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1998年(平成10年)

平成10年長審第13号
    件名
漁船喜修丸漁船達栄丸衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔
    理事官
酒井直樹

    受審人
A 職名:喜修丸航海士 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:達栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
喜修丸…左舷船尾外板に破口を生じたほか操舵室を圧壊、のち廃船処分
達栄丸…船底擦過傷及び推進器等に曲損

    原因
達栄丸…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
喜修丸…警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、達栄丸が、見張り不十分で、右舷側を無難に航過する態勢の喜修丸に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、喜修丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月17日10時45分
長崎県茂木港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船喜修丸 漁船達栄丸
総トン数 4.93トン 4.9トン
登録長 11.23メートル 11.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 80
3 事実の経過
喜修丸は、小型機船底びき網漁業に従事する全長12メートルを超えるFRP製漁船であるが、汽笛を装備しないまま、A受審人及び船長Cの2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.40メートル船尾0.50メートルの喫水をもって、平成8年9月17日10時20分長崎県茂木港を発し、同港南東方沖合6海里ばかりの漁場に向かった。
C船長は、10時26分右舷正横20メートルに茂木港沖防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)と並航したとき、機関を全速力前進にかけ、8.5ノットの対地速力とし、針路を153度(真方位、以下同じ。)に定めて自動操舵に切り換え、操船をA受審人に任せ、後部甲板上で漁網の修理を始めた。
こうして操船に就いたA受審人は、舵輪後ろのいすに腰掛けて見張りに当たり、同針路、同速力で進行中、10時41分防波堤灯台から153度2.3海里の地点に達したとき、左舷正横少し前方1.3海里ばかりのところで、それまで停留していた様子の達栄丸が南西方に航行を始めたことに気付き、次いで同時42分左舷船首76度1.0海里のところに同船を認め、その後同船の方位が少しずつ右方に変わり、同時44分左舷船首70度620メートルのところに同船を見て同船が自船の船首方を替わすものと判断して続航した。
10時44分少し過ぎA受審人は、同船との航過距離をより隔てるため機関を極微速力前進としたところ、左舷船首65度400メートルのところから同船がわずかずつ右転を始め、その後同船の方位にほとんど変化がなく急速に接近するのを認めて同船の動作に疑問を持ったものの、汽笛不装備で、警告信号を行うことができないまま、機関を中立運転として同船の動向を注視していたところ、同時45分わずか前達栄丸が左舷正横至近距離に迫ったとき、機関の音の変化に気付き操舵室に戻っていたC船長が、相手船は見張りをしていないから急いで前進するよう大声で叫んだので、機関を全速力前進とした。しかし、その効なく、10時45分防波堤灯台から153度2.8海里の地点において、喜修丸は、原針路のまま、行きあしがほとんど停止した状態で、その左舷船尾部に達栄丸の船首部が前方から60度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
また、達栄丸は、延縄漁業に従事する全長12メートルを超えるFRP製漁船で、B受審人が単独で乗り組み、たち魚漁の目的で、船首0.40メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日04時20分茂木港を発し、同港沖合から長崎県西彼杵郡三和町為石沖合にかけての漁場に向かった。
B受審人は、幹縄を陸岸とほぼ平行に投縄したのち、投入地点に引き返しては揚縄していたところ、当日3回目の揚縄を終え、4回目の投縄を為石沖合で行うこととし、10時41分防波堤灯台から126度2.9海里の地点を発進し、機関を全速力前進にかけて20.0ノットの対地速力とし、針路を230度に定め、前部甲板上で見張りと投縄の準備に当たりながら遠隔操舵により進行した。
ところで、達栄丸は、釣合い型単板舵を装備していたが、舵軸を取り外さずに推進器軸を抜き出すことができるよう、舵軸の中心を船首尾線から約6.5センチメートル右舷側に設置していたため、舵中央のままあて舵をとらずに航行すると、針路が徐々に右偏して短時間のうちに大きく右転する傾向にあった。
B受審人は、自船は十分な保針を行わなければ針路が右偏することを十分に承知しつつ、遠隔操舵により同一針路を保って続航中、10時42分右舷船首27度1.0海里のところに左方に向首する喜修丸を認めることができ、その後同船の方位が徐々に右方に変わり、同船を右舷側に100メートルばかり隔てて無難に航過できる態勢にあることを知ることができる状況にあったが、前方を一瞥(べつ)しただけで支障となる他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、同時44分喜修丸が右舷船首33度620メートルのところに存在していることに気付かないまま、舵中央として後部甲板上に移動して漁具の点検に当たった。
こうして達栄丸は、B受審人が漁具の点検中、10時44分少し過ぎから針路が徐々に右偏して保針がなされないまま、同時45分わずか前同人が操舵室に戻ったとき、喜修丸を船首至近に認めて驚いて機関を停止したが、原速力のまま船首が273度を向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、達栄丸の船体が喜修丸に乗り上がり、喜修丸は、左舷船尾部外板に破口を生じたほか操舵室を圧壊し、達栄丸は、船底擦過傷及び推進器等に曲損を生じたが、達栄丸は、のち修理され、喜修丸は、転覆して茂木港に曳(えい)航されたものの廃船処分とされた。また、A受審人及びC船長は、衝突直前に海中に飛び込み、僚船に救助された。

(原因)
本件衝突は、長崎県茂木港沖合の広い海域において、達栄丸が、見張り不十分で、保針がなされず、右舷側を無難に航過する態勢の喜修丸に対し、新たな衝突の危険のある関係を生じさせたことによって発生したが、喜修丸が、汽笛不装備で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、長崎県茂木港沖合の広い海域を漁場移動のために単独で運航に当たり、高速力で航行する場合、喜修丸を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、前方を一瞥しただけで支障となる他船はいないものと思い、周囲の見張りを怠った職務上の過失により、後部甲板上において漁具の点検に当たっている間に針路が右偏して無難に航過する態勢にあった喜修丸との衝突を招き、喜修丸を廃船とし、達栄丸の推進器曲損等を生じさせるに至った。
A受審人が、達栄丸の接近に疑問を持った際、警告信号を行えなかったことは、本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、喜修丸が汽笛を装備していなかった点に徴し、A受審人の職務上の過失とならない。

参考図






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