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1998年(平成10年)

平成9年門審第112号
    件名
貨物船第二対州丸漁船徹栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月31日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、清水正男、岩渕三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:第二対州丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:徹栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
対州丸…左舷船首外板に擦過傷
徹栄丸…錨索が切断して錨が回収不能、船首部防撓材、左舷船首の錨台及びいか釣り機に損傷

    原因
対州丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
徹栄丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、第二対州丸が、見張り不十分で、集漁灯を掲げて錨泊中の徹栄丸を避けなかったことによって発生したが、徹栄丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aに対しては懲戒を免除する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月2日22時45分
長崎県壱岐島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二対州丸 漁船徹栄丸
総トン数 186.66トン 4.90トン
全長 42.6メートル 13.6メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 441キロワット 235キロワット
3 事実の経過
第二対州丸(以下「対州丸」という。)は、福岡県博多港と長崎県対馬上島の比田勝港間を定期航路として週3便運航する、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空コンテナ8個を載せ、船首0.8メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成9年6月2日17時45分比田勝港を出港し、博多港に向かった。
発航時、A受審人は、法定の灯火を点灯し、単独で操舵と見張りに当たり、18時00分対馬上島の尉殿埼灯台から090度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点で、針路を小呂島の東側3海里に離す147度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で、自動操舵として進行した。
A受審人は、18時40分琴埼灯台から084度5.0海里の地点に達したところで、昇橋してきた甲板員に当直を行わせて降橋し、食事をとって自室に戻り、目覚し時計をかけて就寝したのち、21時30分に起床して昇橋し、同時40分沖ノ島灯台から238度12.4海里の地点で、甲板員から当直を引き継ぎ、再び単独で船橋当直に就いた。
21時55分A受審人は、正船首わずか左方8海里に、徹栄丸と認められるいか釣り漁船の集魚灯の光芒(こうぼう)と船首方左右に多数のいか釣り漁船群の集魚灯を視認し、その後6海里レンジとしたレーダーを見て、海潮流の影響を考えないまま、徹栄丸をこのままの針路で左舷側0.2海里離して無難に通航できるものと思い、レーダーにより、これらの漁船群間を航行する小型船を見付けることに気を取られ、前方の見張りを十分に行うことなく、折からの東北東に向かう海潮流により、少し左方に圧流されながら南下した。
A受審人は、22時39分小呂島港西防波堤灯台(以下「小呂島灯台」という。)から348度8.4海里の地点に達したとき、正船首1海里に錨泊していか釣り漁に従事している、徹栄丸の掲げる多数の集漁灯を認められる状況にあったが、依然、見張りが不十分で、これに気付かず、その後衝突のおそれがある態勢で同船に接近していたものの、同船を避けることなく続航した。
22時45分わずか前A受審人は、左舷船首間近に徹栄丸の集魚灯の白灯を認めたが、どうすることもできず、22時45分小呂島灯台から352度7.5海里の地点において、対州丸は、原針路、原速力のまま、その左舷船首が徹栄丸の船首に前方から77度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には約1ノットの東北東に向かう海潮流があった。
A受審人は、衝突後、徹栄丸の灯火が異常なく後方に離れるのを見て、衝突しなかったものと思い、その状況を確かめないまま航行していたところ、同船が追跡してきたので、23時25分機関を停止して衝突の事実を確かめるなどの事後措置に当たった。
