日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年函審第24号
    件名
漁船金吉丸プレジャーボートトムクルーズ衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年8月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕
    理事官
副理事官 堀川康基

    受審人
A 職名:金吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:トムクルーズ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
金吉丸…損傷なし
トムクルーズ…左舷側中央部に破口、のち廃船

    原因
金吉丸…見張不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
トムクルーズ…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、金吉丸が、見張不十分で、錨泊中のトムクルーズを避けなかったことによって発生したが、トムクルーズが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月3日16時10分
小樽市高島岬東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船金吉丸 プレジャーボートトムクルーズ
総トン数 19トン
全長 23.00メートル 6.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 558キロワット 44キロワット
3 事実の経過
金吉丸は、専らいか一本釣り漁業に従事する中央船橋型のFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、氷4トンを載せ、船首0.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成9年8月3日15時58分小樽港北側の高島地区を発航し、高島岬北北西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、漁場が2時間余りで到着するところであったことから、目的地まで船橋当直を行うつもりで発航時から単独で操船にあたり、16時01分小樽港高島北防波堤灯台から103度(真方位、以下同じ。)80メートルの地点で、針路を023度に定め、機関を全速力前進にかけて10.5ノットの対地速力とし、同時04分半針路を002度としたあと、同時05分少し過ぎ日和山灯台から160度1海里の地点で、354度に転じ、操舵室右舷寄りに立って手動操舵により進行した。
ところで、A受審人は、全速力で航行すると金吉丸の船首が浮上し、操舵室の見張り位置からは、立った姿勢でも船首部ブルワーク上に渡したかんぬきの陰となる両舷20度ばかりの範囲が水平線を見ることができず死角となることから、いつもはレーダーを見たり、船首を左右に振るなどしてその死角を補うようにしていた。
A受審人は、転針して間もなく、茅柴岬に並航したころ、高島岬東方沖合の自船の進路上の左右近くにそれぞれ一群となって帆走中の小型ヨットを認め、それらの動向に留意しながら北上していたところ、16時08分半日和山灯台から131度730メートルの地点に達したとき、左右のヨットのほぼ中間にあたる正船首500メートルのところにトムクルーズが存在し、同船は所定の形象物を表示していなかったものの、その錨索(びょうさく)などから錨泊(びょうはく)中であることを視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、左右のヨットの動向に気をとられて、1.5海里レンジとしていたレーダーを見たり、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを行っていなかったので、そのことに気付かず、トムクルーズを避けないまま続航中、16時10分日和山灯台から089度460メートルの地点において、金吉丸は、原針路、原速力のまま、その船首がトムクルーズの左舷側中央部に後方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で、視界は良好であった。
A受審人は、船首部に衝撃を感じて側方を見たとき、ヨットの指導船が旋回しているのを認め、同船に衝突したものと思い、停止のうえ引き返して確かめたところ、トムクルーズと衝突したことを知った。
また、トムクルーズは、キャビンを有しないFRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、友人3人を乗せ、釣りをする目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同3日11時00分新川河口寄りの定係場所を発航し、小樽港沖合に至り、移動しながら釣りを行った。
15時50分B受審人は、前示の衝突地点に移動して機関を停止し、水深20メートルばかりのところに船首から錨を投下して錨索30メートルを延出して錨泊のうえ、漂泊中であることを表示する形象物を掲げないまま釣りを開始した。
16時03分B受審人は、船首が294度を向首した左舷船尾部の燃料タンクスペース上に腰掛けて釣りを行っていたとき、左舷船尾67度1.2海里のところに、数隻のいか釣り漁船の最後尾に付けて北上中の金吉丸を初認し、同時05分少し過ぎ同船が左舷船尾60度1,500メートルとなったのち、自船に向首して接近するのを認めた。
16時08分半B受審人は、金吉丸が同方位のまま500メートルとなり、その後同船は自船を避けずに衝突のおそれのある態勢で接近を続けたが、金吉丸に先航していたいか釣り漁船が祝津漁港沖合付近で転舵して自船を替わしていたことから、金吉丸もそれらと同様に転舵して避航するものと思い、釣りに気を奪われて同船の動静を十分に監視していなかったので、そのことに気付かず、警告信号を行うことも、機関を起動のうえ前進にかけて衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続けた。そして、同人は、同時10分わずか前顔を上げたとき、左舷方至近に迫った相手船を認めたが、どうすることもできず、同乗者に「飛び降りろ。」と叫び、自らも同乗者と共に海中に飛び込んだ直後に294度を向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、金吉丸には負傷はなかったが、トムクルーズは左舷側中央部に破口を生じ、金吉丸によって小樽港高島地区に引き付けられたが、のち廃船とされ、海中に飛び込んで逃れた4人はヨットの指導船に全員救助された。

(原因)
本件衝突は、小樽市高島岬沖合において、金吉丸が、見張不十分で、錨泊中のトムクルーズを避けなかったことによって発生したが、トムクルーズが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は単独で船橋当直に就いて小樽市高島岬東方沖合を航行する場合、全速力での航行により船首が浮上し、船首方に死角が生じていたのであるから、正船首方で錨泊中のトムクルーズを見落とさないよう、レーダーを見たり、船首を左右に振るなどして船首方の死角を補う見張りを行うべき注意義務があった。しかし、同人は、進路上の左右で一群となって帆走中の小型ヨットの動向に気をとられて、船首方の死角を補う見張りを行わなかった職務上の過失により、正船首方で錨泊中のトムクルーズに気付かず、同船を避けずに進行して同船との衝突を招き、同船の左舷側中央部に破口を生じさせるに至った。
B受審人は、小樽市高島岬東方沖合において錨泊中、左舷方に自船に向首して接近する金吉丸を認めた場合、衝突のおそれのなくなるまでその動静を十分に監視すべき注意義務があった。しかし、同人は、同船に先航していたいか釣り漁船が祝津漁港沖合付近で転舵して自船を替わしていたことから、金吉丸もそれらと同様に転舵して避航するものと思い、釣りに気を奪われて同船の動静を十分に監視していなかった職務上の過失により、同船が自船を避けずに接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとらないまま釣りを続けて金吉丸との衝突を招き、自船の左舷側中央部に破口を生じさせるに至った。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION