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1998年(平成10年)

平成9年門審第76号
    件名
漁船圭勝丸プレジャーボート栄福丸?衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

永松義人、酒井直樹、藤江哲三
    理事官
猪俣貞稔

    受審人
A 職名:圭勝丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン限定)
B 職名:栄福丸?船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
圭勝丸…船首部に擦過傷
栄福丸…右舷側後部を損傷、同乗者1人が頭部打撲傷など

    原因
圭勝丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
栄福丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、圭勝丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の栄福丸?を避けなかったことによって発生したが、栄福丸?が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年4月27日16時10分
山口県相島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船圭勝丸 プレジャーボート栄福丸?
総トン数 4.59トン
登録長 11.55メートル 9.14メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 117キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
圭勝丸は、延縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、あまだい漁の目的で、平成9年4月27日03時00分山口県萩港後小畑の定係地を発し、05時ごろ同港の北西方20海里ばかり沖合の漁場に至って操業を始め、漁場を東方に移動しながら操業を繰り返してあまだい約20キログラムを漁獲したものの、漁模様が思わしくなかったので早めに操業を打ち切り、15時00分山口県相島にある萩相島灯台(以下「相島灯台」という。)から323度(真方位、以下同じ。)6.5海里の地点を発し、萩港に向け帰途に就いた。
A受審人は、漁場を発進した時刻が平素より早かったので、帰航する途中、水揚げに備えてあらかじめ漁獲物を箱詰めすることにし、萩港沖合の海域を北東方に流れる海流に大きく圧流されないよう相島の島陰で停留する予定にして進行し、15時40分ごろ相島灯台から084度1.3海里ばかりの地点に達して機関を中立運転とし、漁獲物の箱詰めを終えたのち、16時01分同灯台から078度1.4海里の地点を発進し、針路を萩港北方沖合にある羽島の西岸を左舷側に0.5海里ばかり離すよう141度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、11.0ノットの対地速力で相島東方沖合を南下した。
ところで、圭勝丸は、全速力前進は増速すると船首部が浮上し、舵輪後方の操舵位置から前方を見たとき、船首方の船幅の範囲に死角を生じてこの範囲を見通すことができない状況であった。
定針したとき、A受審人は、正船首1.7海里のところに右舷側を見せて錨泊中の栄福丸?(以下「栄福丸」という。)を視認できる状況であった。しかしながら、同人は前方を一瞥(べつ)したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、船首を左右に振るか、操舵室外に出て舷側に寄るかして船首死角を補う見張りを行わなかったので、栄福丸が存在することも、同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかった。
こうして、A受審人は、右転するなどして栄福丸を避ける措置をとらないまま続航し、やがて、2台装備しているGPSのうち1台が不良となっていたのでその修理を業者に依頼する前に、あらかじめ作動状況を確かめておこうと思い立ち、なおも船首死角を補う見張りを行わないまま、16時07分ごろ操舵室にかがみこんで同室前方下部に設置されたGPSを操作し、これを終えて立ち上がろうとしたとき、突然衝撃を受け、16時10分相島灯台から112度2.7海里の地点において、原針路、全速力のまま圭勝丸の船首が、栄福丸の右舷側後部に後方から84度の角度で衝突した。
当時、天候は薄曇で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には北東方に流れる海流が少しあり、視界は良好であった。
また、栄福丸は、モーターホーンを装備したFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を同乗させ、同日10時00分萩港中小畑の定係地を発し、10時30分ごろ山口県大島南方0.5海里ばかりの地点に到着して魚釣りを行ったものの釣果がなかったので、15時00分前示衝突地点に移動して水深約60メートルの海中に錨を投じ、錨索を船首から120メートルばかり延出して錨泊し、錨泊中の船舶が掲げる形象物を備え付けていたもののこれを表示しないまま魚釣りを開始した。
B受審人は、16時01分、付近を北東方に流れる海流によって船首が225度を向いていたとき、右舷船尾84度1.7海里のところに、自船に向首する態勢で接近する圭勝丸を視認できる状況にあった。しかしながら、同人は、自船は錨泊して魚釣りをしているので航行中の他船が避航してくれるものと思い、船尾左舷側で船尾方を向き魚釣りをすることのみに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、圭勝丸が避航動作をとらないまま衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かなかった。
こうして、B受審人は、圭勝丸に対して避航を促すようモーターホーンにより注意喚起信号を行わないまま錨泊中、16時10分わずか前、船尾右舷側で魚釣りをしていた同乗者が大声を上げたので左方を見たとき至近距離に迫った圭勝丸を認め、身に危険を感じて海中に飛び込んだ直後、船首が225度を向いて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、圭勝丸は船首部に擦過傷を生じたのみであったが、栄福丸は右舷側後部を損傷し、のち損傷部は修理され、衝突時の衝撃で栄福丸の同乗者Cが頭部打撲傷などを負った。

(原因)
本件衝突は、圭勝丸が、山口県相島東方沖合を南下中、見張り不十分で、前路で錨泊中の栄福丸を避けなかったことによって発生したが、栄福丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖合漁場から山口県萩港に向け同県相島東方沖合を南下する場合、船首方に死角を生じていたのであるから、前路で錨泊して魚釣り中の他船を見落とすことのないよう、船首を左右に振るか、舷側に寄るかして船首死角を補う十分な見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定針したとき前方を一瞥したのみで前路には航行の支障となる他船はいないものと思い、不良となっていたGPSの操作に気を奪われ、船首死角を補う十分な見張りを行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で栄福丸に接近していることに気付かず、右転するなどして栄福丸を避けるための措置をとらないまま進行して衝突を招き、圭勝丸の船首部に擦過傷及び栄福丸の右舷側後部に損傷を生じさせ、栄福丸の同乗者に頭部打撲傷などを負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、山口県相島東方沖合で錨泊して魚釣りを行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、錨泊中の船舶が掲げる形象物を表示しないまま、自船は錨泊して魚釣りをしているので航行中の他船が避航してくれるものと思い、魚釣りをすることのみに気を奪われ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する圭勝丸に気付かず、同船に避航を促すようモーターホーンにより注意喚起信号を行わないまま錨泊を続けて衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせ、自船の同乗者を負傷させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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