵一杯、機関を停止としたが及ばず、海竜丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大洋丸は左舷船尾外板に破口を伴った凹損を生じ、海竜丸は船首外板に破口を伴った凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、三陸東方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、海竜丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切る大洋丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
海竜丸の運航が適切でなかったのは、船長の船橋当直者に対する自船に接近する他船の動静監視及びその接近状況についての報告の指示が十分でなかったことと、船橋当直者の他船の動静監視及びその接近状況の報告が行われなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
C受審人が、夜間、無資格者に船橋当直を行わせる場合、自船に接近する他船の動静監視及び船長への報告など船橋当直に関する適切な指示を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、漁労長が無資格であっても航海経験が豊かなことから、船橋当直を任せておけばよいものと思い、他船の動静監視及び船長への報告など船橋当直に関する適切な指示を行わなかった職務上の過失により、船橋当直者が動静監視を行わず、大洋丸の異常な接近状況の報告を受けられなかったので、衝突回避の措置をとれなかったことにより衝突を招き、大洋丸の左舷船尾外板を圧壊させ、また海竜丸の船首外板に破口を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、夜間、三陸東方沖合を漁場に向けて南下中、レーダーで左舷側に海竜丸を探知した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の動静監視を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、右舷前方に認めていた他船が後方に替わったので、付近には自船が避航船の立場となる他船が存在しないものと思い、左舷方に対しては特に気にもかけず、海竜丸の動静監視を行わなかった職務上の過失により、同船の接近に気付かず、警告信号を行わないまま、さらに衝突を避けるための協力動作をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D指定海難関係人が、大洋丸を視認したのち、無線電話による定例の各船との連絡等に気をとられて同船の動静監視を行わず、船長に同船の異常な接近状況を報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
D指定海難関係人に対しては、同人が見張りの重要性について十分反省している点に徴し、勧告しない。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
E指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION