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1998年(平成10年)

平成9年神審第106号
    件名
貨物船第八福丸貨物船ウルサンパイオニア衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、工藤民雄、清重隆彦
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:第八福丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第八福丸二等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
福丸…船首部に凹損
ウ号…左舷中央部外板に凹損

    原因
福丸…動静監視不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
ウ号…見張り不十分、警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八福丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るウルサンパイオニアの進路を避けなかったことによって発生したが、ウルサンパイオニアが、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成6年11月19日03時03分
鳴門海峡北方
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八福丸 貨物船ウルサンパイオニア
総トン数 435トン 693トン
全長 58.015メートル 68.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット 956キロワツト
3 事実の経過
第八福丸(以下「福丸」という。)は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、A及びB両受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.8メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成6年11月17日18時30分京浜港横浜区を発し、岡山県水島港に向かった。
A受審人は、発航後、船橋当直を4時間交替の3直制とし、自らは毎8時から12時までの時間帯に入り、翌18日23時40分ごろ日ノ御埼沖で、次直のB受審人と交替する際、視界が良く、鳴門海峡通峡時は転流時にあたるので、同人に同海峡における操船を行わせることとし、不安を感じたときには速やかに報告するよう指示して降橋した。
単独で船橋当直に就いたB受審人は、翌19日02時50分大鳴門橋下を航行中、孫埼灯台から093度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点に達したとき、針路を341度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、9.2ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
B受審人は、定針したとき右舷船首9度1,100メートルのところにウルサンパイオニア(以下「ウ号」という。)の白1灯を初めて認め、これを自船より低速力の同航船の船尾灯と判断し、やがて鳴門海峡最狭部を通過し02時58分孫埼灯台から359度1.2海里の地点で針路を334度に転じ、ウ号の左舷側を無難に航過できるものと思って北上を続けた。
02時58分半B受審人は、ウ号を右舷船首51度680メートルに見るようになったとき、同号が左転して自船の前路を左方に横切る態勢となり、その後方位が変わらずに接近し、衝突のおそれがあったが、無難に追い越せるものと思い、左舷船尾から迫ってくる第三船に気をとられ、ウ号の動静監視を十分に行っていなかったのでこのことに気付かず、速やかに機関を停止するなどして同号の進路を避けなかった。
こうしてB受審人は、操舵室左舷側で船尾方を向き第三船の動向を見守り、同じ針路、速力のまま続航中、03時03分孫埼灯台から349度1.9海里の地点において、福丸は、その船首が、ウ号の左舷中央部に後方から34度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
自室で休息していたA受審人は、減速したことに気付き、窓から外を見て相手船を至近に認め、急ぎ昇橋して衝突を知り、事後の措置に当たった。
また、ウ号は、船尾船橋型のケミカルタンカーで、船長C及び二等航海士Dほか10人が乗り組み、ソプタノールなど1,019トンを載せ、船首3.6メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、同月17日14時30分京浜港川崎区を発し、中華人民共和国シャンハイ港に向かった。
C船長は、翌々19日02時25分ごろ大鳴門橋南方2.5海里付近で昇橋して操船指揮を執り、D二等航海士を見張りに、また操舵手を操舵にそれぞれ当たらせて北上し、同時45分孫埼灯台から093度700メートルの地点に達したとき、針路を350度に定めて7.2ノットの対地速力で進行した。
02時58分半C船長は、孫埼灯台から004度1.6海里の地点で針路を300度に転じたとき、左舷正横後5度680メートルのところに、前路を右方に横切る態勢の福丸の白、白、緑3灯を視認することができ、その後同船と方位が変わらずに接近し、衝突のおそれがあったが、見張り不十分で、このことに気付かず、03時00分D二等航海士に船橋当直を委ねて降橋した。
D二等航海士は、船橋当直の引継ぎを受けたとき、同方向450メートルのところに、福丸の白、白、緑3灯を視認することができる状況であったが、前方の反航船に気をとられ、左方の見張りを行っていなかったので、衝突のおそれがある態勢で接近する福丸の灯火に気付かず、警告信号を行わないまま、間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、03時03分少し前左舷正横後至近に福丸を初めて認め、右舵一杯として機関を停止したが効なく、ウ号は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、福丸は船首部に凹損を生じ、ウ号は左舷中央部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、鳴門海峡北方において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、福丸が、動静監視不十分で、前路を左方に横切るウ号の進路を避けなかったことによって発生したが、ウ号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、間近に接近しても右転するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、鳴門海峡を北上中、右舷前方にウ号の白灯1個を視認し、これを自船より低速力の同航船の船尾灯と判断した場合、衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、引き続き同号の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、その左舷側を無難に航過できるものと思い、左舷船尾から迫ってくる第三船に気をとられ、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、ウ号が左転して前路を左方に横切る態勢で接近中であることに気付かず、その進路を避けずに進行して衝突を招き、福丸の船首部及びウ号の左舷中央外板にそれぞれ凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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