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1998年(平成10年)

平成9年横審第110号
    件名
貨物船弘陽丸漁船長榮丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

半間俊士、川原田豊、西村敏和
    理事官
長谷川峯清

    受審人
A 職名:弘陽丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:長榮丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
弘陽丸…船首部に凹損など
長榮丸…船尾部を圧壊ほか

    原因
弘陽丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
長榮丸…動静監視不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、弘陽丸が見張り不十分で、漁ろうに従事中の長榮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、長榮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月17日15時10分
静岡県浜名港沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船弘陽丸 漁船長榮丸
総トン数 499トン 14トン
全長 75.33メートル
登録長 17.45メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
弘陽丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,578トンを載せ、船首3.70メートル船尾4.70メートルの喫水をもって、平成9年2月15日15時30分茨城県鹿島港を発し、本州南岸を西行して大阪港に向かったが、低気圧の接近に伴う荒天のため、翌16日静岡県御前崎港において避泊し、低気圧が通過したのち、翌17日11時20分同港を抜錨して、大阪港に向け航行を再開した。
A受審人は、抜錨時から単独で船橋当直に就き、御前埼を経て遠州灘に出たところ、北西風が強く時化模様であったため、陸岸寄りの進路をとることにし、12時05分御前埼灯台から180度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点において、針路を280度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.4ノットの対地速力で、自動操舵により進行し、13時50分掛塚灯台から132度3.4海里の地点に達して、針路を270度に転じた。
ところが、そのころ、船首方向から西日が差すようになって、操舵室前面の窓ガラスに打ち上げた波しぶきが乾いて白く曇り、前方が見えにくくなっており、真水で洗い流して見通しをよくしたうえで見張りに当たらないと、接近する他船を見落とすおそれのある状況となっていた。
A受審人は、操舵室左舷前部の椅子に腰を掛けて操船に当たり、時折、レーダーで陸岸との距離を測定しながら進行し、15時00分舞阪灯台から176度4.0海里の地点において、ほぼ正船首1.2海里のところに、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物(以下「鼓形形象物」という。)を掲げた漁ろう中の長榮丸を視認し得る状況であったが、海上は時化模様なので漁船は出漁していないものと思い、このころ舞阪灯台を右舷正横に並航した旨日誌に記入し、転針予定地点に近づき、レーダーで船位を確認することに専念していたことから、時折、見えにくくなっていた窓越しに前方を見るだけで、同窓を真水で洗い流して見通しをよくするなり、レーダーを有効に活用するなどして、前路の見張りを十分に行なわず、その後衝突のおそれのある態勢で接近していたことに気付かないまま、続航した。
こうしてA受審人は、長榮丸の進路を避けることなく進行し、15時10分少し前、船首至近に迫った長榮丸を初めて認め、衝突の危険を感じて、直ちに左舵をとったものの、その効なく、15時10分舞阪灯台から200度4.2海里の地点において、弘陽丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、長榮丸の船尾に後方から右舷側に2度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、視界は良好であった。
また、長榮丸は、船尾に櫓(やぐら)を備えた、専ら小型機船底びき網漁業に従事する軽合金製漁船で、B受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.35メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、同月17日02時愛知県西幡豆漁港を発し、静岡県浜名港沖合の漁場に向かった。
B受審人は、04時30分ごろ同漁場に到着し、自ら操船及び操業の指揮に当たり、操舵室上部のマストに鼓形形象物を掲げ、船尾甲板に設置されたリールウインチから、引き綱を船尾両舷側にそれぞれ繰り出し、これと網口に開口板を取り付けた袖網及び袋網を連結した漁具を使用して、トロールにより1回に約1時間15分を要する操業を数回行い、あじやかますなど約300キログラムを漁獲したところで、14時10分舞阪灯台から157度4.5海里の地点において、引き綱を約650メートル繰り出し、袋網の後端までの長さを約800メートルとし、針路を水深約80メートルの等深線に沿った272度に定め、機関回転数毎分1,450として3.2ノットの対地速力で、手動操舵によりえい網を開始した。
B受審人は、甲板員をレーダー見張りに就け、自らは手動操舵に当たり、14時45分舞阪灯台から181度4.0海里の地点において、同甲板員から「正船尾約3海里に接近中の他船のレーダー映像を認めたので注意を要する。」旨の報告を受けたが、操業中は他船の方が避航してくれると思い、同甲板員に対し、引き続き動静を監視するよう指示せず、また、同甲板員が休息をとってレーダー見張りを離れたのち、自ら動静を監視することもなくえい網を続けた。
B受審人は、15時00分同灯台から193度4.1海里の地点に達したとき、右舷船尾3度1.2海里のところに、弘陽丸が衝突のおそれのある態勢で接近していたが、前方の見張りにのみ気をとられ、同船のことを失念して、その接近に気付かず、警告信号を行うことなくえい網を続け、長榮丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、弘陽丸は、船首部に凹損などを生じ、長榮丸は、船尾部を圧壊したほか左舷側の引き綱を切断するなどの損傷を生じたが、のち長榮丸は修理された。

(原因)
本件衝突は、静岡県浜名港沖合の遠州灘において、西行中の弘陽丸が、見張り不十分で、法定の形象物を表示してトロールにより漁ろうに従事している長榮丸の進路を避けなかったことによって発生したが、長榮丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、静岡県浜名港沖合の遠州難を西行中、船首方向から西日が差すようになって、操舵室前面の窓ガラスに打ち上げた波しぶきが乾いて白く曇り、前方が見えにくくなっていた場合、接近する他船を見落とさないよう、窓ガラスを洗って見通しをよくするなり、レーダーを有効に活用するなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、海上は時化模様なので漁船は出漁していないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、法定の形象物を表示して漁ろうに従事している長榮丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、弘陽丸の船首部に凹損及び長榮丸の船尾部を圧壊するなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、静岡県浜名港沖合の遠州灘において、法定の形象物を表示してトロールにより漁ろうに従事中、レーダーで他船の映像を認めた場合、接近するかどうかを判断できるよう、その動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、操業中は他船の方が避航してくれると思い、前方の見張りにのみ気をとられて同船の存在を失念し、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、弘陽丸が後方から接近していることに気付かず、警告信号を行わないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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