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1998年(平成10年)

平成9年横審第77号
    件名
油送船宝伸丸漁船栄吉丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

原清澄、勝又三郎、西山烝一
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:宝伸丸次席一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:栄吉丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
宝伸丸…船首部に擦過傷
栄吉丸…船尾甲板やブルワークなどを圧壊したほか、トロール用漁具一式を流失

    原因
宝伸丸…居眠り運航防止措置不十分(主因)
栄吉丸…見張り不十分、警告信号不覆行(一因)

    主文
本件衝突は、宝伸丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁ろう中の栄吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月3日01時15分
遠州灘
2 船舶の要目
船種船名 油送船宝伸丸 漁船栄吉丸
総トン数 498トン 14.95トン
登録長 62.05メートル 16.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット
漁船法馬力数 160
3 事実の経過
宝伸丸は、沿海区域を航行区域とする鋼製の液体科学薬品ばら積船兼油タンカーで、船長D及びA受審人ほか4人が乗り組み、ガソリン1,000キロリットルを積載し、船首2.90メートル船尾4.10メートルの喫水をもって、平成8年11月2日11時00分京浜港川崎区を発し、四日市港に向かった。
A受審人は、23時20分掛塚灯台から176度(真方位、以下同じ。)4.2海里の地点で、船橋当直中の船長から針路270度で単独4時間の同当直を引き継ぎ、そのまま同針路を保って航行を続け、翌3日00時52分舞阪灯台から226度8.6海里の地点に達したとき、針路を265度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.6ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、01時00分舞阪灯台から232度9.7海里の地点で、右舷船首5度2.1海里に栄吉丸の白灯1個を初認し、一べつしただけで同灯火は漁船が掲げる灯火であって、無難に右舷後方に替わって行くものと思い込み、その後の同船の動静監視を行わないまま、周囲に気になる他の船舶もおらず、立直していて足に疲労感を覚えたので、いくぶん眠気を感じる状態であったものの、5分ばかり椅子(いす)に腰を掛けて船橋当直にあたることとし、操舵輪の船首方に置いた椅子に腰を掛けて続航した。
ところで、A受審人は、平素から船橋当直中、椅子に腰を掛けて居眠りをしたことがなかったので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、適宜、椅子から立ち上がったり、外気にあたって気を引き締めるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく進行した。
A受審人は、間もなく、意識が朦朧(もうろう)となって居眠りに陥り、01時10分右舷船首5度1,300メートルばかりに、トロールにより漁ろうに従事していることを示す栄吉丸の縦に連携した緑、白2灯と同灯火下方の船尾灯とを視認することができ、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの、このことに気付かず、同船の進路を避けることができないまま続航中、01時15分舞阪灯台から238.5度12海里の地点において、宝伸丸は、原針路、原速力のまま、その船首がトロールにより漁ろう中の栄吉丸の船尾やや右舷寄りに左舷後方から約5度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、視界は良好であった。
衝突直後ふと目覚めたA受審人は、左舷側を著しく接近した状態で航過する栄吉丸の白灯1個を認めたものの、衝突したことの認識がないまま進行した。
宝伸丸は、そのまま四日市港に入航し、揚荷を終えて出航したが、海上保安部から同港に引き返すよう指示を受け、錨泊して臨検を受けた結果、D船長は海上保安官から栄吉丸と衝突した旨を知らされた。
また、栄吉丸は、操業区域を渥美(あつみ)外海とし、底引き網漁に従事するFRP製漁船で、B受審人及びC指定海難関係人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.80メートルの喫水をもって、11月2日15時00分愛知県三谷漁港を発し、渥美半島南方沖合の漁場に向かった。
ところで、B受審人は、底引き網漁を行う際、1回の操業時に約2.5時間の間網を引くことになるので、その間、乗組員の1人が交替で船橋当直に立ち、他の2人は船室で休息をとることにしており、また、自船の汽笛が故障し、使用不能の状態であることを知っていたものの、これを修理しないまま放置し、底引き網漁の操業に従事していた。
B受審人は、23時45分舞阪灯台から234度8.4海里の地点で、マストにトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白2灯の全周灯を縦に連携して掲げたほか、舷灯1対及び船尾灯をそれぞれ掲げたのち、3回目の操業を行うために網を投入し、針路を260度に定め、右舷船首ほぼ55度方向からの風圧を受けて左方に12度ばかり圧流されながら2.5ノットのえい網速力で進行した。
B受審人は、針路を定めたあと、トロールにより漁ろう中はほぼ直進するところから、そのまま舵を放し、乗組員全員で前回の操業で捕れた漁獲物の選別作業にあたり、翌3日00時45分舞阪灯台から237度10.7海里のところに達したとき、同作業を終え、C指定海難関係人に船橋当直を委(ゆだ)ねることとしたが、同当直を同人に任せるのはいつものことでもあり、今更特に指示するまでもあるまいと思い、後方の見張りを十分に行うよう指示することなく、他の1人の甲板員とともに船室に戻って休息した。
単独の船橋当直に就いたC指定海難関係人は、椅子に腰を掛けて前方の見張りにあたり、自船の後方の状況を確かめないで、原針路、原速力のまま続航中、01時10分左舷船尾5度1,300メートルに宝伸丸の白、白、緑3灯を視認することができ、その後、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものの、後方の見張りを行っていなかったので、このことに気付かないまま進行した。
栄吉丸は、自船に向首して接近する宝伸丸に対し、警告信号を行わないまま、トロールにより漁ろう中、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、宝伸丸は、船首部に擦過傷を生じただけであったが、栄吉丸は、船尾甲板やブルワークなどを圧壊したほか、トロール用漁具一式を流失した。

(原因)
本件衝突は、夜間、遠州灘を西行中の宝伸丸が、居眠り運航の防止措置が不十分で、トロールにより漁ろう中の栄吉丸の進路を避けなかったことによって発生したが、栄吉丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
栄吉丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の甲板員に船橋当直を行わせる際、後方の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、船橋当直を行う無資格の甲板員が後方の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、遠州灘を単独の船橋当直にあたって航行中、立直のため足に疲労感を覚え、いくぶん眠気も感じる状態で椅子は腰を掛ける場合、居眠り運航とならないよう、適宜、椅子から立ち上がったり、外気にあたって気を引き締めるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、椅子から立ち上がったり、外気にあたって気を引き締めるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、椅子に腰を掛けたまま居眠りに陥り、前路でトロールにより漁ろう中の栄吉丸に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、自船に擦過傷を生じさせ、栄吉丸の船尾部を圧壊させたほか、同船の漁具一式を流失させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、遠州灘でトロールにより漁ろう中、無資格の甲板員に船橋当直を行わせる場合、他船と著しく接近する状況とならないよう、後方の見張りを十分に行うように指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、いつものことでもあり、特に後方の見張りを十分に行うよう指示するまでもないものと思い、後方の見張りを十分に行うように指示しなかった職務上の過失により、船橋当直中の甲板員が後方の見張りを十分に行わず、接近する宝伸丸に対して警告信号を行わないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直にあたってトロールにより漁ろうに従事する際、後方の見張りを十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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