また、徹栄丸は、一本的り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が父親と乗り組み、いか釣り漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同月2日16時30分長崎県壱岐島の勝本港を出港し、同島北東沖合の漁場に向かった。
17時10分ごろB受審人は、目的の漁場に着き、魚群探知器でいかを探索したのち、19時ごろ小呂島灯台から336度9.4海里の地点で投錨していか釣り漁を始めたものの、釣果が得られなかったので、同時10分揚錨して漁場を移動し、同時25分水深約80メートルの前示衝突地点に至り、左舷船首の錨台から、直径19ミリメートルの合成繊維製錨索の付いた、重さ約65キログラムの二爪錨を投じ、これを130メートル延ばして錨泊した。B受審人は、主機関に直結した発電機を動かすため機関を中立としたうえ、船首マストと操舵室前部マスト間に張り合せた、甲板上の高さ1.85メートルのワイヤーに吊した集魚灯10個と、操舵室後部マストと船尾マスト間に張り合せた、甲板上の高さ2.00メートルのワイヤーに吊した集魚灯5個の、いずれも3キロワットのものをそれぞれ点灯し、また、操舵室上部マストで、甲板上の高さ4.20メートルのところにある、紅色全周灯1個及びその下方0.90メートルのところにある紅色全周灯1個をそれぞれ点灯した。そして、B受審人は、父親を操舵室前部の右舷側の船首甲板に位置させ、自らは同室後部左舷側の船尾甲板に立ち、前後部左右舷に各1個設置したいか釣り機4台を稼動し、船首を250度に向けたまま、父親とてぐすによる釣りも併せていか釣りを再開した。
ところが、B受審人は、多数の集魚灯を掲げているから、航行船舶の方が自船を見て避けてくれるから大丈夫と思い、22時39分船首を250度に向けた状態でいか釣り漁を操業中、右舷船首77度1海里のところから、自船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近する対州丸を認められる状況にあったが、周囲の見張りを十分に行わなかったので同船に気付かず、その後更に接近しても音響などによる注意喚起信号を行わなかった。
B受審人は、見張り不十分のまま、いか釣り漁を続けているうち、22時45分少し前、父親からの大声の知らせで、自船の右舷船首に向かって至近に迫った対州丸を初めて視認し、急いで機関を後進一杯にかけて少し後退したが及ばず、徹栄丸は、250度に向いた船首が、対州丸に前示のとおり衝突した。
B受審人は、対州丸がそのまま行き過ぎるのを見て、同船を追い掛け、船名を確かめたのち同船を停船させ、衝突の事実を知らせるなどの事後措置に当たった。
衝突の結果、対州丸は、左舷船首外板に擦過傷を生じ、徹栄丸は、錨索が切断して錨が回収不能となり、船首部防撓(とう)材、左舷船首の錨台及びいか釣り機に損傷を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、壱岐島北東方沖合において、航行中の対州丸が、前方の見張り不十分で、前路で集魚灯を掲げて錨泊中の徹栄丸を避けなかったことによって発生したが、徹栄丸が、周囲の見張りが不十分で、音響などによる注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、いか釣り漁船等の操業漁船の多い壱岐島北東方沖合を航行する場合、前路で操業する他船の灯火を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、徹栄丸と認められるいか釣り漁船の集魚灯を正船首少し左方に認め、作動中のレーダーでもその映像を確かめていたものの、海潮流の影響を考えないまま、左方に無難に通航できるものと思い、レーダーでいか釣り漁船群間を航行する小型船を見つけることに気を取られ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、少し左方に流されて前路で集魚灯を掲げて錨泊中の徹栄丸に接近していることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、自船の左舷船首外板に擦過傷を生じさせるとともに、徹栄丸の錨索を切断して錨を回収不能とし、その船首部防撓材、左舷船首の錨台及びいか釣り機を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)(旧就業範囲)の業務を1箇月停止すべきところ、同人が多年にわたり船員として職務に精励し海運の発展に寄与した功績により、平成2年7月20日運輸大臣から表彰された閲歴に徴し、同法第6条の規定を適用してその懲戒を免除する。
B受審人は、夜間、壱岐島北東方沖合において、錨泊していか釣り漁を操業中、周囲の見張りを十分に行わず、接近する対州丸に対して注意喚起信号を行わなかったことは、本件発生の一因となる。
しかしながら、B受審人は、当時、周囲から明らかに認めることができる集魚灯15個を点灯していたこと、機関を後進にかけて衝突を避けるための措置をとった点に徴し、同人の職務上の過失と認めない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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