日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年神審第119号
    件名
プレジャーボート向陽号養殖施設衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月1日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮
    理事官
副理事官 山本茂

    受審人
A 職名:向陽号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部船底に小破口、中央部船底の一部が破損、鋼管製いけすの上部が凹損

    原因
針路の選定不適切

    主文
本件養殖施設衝突は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月22日21時15分
京都府栗田湾(くんだわん)
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート向陽号
全長 7.64メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 84キロワット
3 事実の経過
向陽号は、レーダーのない船外機付FRP製プレジャーボートで、A受審人1人が乗り組み、妻を同乗させ、遊漁の目的で、船首尾とも0.50メートルの喫水をもって、平成96221200分若狭湾西部の栗田湾西岸に位置する、京都府宮津市字上司の船揚げ場を発し、若狭湾内冠島付近の釣場に向かった。
A受審人は、発航時からGPS受信機内蔵型プロッター(以下「プロッター」という。)に航跡を表示させ、13時00分ごろ目的地に到着して釣りを始めたが、夕方近くになっても釣果が得られず、帰航時に未経験であった夜間航行の練習をすることにしていたことから、日没を待っていか釣りを行い、6杯を漁獲してこれを切り上げ、20時30分冠島頂から270度(真方位、以下同じ。)700メートルの地点を発進して帰途に就いた。
発進と同時にA受審人は、プロッターを見て針路を222度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で手動操舵により進行し、21時03分栗田湾北東端の無双ケ鼻(むそうがはな)に近づいたとき、機関の回転数を下げ、8.0ノットの速力に減じた。
ところで、栗田湾には、航路標識は設けられていなかったが、同湾北側陸上における顕著な目標として、宮津黒埼灯台から176度2.4海里のところに、関西電力株式会社宮津エネルギー研究所の航空障害灯付の煙突(以下「エネルギー研究所の煙突」という。)があった。そして、同煙突の南西方700メートルに位置する同湾北岸の機埼(はたさき)から南方400メートル沖合には、はまち及び鯛(たい)の養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置されていた。
養殖施設の区画は、エネルギー研究所の煙突から203度1,050メートルの地点を南東端とし、同地点から007度120メートルと292度470メートルとの両地点を北東端及び南西端とする平行四辺形で、西側部分を除く3辺の海面には、5メートル間隔で浮子を付けた直径36ミリメートルの化学繊維製ロープが張られ、各端付近には橙色閃(せん)光を発する太陽電池式標識灯が取り付けられていた。
A受審人は、同年4月末に初めて向陽号を取得した後、これまで昼間に15回ばかり栗田湾を航行した経験を有していたことから、機埼沖合には養殖施設が設置されており、同湾を東西に航行する際、機埼とこれから1海里南方にある同湾南岸の双子岩(ふたごいわ)との中間付近であれば、同施設を十分離して航過することができること及び同施設に標識灯が設置されていることを知っていたが、夜間航行をしたことも同標識灯について調査したこともなかったので、その灯質や夜間における視認模様については知らなかった。
こうして、A受審人は、21時07分半エネルギー研究所の煙突から116度1,650メートルの地点に達し、養殖施設まで1海里となったとき、同施設の南に向けて転針することとした。このとき同人は、養殖施設の標識灯を視認していなかったが、往航時に同施設南東端を至近距離で南側を航過し、その航跡がプロッターに表示されていたので、同航跡付近を航行すれば大丈夫と思い、肉眼で見えている機埼と対岸の双子岩付近にあるレストランの照明とのほぼ中間に向けるなど、同施設を十分に離す針路を選定することなく、針路を265度に転じ、栗田湾を西行した。
A受審人は、21時11分少し前塔ケ鼻付近の宮津海洋釣場を右舷側350メートルに通過し、もうすぐ前路に養殖施設の標識灯を視認することができると思い、船体中央部に設けた操舵室右舷側に立って窓ガラス越しに前方を見ていたが、粟田湾西岸の集落の明かりに紛れて同標識灯に気付かず、養殖施設に向首したまま、同じ針路及び速力で続航した。
そして向陽号は、21時15分エネルギー研究所の煙突から204度980メートルの地点において、船首が養殖施設区画の南東端から80メートル機埼寄りで東側ロープに衝突し、その衝撃でスロットルレバーが同人の右肘(ひじ)で押されて全速力前進となり、同施設内に50メートルばかり侵入し、上部が海面に50センチメートルばかり出ている半径15メートルの鋼官製いけすを乗り越え、その付近で停止した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の末期で、視界が良く、月出は20時25分であった。
衝突の結果、翌23日地元の漁船によって養殖施設内から引き出されたが、船首部船底に小破口を生じたほか、中央部船底の一部が破損し、また、養殖施設である鋼管製いけすの上部が凹損し、後日いずれも修理された。

(原因)
本件養殖施設衝突は、夜間、栗田湾西岸に向けて帰航中、針路の選定が不適切で、機埼沖合に設置された養殖施設に向首する針路で進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、栗田湾西岸に向けて帰航中、同湾北東端の無双ケ鼻南方に至り、機埼沖合に設置された養殖施設の標識灯を視認しないまま、同施設の南に向けて転針しようとする場合、養殖施設に乗り入れないよう、肉眼で見えている機埼と対岸の双子岩付近にあるレストランの照明とのほぼ中間に向けるなど、同施設を十分に離す針路を選定すべき注意義務があった。しかし、同人は、プロッターが表示する往航時の航跡付近を航行すれば大丈夫と思い、養殖施設を十分に離す針路を選定しなかった職務上の過失により、同施設との衝突を招き、船首部船底に小破口を生じさせたほか、中央部船底の一部を破損させ、鋼管製のいけすの上部を凹損させるに至った。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION