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1998年(平成10年)

平成9年広審第83号
    件名
旅客船しらとり漁船蛭子丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月1日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奬一、杉?忠志、黒岩貢
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:しらとり船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:蛭子丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士(5トン限定)
    指定海難関係人

    損害
しらとり…船首船底部に破口を伴う損傷
蛭子丸…船尾部に亀裂を伴う損傷、船長が背腰部打撲捻挫傷

    原因
しらとり…見張り不十分、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
蛭子丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、しらとりが、見張り不十分で、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、蛭子丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月28日00時20分
来島海峡東水道
2 船舶の要目
船種船名 旅客船しらとり 漁船蛭子丸
総トン数 12トン 4.9トン
登録長 11.77メートル 11.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 294キロワット
漁船法馬力数 15
3 事実の経過
しらとりは、主に愛媛県今治港と同県越智郡吉海町の下田水漁港間の旅客輸送に従事する船体中央部に操舵室を有するFRP製の旅客船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、平成8年12月28日00時18分ヒナイ鼻導灯(後灯)から094度(真方位、以下同じ。)370メートルの地点にある下田水漁港の浮き桟橋を発し、今治港に向かった。
ところで、同漁港は、南西方に張り出した臥間鼻の東側の入江に位置し、浮き桟橋を離桟して来島海峡東水道に向け南西進する船舶は、臥間鼻の陸地に遮ぎられて、同鼻西側と、その西方にある武志島との間の狭い水路を東水道に向けて南東進する船舶を近くになるまで視認することができず、また視認後東水道のこれらの船舶が合流点(以下「合流点」という。)に至るまでの距離が短いことから臥間鼻を挟んで南下する両船舶は、互いに相手船を見落とすことのないように見張りを十分に行って航行することが要求される海域であった。
こうしてA受審人は、00時18分45秒ヒナイ鼻導灯(後灯)から117度370メートルの地点に達したとき、針路を212度に定め機関回転数を徐々に上げながら12.8ノットの平均速力で、航行中の動力船の灯火を掲げて東水道に向けて進行した。
このころA受審人は、右舷船首33480メートルのところに、臥間鼻西側の水路を東水道の合流点に向け南東進中の蛭子丸の白紅2灯を視認し得る状況となったが、右舷方を一瞥(べつ)しただけで、同方向の見張りを十分に行うことなく、右舷首方約300メートルのところに、折から来島大橋建設工事現場周辺海域の警備にあたっている警戒船の方向にのみ気を取られながら進行し、蛭子丸との接近に気付かなかった。
00時19分30秒A受審人は、ヒナイ鼻導灯(後灯)から156度440メートルの地点に達したとき、右舷船首28度240メートルのところに、自船の前路に向け、南東進中の蛭子丸の灯火を視認し得る状況となり、その方位が次第に前方に向けて変化し、無難に替わる態勢となって接近していたが、依然、見張り不十分で、この態勢に気付かず、その直後前示警戒船を右舷正横方に航過したころ、18.0ノットの速力に達し、その後方位の変化が認められない状態となって続航し、直進を続けていた蛭子丸と新たな衝突のおそれを生じさせたが、このことに気付かず、直ちに減速するなど衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
00時20分少し前A受審人は、右舷船首方至近に蛭子丸の船体を初めて認め、あわてて右舵一杯としたが、及ばず、しらとりは、00時20分ヒナイ鼻導灯(後灯)から178度650メートルの地点で、船首が222度を向いたとき、原速力のままその船首が蛭子丸の左舷側後部に後方から67度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は満潮時であった。
また、蛭子丸は、底びき網漁に従事する船体のほぼ中央部に操舵室を有する登録長11.87メートルのFRP製の漁船で、B受審人が1人で乗り組み、船首0.1メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同月27日21時ごろ今治港第2区片原を発し、来島海峡の北部の愛媛県津島南方海域の漁場に至り操業を終えた後、帰途につくこととした。
翌28日00時16分45秒B受審人は、ヒナイ鼻導灯(後灯)から288度320メートルの地点に達したとき、針路を臥間鼻西側の狭い水路にほぼ沿う155度に定めて手動操舵とし、機関を8.4ノットの全速力前進にかけ、航行中の動力船の灯火を掲げて、東水道の前示合流点に向けて進行した。
00時18分45秒B受審人は、ヒナイ鼻導灯(後灯)から196度370メートルの地点に達したとき、ほぼ左舷正横480メートルのところに臥間鼻南端を替わって東水道の前示合流点に向け南西進中のしらとりの白緑2灯を視認し得る状況となったが、左舷方の見張りを十分に行うことなく、前方の見張りにのみ気を取られて航行し、しらとりとの接近に気付かなかった。
00時19分30秒B受審人は、ヒナイ鼻導灯(後灯)から183度530メートルの地点に達したとき、ふと左舷正横方を振り向いたとき、左舷正横後5度240メートルのところに南西進中のしらとりの白緑2灯を初めて視認し、若干航過距離が近すぎるとは感じたものの、一瞥しただけで何とか自船の後方を替わるものと思い続航し、その直後しらとりが増速して、その後方位の変化がなくなり、新たな衝突のおそれのある態勢となって接近したが、依然、見張り不十分で、この態勢に気付かず、直ちに機関を停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行中、同時20分少し前、至近に迫ったしらとりを認めたものの、どう対処することもできず、蛭子丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、しらとりは船首船底部に破口を伴う損傷を、蛭子丸は、船尾部に亀(き)裂を伴う損傷を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人は、衝突の衝撃により、約2箇月の入院加療を要する背腰部打撲捻挫傷を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、来島海峡東水道において、下田水漁港を発航後同海峡東水道に向けて南西進中のしらとりが、見張り不十分で、新たな衝突のおそれを生じさせたばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、臥間鼻西側の狭い水路を同海峡東水道に向けて南東進中の蛭子丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、下田水漁港を発航後来島海峡東水道に向けて南西進する場合、臥間鼻の陸地に遮えぎられて、同鼻西側の水路を同海峡東水道に向け南東進する蛭子丸を近くになるまで視認することができず、合流点に至るまでの距離が短かかったから、同船を早期に発見できるよう、右舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、折から来島大橋建設工事現場周辺の警備にあたっている警戒船の方向にのみ気を取られながら航行し、右舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、蛭子丸の接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、しらとりの船首船底部に破口を伴う損傷及び蛭子丸の船尾部に亀裂を伴う損傷とB受審人に背腰部打撲捻挫傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、臥間鼻西側の水路を来島海峡東水道に向けて南東進する場合、臥間鼻の陸地に遮えぎられて、下田水漁港を発航して同海峡を南西進するしらとりを近くになるまで視認することができず、合流点に至るまでの距離が短かかったから、同船を早期に発見できるよう、左舷方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方の見張りにのみ気を取られて航行し、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、しらとりの接近に気付かず、衝突を避けるための措置をとることができないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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