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1998年(平成10年)

平成9年門審第27号
    件名
漁船広宣丸プレジャーボート第2敏丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、清水正男、岩渕三穂
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:広宣丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:第2敏丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
広宣丸…船首の塗装が一部剥離
敏丸…広宣丸の船首波にあおられて転覆、船外機及び電気系統に濡損

    原因
広宣丸…有資格者を乗り組ませず、見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
敏丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、広宣丸が、有資格者を乗り組ませなかったばかりか、見張り不十分で、錨泊中の第2敏丸を避けなかったことによって発生したが、第2敏丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの二級小型船舶操縦士(5トン限定)の業務を1箇月停止する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年5月15日14時40分
鹿児島県鹿児島港
2 船舶の要目
船種船名 漁船広宣丸 プレジャーボート第2敏丸
総トン数 14.57トン
全長 17.20メートル 5.61メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 433キロワット 22キロワット
3 事実の経過
広宣丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、船長C、A受審人及び同受審人の長男が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成7年5月12日07時00分鹿児島県鹿児島港魚市場前岸壁を発し、大隅群島竹島南方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、同日13時ごろ漁場に着いて操業していたところ、C船長が風邪で体調を崩したので急遽(きょ)下船させるため、14日一旦操業を中断し、同日12時ごろ鹿児島県枕崎漁港に寄港して同船長を下船させたのち、有資格の船長を乗り組ませることなく、資格の満たない同受審人自らが船長として乗り組み、再び漁場に戻って操業を続け、鯛(たい)500キログラムを漁獲して操業を打ち切り、150900分鹿児島港へ向けて帰港の途についた。
ところで、広宣丸の操舵室は、船体のほぼ中央部に位置して上段と下段に二室ある構造で、下段の操舵室には操縦装置及び計器類が装備され、上段の操舵室には下段の操舵室内の階段を使って昇降し、リモートコントロールスイッチで舵と機関の操作ができるようになっていた。
A受審人は、平素、下段の操舵室で操舵と見張りに当たっていたが同室中央の位置に立って見張りに当たると、航走中に船首が浮き上がり、船首から左右15度ばかりの範囲が死角となって前方の見通しが妨げられることから、船首を左右に振るなり、上段の操舵室に昇って見張りをするなどして死角を補う見張りをしていた。
12時54分A受審人は、知林島灯台から072度(真方位、以下同じ。)370メートルの地点において、針路を342度に定め、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力とし、甲板員の長男を船員室で休ませて単独で船橋当直に就き、下段の操舵室で3海里レンジにしたレーダーを時折見ながら自動操舵で進行した。
A受審人は、14時14分鹿児島港谷山2区南防波堤灯台から079度3.3海里の地点で操舵を手動に切り替え、14時35分神瀬灯台から190度1.0海里の地点に達したとき、第2敏丸(以下「敏丸」という。)を正船首1,480メートルのところに視認し得る状況であったが、風が強いので小さな船は沖には出ていないものと思い、また、そのころ左舷船首方に反航船を、右舷船首方に停泊船をそれぞれ認めてこれらの船舶に気を取られ、船首を左右に振ったり、上段の操舵室に昇って操船するなどして前方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、船首死角内の敏丸に気付かず、その後同船と衝突のおそれのある態勢で接近していたが、これを避けることなく続航した。
14時38分少し過ぎA受審人は、敏丸に正船首600メートルに接近したが、依然見張り不十分でこれに気付くことなく進行中、14時40分神瀬灯台から239度930メートルの地点において、広宣丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、その左舷船首が、敏丸の船首に、ほとんど真向かいで衝突した。
当時、天候は曇で風力4の西風が吹き、視界は良好であった。
また、敏丸は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同月15日13時30分鹿児島港南港を発し、神瀬南西方の釣場に向かった。
B受審人は、13時40分ごろ神瀬灯台から239度930メートルの水深20メートルの釣場に至り、重さ6キログラムの二爪錨に直径約10ミリメートルの化学合成繊維製の錨綱を取り付けて投じ、同綱を約50メートル延ばして船首のクロスビットに係止し、船体中央部の魚群探知器を囲った高さ1メートル程の物入れ庫の前に立てた、高さ1.55メートルのマストの先端に所定の形象物である黒球を掲げ、折からの潮流に船首を163度に向けて機関を停止し、同物入れ庫の左舷後方に高さ30センチメートルのプラスチック製の箱を置いてこれに腰を掛け、船尾方を向いて右手でてぐすを操って鯛釣りを始めた。
14時38分少し過ぎB受審人は、正船首600メートルのところに、衝突のおそれのある態勢で接近する広宣丸を認められる状況にあったが、手釣りの間、前方、正横及び斜め後ろの見張りは行ったものの、後方にあたる船首方の見張りを十分に行わなかったので、接近して来る広宣丸に気付かず、有効な音響による注意喚起信号を行わなかった。
14時40分少し前B受審人は、ふと後ろを振り向いたところ、正船首至近に迫った広宣丸に気付いたが、既にどうすることもできず、敏丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、広宣丸は、船首の塗装が一部剥(はく)離し、敏丸は、広宣丸の船首波にあおられて転覆し、船外機及び電気系統に濡損を生じたが鹿児島海上保安部の巡視艇により鹿児島港鴨池港に引き付けられ、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、鹿児島港において、北上中の広宣丸が有資格者を乗り組ませなかったばかりか、見張り不十分で、錨泊中の敏丸を避けなかったことによって発生したが、敏丸が、見張り不十分で、有効な音響による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、大隅群島の竹島南方沖合で操業中、体調を崩した有資格の船長を途中で下船させた際、有資格者を乗り組ませず、資格の満たない自らが船長として広宣丸を操船したばかりか、鹿児島港内を北上中、自船の船首から左右15度ばかりの範囲が死角になって前方の見通しが妨げられる状況にあったから、同港内の停泊船や錨泊する釣り船などを見落とすことのないよう、船首方の見通しのよい上段の操舵室に昇って見張りに当たるなど、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、風が強いから小さな船は出ていないだろうと思い、反航船と他の停泊船に気を取られ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で錨泊中の敏丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、同船を転覆させて船外機及び電気系統に濡損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級小型船舶操縦士(5トン限定)の業務を1箇月停止する。
B受審人は、鹿児島港において錨泊して魚釣りをする場合、港内は出入港船が多いから、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、魚釣りに気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する広宣丸に気付かず、同船に対して、有効な音響による注意喚起信号を行うことなく同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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