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1998年(平成10年)

平成8年横審第143号
    件名
プレジャーボートワタプレジャーボートひろみ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、雲林院信行、西田克史
    理事官
甲斐賢一郎

    受審人
C 職名:ひろみ丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ひろみ丸…燃料タンクカバー曲損及び船体前部にわずかな亀裂、船長が10日間の安静加療を要する左側頭部切創及び左前腕部打撲傷

    原因
ワタ…船員の常務(避航動作)不遵守、船舶所有者の、無資格者への操縦許可

    主文
本件衝突は、ワタが、無資格で操縦経験のない者によって操縦されたことによって発生したものである。
ワタの船舶所有者が、無資格の者に、操縦させたことは本件発生の原因となる。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月16日12時40分
千葉県富津岬北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートワタ プレジャーボートひろみ丸
登録長 1.87メートル 1.86メートル
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 52キロワット 36キロワット
3 事実の経過
ワタは、川崎重工業株式会社(U.S.A)製造のジェットスキー750SXiと称する、全長2.21メートル全幅0.70メートル全高0.68メートルの、一人乗りFRP製水上オートバイで、船体前部に電気点火機関を装備し、同中央部に操縦ハンドル(以下「ハンドル」という。)を備え、ハンドルの左グリップにエンジンスタータ及びストップボタンが、右グリップにスロットルレバーがそれぞれあり、同後部には推進装置として同機関により駆動されるジェットポンプが取り付けられていて、同レバーの開閉操作により速力が調整され、その調整とハンドル操作等により進路変更ができ、同レバーを0位置に戻すかストップボタンを押すことによって停止するようになっていた。
A指定海難関係人は、四級小型船舶操縦士の海技免状を受有し、B指定海難関係人ほか友人3人とともに、平成8年8月16日10時ごろ千葉県富津岬北側の海岸に至り、ワタを操縦するなどして海洋レジャーに時を過ごした。
A指定海難関係人は、12時20分ごろそれまで磯遊びに興じていたB指定海難関係人からワタの操縦方法を知りたいとの申し出を受け、同指定海難関係人が水上オートバイの操縦経験が全くなかったことと無資格であったことから、取りあえず同船の後部に座ったままの初心者を対象とした操縦方法などを教えた。
B指定海難関係人は、約10分間の練習を終え、海技免状を受有していないのでワタを操縦できないことを知っていたが、A指定海難関係人に同船を単独で操縦したいと依頼した。その際、A指定海難関係人は、無資格では操縦できないこと、十分に練習も積んでいないことなどを伝えてその依頼を断ったものの、再三にわたり操縦したいと頼まれ、せっかく富津岬まで来たのだから短時間の操縦なら大丈夫と思い、はっきりと断らないで同船をB指定海難関係人に任せ、友人のいる海岸へ戻った。
こうしてB指定海難関係人は、12時32分半第2海堡灯台から089度(真方位、以下同じ。)2.2海里のところの富津岬先端の展望台(以下「展望台」という。)から076度300メートルの地点を発し、同岬北側付近に向かった。
B指定海難関係人は、富津岬北側の沖合80メートルのところに至り、その付近で2周半ほど航走したのち海岸に戻ることとし、12時40分少し前展望台から064度330メートルの地点で、針路を海岸に向く182度に定め、ハンドルを操作しながらスロットルレバーを調整して微速力前進にかけ、5.4ノットの対地速力で進行した。
定針したころ、B指定海難関係人は、ほぼ正船首50メートルの富津岬北側の水際に停留中のひろみ丸がいたが、ワタの操縦に気を奪われ、経験不足から周囲に注意を払う余裕がなかったのでひろみ丸に気付かず、これを避けないまま続航中、12時40分わずか前同船に気付き、驚いてハンドルを左側にとりながら減速するつもりでスロットルレバーを押し、12時40分展望台から072度320メートルの地点において、ワタは、132度を向いたその船首が、ほぼ原速力のまま、ひろみ丸の左舷船首に後方から42度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西南西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、ひろみ丸は、川崎重工業株式会社(U.S.A)製造のジェットスキー650SXと称する、750SXiより最大出力がやや小さいものの構造及び性能がほぼ同程度の、一人乗りFRP製水上オートバイであった。
C受審人は、友人1人とその子供1人とともに同日10時ごろ富津岬北側の海岸に至り、ひろみ丸を操縦するなどして海洋レジャーに時を過ごし、12時30分ごろ再び同船を操縦することとして、架台に乗せたままの同船を水深約30センチメートルのところに移し、架台を取り外してスタータスイッチを2回ほど操作したが始動できなかったので、更に水深約1.0メートルのところに移して再始動を試みた。
C受審人は、ひろみ丸が依然として始動しなかったので、友人に始動を頼むため再び浅いところに戻ることとし、12時38分ごろ通常水上オートバイが航走しない水深である前示衝突地点付近で、接近する他船がいないことを確かめ、ひろみ丸を090度に向けて停留させたのち、同船の左側後部にかがみこんで船体後部のジェットポンプ噴水口に異物等が詰まっていないかどうかを点検中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ワタは、損傷がなく、ひろみ丸は、燃料タンクカバーに曲損及び船体前部にわずかな亀(き)裂を生じたが、のち修理され、C受審人が10日間の安静加療を要する左側頭部切創及び左前腕部打撲傷を負った。

(原因)
本件衝突は、千葉県富津岬北側の海岸において、ワタが、無資格で操縦経験のない者によって操縦され、停留中のひろみ丸を避けなかったことによって発生したものである。
ワタの船舶所有者が、無資格の者に、操縦させたことは本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A指定海難関係人が、千葉県富津岬北側の海岸において、無資格で操縦経験のない者からワタを操縦したいと頼まれた際、そのことを断らず、同船を操縦させたことは本件発生の原因となる。
A指定海難関係人に対しては、その後同人が無資格の者にワタを操縦させないようにした点に徴し、勧告しない。
B指定海難関係人が、千葉県富津岬北側の海岸において、操縦経験がなく無資格でワタを操縦したことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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