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1998年(平成10年)

平成10年仙審第9号
    件名
漁船第11長栄丸貨物船リャザン衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年7月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、供田仁男、今泉豊光
    理事官
黒田均

    受審人
A 職名:第11長栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
長栄丸…船首部を圧壊してのち廃船
リ号…右舷船尾部外板に擦過傷、船長脳挫傷等

    原因
長栄丸…動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、第11長栄丸が、動静監視不十分で、錨泊中のリャザンを避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月17日02時40分
青森県八戸港港外
2 船舶の要目
船種船名 漁船第11長栄丸 貨物船リャザン
総トン数 19トン 4,937トン
全長 18.22メートル 117.85メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,971キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
第11長栄丸(以下「長栄丸」という。)は、いか一本釣漁業に従事する船体中央部に操舵室を備えた木造漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、平成9年7月15日15時00分北海道熊石漁港を発し、奥尻海峡の漁場に到着して操業を行ったのち、23時00分青森県白糠漁港への帰途に就いたが、翌16日04時無線で青森県八戸港沖合で好漁という情報を得たことから、さらに操業を続けることにして同沖合に向かった。途中、白糠漁港に寄港して漁獲物用木箱を積み込んだのち、同日19時00分八戸港北東方22海里の沖合に至って操業を行い、翌17日01時00分いか約5トンを獲て操業を終え、船首0.1メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、機関を全速力前進にかけて水揚げのために八戸港に向かった。
ところで、長栄丸は、操舵室前に前部甲板及びその前方に同甲板より1メートル高い船首甲板があり、前部甲板の両舷縁にはいか釣り機械が各舷3台ずつ設置され、船首甲板に設けられた前部マストと操舵室との間には同室前面の窓枠下端とほぼ同じ高さでキャンバスの天幕が張られていた。
01時30分A受審人は、鮫角灯台から051度(真方位、以下同じ。)9.6海里の地点に達し、八戸港に向けて針路を240度に定めたとき、漁獲量が多くていかの箱詰め作業(以下「作業」という。)が終わっていなかったので、箱詰めすることによって魚価が高く取引されることから、同航到着時刻を遅らせて箱詰めすることにし、機関回転数を全速力前進の毎分1,600から1,500に下げて8.1ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、定針後前部甲板上で見張りを兼ねて甲板員とともに作業を行っていたが、同甲板上からでは船首甲板の舷縁及び前部マストにより前方の視界が妨げられた状況であったので、時々前部甲板左舷側舷縁のいか釣り機械の間から顔を出したり、操舵室に戻ったりして前路の見張りを行い、また甲板員にも右舷側舷縁から同じように見張りをさせた。
02時10分A受審人は、鮫角灯台から039度4.4海里の地点に達したとき、操舵室に戻ってレーダー監視及び目視により八戸港港外検疫錨地付近に錨泊しているリャザン(以下「リ号」という。)を含む大型貨物船4隻の映像及びその灯火を船首方に認めたが、同錨泊船までの距離が約4海里あったことから、再び前部甲板に出て作業を続けながら続航した。
02時34分A受審人は、鮫角灯台から357度1.8海里の地点で、前部甲板の左舷側舷縁に上がって船首方向を見たとき、船首方1,500メートルのところにリ号の多数の作業灯及び居住区周りの明るい灯火を視認し、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、一べつしただけで同船の船尾方を航過できるものと思い、その後の動静監視を十分に行わないまま進行した。
こうして、02時39分A受審人は、リ号までの距離が250メートルに接近しても漁獲物の市場価格及び根拠地帰港後の村祭りに伴う休漁日についての考えごとをしながら作業に専念していたので、同船から発光された信号及びその右舷船尾部に向首接近していることに気付かないまま続航中、同時40分少し前たまたま前方を見張った甲板員の「危ない。」という叫び声を聞いて衝突の危険を感じ、急いで操舵室に向かったが、転舵、減速するいとまもなく、02時40分八戸港白銀北防波堤灯台から019度1.5海里の地点において、長栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首がリ号の右舷船尾部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、視界は良好であった。
また、リ号は、船尾船橋型の貨物船でB船長ほか29人のロシア人が乗り組み、クロム鉄鉱石4,175トンを載せ、船首6.00メートル船尾6.65メートルの喫水をもって、同月14日12時00分(現地時間)ロシア連邦バニーノ港を発し、八戸港に向かった。
翌々16日20時50分リ号は、八戸港検疫錨地付近に到着して前示衝突地点に右舷錨を投じ錨鎖5節を延出して錨泊し、錨泊中であることを示す白色全周灯各1個を船首尾マストに揚げたほか多数の作業灯及び居住区周りに明るい灯火を点灯して船橋当直員2人を配置した。
翌17日02時39分C二等航海士は、330度を向首して錨泊当直していたとき、右舷正横約250メートルのところに長栄丸の灯火を初認し、その後間もなく同船が自船に向首接近中であることを認めて衝突の危険を感じ、同船に対して避航を促すために発光信号を行ったが効なく、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、長栄丸は船首部を圧壊してのち廃船にされ、リ号は右舷船尾部外板に擦過傷を生じ、またA受審人は25日間の入院加療を要する脳挫傷等を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、八戸港港外において、沖合漁場から操業を終えて同港に向けて帰航中の長栄丸が、動静監視不十分で、錨泊中を表示する灯火を掲げ、さらに多数の作業灯及び居住区周りに明るい灯火を点灯して検疫錨地付近に錨泊中のリ号を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、夜間、八戸港沖合漁場から操業を終えて同港に向けで帰航中、船首方に錨泊中を表示する灯火を掲げ、さらに多数の作業灯及び居住区周りに明るい灯火を点灯して検疫錨地付近に錨泊中のリ号を視認した場合、同船との衝突のおそれの有無を確かめることができるよう、その後の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、一べつしただけでそのままの針路で進行してもリ号の船尾方を航過できるものと思い、その後の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する状況であることに気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、長栄丸の船首部を圧壊させ、またリ号の右舷船尾外板に擦過傷を生じさせ、さらに自らも25日間の入院加療を要する脳挫傷等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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