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1998年(平成10年)

平成10年長審第6号
    件名
漁船第18共漁丸プレジャーボートケンゴ?衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

原清澄、安部雅生、坂爪靖
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:第18共漁丸甲板員 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:ケンゴ?船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
共漁丸…左舷船首部に擦過傷
ケンゴ…右舷船首部を大破

    原因
共漁丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ケンゴ…注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第18共漁丸が、見張り不十分で、錨泊中のケンゴ?を避けなかったことによって発生したが、ケンゴ?が、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年1月12日14時00分
長崎県佐世保市黒島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第18共漁丸 プレジャーボートケンゴ?
総トン数 17.57トン
全長 8.50メートル
登録長 14.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 52キロワット
漁船法馬力数 180
3 事実の経過
第18共漁丸(以下「共漁丸」という。)は、網船1隻、灯船3隻及び運搬船3隻で構成される中型まき網漁業船団の灯船として操業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.50メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成9年1月12日13時20分長崎県佐世保市大潟町大崎を発し、多数の僚船とともに平戸島西方沖合の漁場に向かった。
発航後、A受審人は、船長と交代して1人で船橋当直に就き、操舵室中央からやや右舷寄りに置いたいすに腰掛けて操舵操船に当たり、九十九島湾大崎防波堤灯台を右舷側に航過したのち、機関の回転数を徐々に上げながら西進し、13時35分半牛ケ首灯台から172度(真方位、以下同じ。)320メートルの地点に達したとき、針路を272度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力で進行した。
ところで、A受審人は、平成8年5月から共漁丸に乗り組み、漁場往復時の単独船橋当直やレーダーの取扱いに慣れており、同船が全速力で航行すると、船首が浮上し、操舵位置から正船首左右にそれぞれ約10度の死角を生じて前方の見通しが妨げられるところから、全速力で航行するときには、時々船首を左右に振って船首死角を補う見張りを行うようにしていた。
定針後、A受審人は、一度だけ船首を左右に振って船首死角を補う見張りを行ったところ、前路には僚船以外に他船が見当たらなかったので、その後、肉眼とレーダーによる見張りを行い、自船の速力が遅いので僚船に遅れがちとなって続航した。
13時57分A受審人は、正船首920メートルのところに、錨泊中のケンゴ?(以下、「ケンゴ」という。)を視認でき、その後同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、一瞥(べつ)したレーダーには僚船以外に何も映っていなかったように見えたところから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、ケンゴの存在に気付かないまま進行した。
13時59分共漁丸は、ケンゴに300メートルまで接近したものの、依然A受審人が同船の存在に気付かず、同船を避けることができないまま続航中、14時00分黒島港沖防波堤東灯台から303度1.6海里の地点において、原針路、原速力のまま、その左舷船首がケンゴの右舷船首部に前方から約76度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北北東風が吹き、視界は良好であった。
また、ケンゴは、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、魚釣りを行う目的で、船首0.40メートル船尾0.70メートルの喫水をもって、同日07時00分佐世保市鹿子前町の係留地を発し、同市黒島北西方沖合の沖曽根に向かった。
07時35分ごろB受審人は、前示衝突地点付近に至り、機関を停止して水深約11メートルのところに錨を船首から投入し、錨索を約25メートル延出して船首をほぼ016度に向け錨泊したものの、錨泊中の船舶が表示する形象物を掲げないまま、操舵室上部のマストに黄色回転灯を点灯して右舷船尾部に座り、右舷船首方を見ながら魚釣りを始めた。
13時45分ごろB受審人は、東方から来航する数十隻の漁船群を認め、同漁船群を見守っていたところ、同時57分右舷船首76度920メートルばかりのところに、共漁丸を初認し、その後動静を監視して同船の方位が変わらず衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近することを知った。
13時59分B受審人は、共漁丸が自船を避航する気配を見せないまま300メートルまで接近したが、そのうち同船が錨泊中の自船を避けるものと思い、接近する共漁丸に対し、有効な音響による注意喚起信号を行わず、その後更に接近しても機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとることなく、様子を見ているうち、同船が依然自船を避航する気配を見せないまま右舷船首至近に迫ったので、衝突の危険を感じ、右舷船尾から海中に飛び込んだ直後、船首をほぼ016度に向けたまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、共漁丸は、左舷船首部に擦過傷を生じたのみであったが、ケンゴは、右舷船首部を大破し、のち修理された。また、B受審人は、共漁丸の僚船によって救助された。

(原因)
本件衝突は、長崎県佐世保市黒島北西方沖合において、航行中の共漁丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中のケンゴを避けなかったことによって発生したが、ケンゴが、有効な音響による注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、長崎県佐世保市黒島北西方沖合を1人で操船に当たって全速力で航行する場合、全速力航行中は船首が浮上して船首に死角を生じるから、前路の他船を見落とさないよう、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥したレーダーには僚船以外に何も映っていなかったように見えたところから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどの船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中のケンゴに気付かず、同船を避けることができないまま進行して衝突を招き、共漁丸の左舷船首部に擦過傷を生じさせ、ケンゴの右舷船首部を大破させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、長崎県佐世保市黒島北西方沖合の沖曽根において、錨泊して魚釣り中、衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近する共漁丸を認めた場合、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち同船が錨泊中の自船を避けるものと思い、機関を使用するなどの衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、そのまま錨泊を続けて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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