日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年函審第39号
    件名
漁船第五十三志満丸漁船第五十八岩栄丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年9月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕
    理事官
熊谷孝徳

    受審人
A 職名:第五十三志満丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第五十八岩栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
志満丸…船首右舷側ブルワークに凹損
岩栄丸…右舷側外板に凹損、揚網機のドラムを破損

    原因
志満丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
岩栄丸…見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第五十三志満丸が、見張り不十分で、漁労に従事している第五十八岩栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第五十八岩栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月30日08時30分
北海道知床岬北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十三志満丸 漁船第五十八岩栄丸
総トン数 19トン 19トン
全長 22.20メートル
登録長 17.83メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190 180
3 事実の経過
第五十三志満丸(以下「志満丸」という。)は、刺網漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、A受審人ほか3人が乗り組み、きちじ及びほっけ刺網漁をする目的で、船首0.4メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成8年10月30日02時00分北海道目梨郡羅臼町の知円別漁港を発し、知床岬の北東方7海里ばかりの漁場に至り、数日前に設置したきちじ刺網1本を揚収してきちじ及びすけそうたら約500キログラムを漁獲し、同じ場所に別のきちじ刺網1本を投入したのち、前日設置したほっけ刺網を揚収することとし、08時15分知床岬灯台から048度(真方位、以下同じ。)7.0海里の漁場を発進し、ほっけ刺網漁の漁場に向かった。
A受審人は、単独で船橋当直に当たり、漁場発進と同時に針路をプロッターに記憶させていたほっけ刺綱の設置場所の方位である228度に定め、機関をほぼ全速力前進の10.0ノットの対地速力で、乗組員に船尾甲板で揚収した刺綱から漁獲物の取り外しと刺綱の整理を行わせながら進行した。
ところで、志満丸は、速力の上昇とともに船首が浮上し、全速力になると操舵室中央に立った位置から船首を中心として左右舷各15度ばかりの範囲の水平線が見えず、船首方に死角が生じる状況にあった。
08時27分少し過ぎA受審人は、知床岬灯台から048度5.0海里の地点に達したとき、正船首わずか左1,000メートルのところに第五十八岩栄丸(以下「岩栄丸」という。)を視認することができ、同船は漁労に従事していることを表示する形象物を掲げていなかったものの、その速力や漁場などから同船は同業船でほっけ刺網漁に従事していることが容易判断できる状況にあった。しかしながら、同人は、操舵室右舷側で椅子に腰を掛け、僚船と無線電話で漁模様について話をするのに気を奪われ、船首を左右に振るなどの船首方の死角を補う見張りを行わなかったので、前路に岩栄丸が存在することに気付かず、その進路を避けないまま続航し、僚船との通話を終えて前方を見たとき、近くに迫った相手船を認め、全速力後進としたが、及ばず、08時30分知床岬灯台から048度4.5海里の地点において、志満丸は、原針路、原速力のままの右舷船首が岩栄丸の右舷側前部に前方から57度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の南風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
また、岩栄丸は、刺網漁業に従事する中央船橋型の鋼製漁船で、B受審人ほか4人が乗り組み、きちじ及びほっけ刺網漁をする目的で、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同日02時20分知円別漁港を発し、前記の衝突地点付近でほっけ刺網1本を投入したあと、知床岬の北東方7海里ばかりの漁場に移動してきちじ刺網漁による操業を行ったのち、前記のほっけ刺網を揚収するためその投入開始地点に再び移動した。
ところで、岩栄丸のほっけ刺網による操業は、浮玉付きの瀬縄に錨と長さ30メートルの沈み瀬縄、更にその沈み瀬縄に高さ約7.5メートル、長さ約540メートルで上下にそれぞれ浮子(うき)と沈子(ちんし)の付いた刺網を取り付けて、投網は、15分から20分かけて水深の深い方から浅い方に向かって浮玉から順に投下し、揚網は、約20分かけて投入を開始した側から揚網機を使用して行うというものであった。
08時10分B受審人は、知床岬灯台から050度4.2海里の刺網の投入開始地点に至って揚網を開始し、乗組員を船首甲板で揚網作業に当たらせ、自らは船橋で揚網機を操作するとともに遠隔操作による操舵と機関を前後進に適宜かけて、南寄りの風波を船尾方向から受けるように船首方向をほぼ351度に保ち、刺網を投入した036度の方向に0.9ノットの対地速力で移動しながら揚網を行っていたところ、同時27分少し過ぎほぼ前記の衝突地点に達し、間もなく揚網を終えようとしていたとき、右舷船首57度1,000メートルのところに自船にほぼ向首して接近している志満丸を視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、揚網作業に気を奪われて右舷前方を見張っていなかったので、そのことに気付かず、その後志満丸が自船の進路を避けずに接近したが、依然右舷前方の見張りを不十分としたまま警告信号を行うことなく揚網を続けていたところ、船首甲板上の乗組員の叫び声で右舷前方を見たとき、至近距離に相手船を認めたが、どうすることもできず、岩栄丸は、351度を向首して前記のとおり衝突した。
衝突の結果、志満丸は船首右舷側ブルワークに凹損を生じ、岩栄丸は右舷側の前部から中央部にかけての外板に凹損を生じ、揚網機のドラムを破損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、北海道知床岬北東方沖合において、志満丸が、漁場を移動する際、見張り不十分で、漁労に従事している岩栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、岩栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に就いて北海道知床岬北東方沖合のほっけ刺網漁場に向けて航行する場合、全速力での航行により船首が浮上し、船首方に死角が生じていたのであるから、ほぼ正船首方で漁労に従事中の岩栄丸を見落とさないよう、船首を左右に振るなどの船首方の死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかし、同人は、僚船と無線電話で漁模様について話をするのに気を奪われ、船首を左右に振るなどの船首方の死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で漁労に従事していた岩栄丸に気付かず、その進路を避けないまま進行して同船との衝突を招き、志満丸の船首右舷側ブルワーク及び岩栄丸の右舷側外板にそれぞれ凹損を生じさせ、同船の揚網機のドラムを破損させるに至った。
B受審人は、北海道知床岬北東方沖合のほっけ刺網漁場において、揚網を行う場合、右舷前方から接近する志満丸を見落とさないよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、揚網作業に気を奪われて右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、志満丸が自船の進路を避けずに接近していることに気付かず、警告信号を行うことなく揚網を続けて同船との衝突を招き、両船に前記の損傷を生じさせるに至った。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION