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1998年(平成10年)

平成9年長審第62号
    件名
遊漁船寿々丸遊漁船光洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

関?彰、高瀬具康、保田稔
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:寿々丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:光洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
寿々丸…船首船底部に擦過傷、左舷水面上外板に亀裂
光洋丸…船室及び船橋を大破、釣り客1人が臀部及び腰部に打撲傷

    原因
寿々丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
光洋丸…見張り不十分、注意喚起信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、寿々丸が、見張り不十分で、前路で錨泊中の光洋丸を避けなかったことによって発生したが、光洋丸が、見張り不十分で、注意喚起信号を行わなかったこともその一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月2日16時30分
長崎県野母埼南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船寿々丸 遊漁船光洋丸
総トン数 4.9トン 4.9トン
登録長 11.98メートル 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 183キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
寿々丸は、操舵室を備えたFRP製遊漁船で、A受審人が単独で乗り組み、釣り客4人を乗せ、船首0.30メートル船尾0.91メートルの喫水をもって、平成9年5月2日04時長崎港小江地区貯木場を発し、野母埼南西方沖合の鰺曽根の釣り場に向かい、05時40分樺島灯台から225.5度(真方位、以下同じ。)18.5海里の地点に至り、投錨して釣りを開始した。
A受審人は、16時15分釣りを止めて帰航の準備に取りかかり、人いきれで曇っていた操舵室内のガラス窓を拭きとり、揚錨を終えるとレーダーのスイッチを入れ、同時26分半同錨泊地点を発し、GPSプロッターを見て針路を伊王島の南方に向かう035度に定め、機関を19.0ノットの全速力前進にかけ、操舵室右舷側のいすに腰掛けて手動操舵で操船にあたり帰航の途についた。
A受審人は、小雨でもやもかかっていて視程が1海里ばかりしかないうえに、レーダーもまだ作動状態になく、発航時に正船首やや左1海里余りのところにいた光洋丸に気付かないまま、周囲に他船は見えなかったので全速力のまま航行していたところ、16時29分半わずか前再び曇ってきた右舷側の回転窓を拭きながら、同窓を通して正船首やや右600メートルのところに錨を入れて浮き流し釣りをしている遊漁船(以下「第3船」という。)を認めた。
A受審人は、同時29分半左舷船首10度300メートルのところに錨泊中の光洋丸を認め得る状況にあったものの、左舷側回転窓は曇っており、視野の狭い右舷側回転窓からは同船を発見できず、第3船をかわすため左転して針路を025度に転じたところ、光洋丸に向首することとなったが、第3船を避けたことで、前路に船はいないものと思い、曇っている左舷側の回転窓を拭くことに熱中して見張りを十分に行うことなく、その状況に気付かないまま、光洋丸を避けずに進行した。
A受審人は、16時30分わずか前船首方至近に光洋丸を初めて認めたものの、何等の措置をとるいとまもなく、16時30分樺島灯台から226.5度17.4海里の地点において、寿々丸の船首が、原針路、原速力で、光洋丸の右舷中央部に直角に衝突した。
当時天候は雨で、風力3の東風が吹き、視程は1海里ばかりであった。
また、光洋丸は、操舵室を備えたFRP製遊漁船で、B受審人が単独で乗り組み、釣り客5人を乗せ、船首0.50メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日02時30分長崎県飯盛町江ノ浦漁港を発し、鰺曽根の釣り場に向かった。
B受審人は、04時10分前示衝突地点付近の釣り場に至り、錨を投入して150メートルの錨索を延ばし、これに接続したそれぞれ20メートルのロープをY字型に右舷側船首尾にとって、右舷側をほぼ直角に潮の方向に向け、左舷側から時には400メートルも浮きを流す方法で釣りを始めた。
B受審人は、錨泊中を示す形象物を掲げないまま釣りを続けていたところ、午前中には多数いた遊漁船が午後に入るとほとんどいなくなり、16時20分ころ残っていた4隻のうち南側にいた2隻の仲間の遊漁船も帰り、自船の北東方400メートルばかりにいた第3船と自船のみとなったので、そろそろ釣りを止めて引き上げようと思い、その旨を釣り客に告げ、帰ったばかりの仲間の遊漁船と操舵室内で腰掛けて無線で話し始めた。
B受審人は、北北東に向けて流れていた潮流を右舷側に受け、船首が115度に向いた状態で錨泊中、16時29分半右舷正横300メートルのところで針路を変えて自船に向かって接近する寿々丸を視認できる状況にあったが、自船は錨泊中であり、航行中の船が当然自船を避けて行くものと思い、周囲の見張りを行っていなかったため同船に気付かず、保有する音響発生装置を用いて注意喚起信号を行うなどの措置をとらずに話し続け、同時30分わずか前話を終えて操舵室を出て右舷側を見たとき、自船に向首して至近に迫った同船を初めて認め、危険を感じて客に注意を促したが、なんらの措置をとるいとまもないうちに、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、寿々丸は、光洋丸に乗り揚げ船首船底部に擦過傷、左舷水面上外板に亀(き)裂を生じ、光洋丸は船室及び船橋を大破し、衝突時の衝撃で光洋丸の釣り客1人が臀部及び腰部に打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、長崎県野母埼南西方沖合の鰺曽根の釣り場において、寿々丸が、雨で視程が十分にない状況下で航行する際、見張り不十分で、前路で錨泊中の光洋丸を避けなかったことによって発生したが、光洋丸が、見張り不十分で、自船に向首接近する寿々丸に対して注意喚起信号を行わなかったこともその一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人が、長崎県野母埼南西方沖の鰺曽根において、雨で視程が十分になく、かつ湿気で操舵室内のガラスが曇り易い状況下で航行する場合、付近は遊漁船の集まる釣り場で他船が釣りをしている可能性が十分に考えられたのであるから、前路の他船を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首方の第3船を避けるため転針したことで、前路に船はいないものと思い、人いきれで曇った回転窓の窓拭きに熱中し、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、光洋丸に向首していることに気付かないまま進行して同船と衝突し、寿々丸の船底擦過傷、外板亀裂、光洋丸の操舵室破損、釣り客1人にけがを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
しかしながら、このことは、光洋丸が錨泊中であり、寿々九が接近してから光洋丸に向け転針している点に徴し、B受審人の職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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