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1998年(平成10年)

平成9年横審第102号
    件名
貨物船豊神丸桟橋衝突事件〔簡易〕

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

大本直宏
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:豊神丸船長 海技免状:二級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
右舷船尾外板に凹傷

    原因
気象・海象配慮不十分

    主文
本件桟橋衝突は、風圧流に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月18日12時19分
愛知県衣浦港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船豊神丸
総トン数 3,294トン
全長 108.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,942キロワット
3 事実の経過
豊神丸は、可変ピッチプロペラ及び推力7.5トンのバウスラスターを装備した船首船橋型の鋼製自動車運搬船で、受審人Aほか11人が乗り組み、車両206台を載せ、船首4.42メートル船尾4.93メートルの喫水をもって、平成8年12月18日09時20分愛知県豊橋港を発し、同県衣浦港に向かった。
11時48分A受審人は、衣浦港界線付近に達したところで自ら操船指揮を執り、乗組員を入港配置に就けて機関用意とし、次席二等航海士を操舵に、一等機関士をテレグラフ操作にそれぞれ当たらせ、自らはバウスラスターのリモートコントロール装置を操作する体制をとって進行した。
ところで、A受審人は、同日00時00分名古屋地方気象台からの愛知県西部に対する強風・波浪注意報が継続中であることを知っており、横風を受け着桟するとき、風速が10メートル毎秒を超えると引船を使用することにしていた。
A受審人は、西寄りの風が10メートル毎秒前後で連吹する状況下、南北方向に設置されたマツダ専用桟橋(以下「専用桟橋」という。)への着桟にあたり、水路を北上してから、入り船右舷付けとする操船計画を立てたが、同桟橋への進入角度を大きくし、左舷錨及びバウスラスターを使用すれば大丈夫と思い、操船補助に引船を手配し活用するなりして、風圧流に対する配慮を十分に行うことなく、機関を14.0ノットの巡航速力にかけ、衣浦港の水路を北上した。
12時03分A受審人は、衣浦港中央ふとう西灯台(以下「西灯台」という。)から038度(真方位、以下同じ。)670メートルの地点で、針路を014度に定め、機関を12.0ノットの港内全速力前進とし、間もなく速力を10.0ノットの半速力に、次いで6.0ノットの微速力前進に減じ、平均の対地速力を8.0ノットとして進行した。
12時12分A受審人は、西灯台から021度2,900メートルの地点で右舵をとり、わずかな右回頭惰力をつけ、機関を3.0ノットの極微速力前進に減じ、同時14分専用桟橋の西方150メートルの地点で、025度に向首したとき、機関を中立としたところ、強まった西北西風を左舷側に受け、船体が同桟橋に向かって圧流され始めたのを認めた。
12時15分A受審人は、専用桟橋の西方100メートルの地点に達し、035度を向首したとき、前示の風圧流を減じようとして機関を微速力前進にかけ、左舷錨を投じ、錨鎖の延出を調整するなどして船首部の圧流を制御しながら同桟橋に接近した。
12時16分A受審人は、着桟予定の位置を通り過ぎたので機関を中立とし、すぐ微速力後進及び半速力後進をかけたところ、船尾部の專用桟橋への圧流が急となり、後進行きあしがついたので、同時18分機関を中立に続いて微速力前進とし、右舵一杯としたが及ばず、12時19分西灯台から023度3,320メートルばかりの地点において、船首が005度に向いたとき、右舷船尾部が同桟橋の北から二番目の支柱の北西端に、わずかな後進行きあしをもって衝突した。
当時、天候は曇で風力7の西北西風が吹き、潮候はほぼ高潮期であった。
衝突の結果、右舷船尾外板に凹傷を生じた。

(原因)
本件桟橋衝突は、愛知県衣浦港において着桟操船中、風圧流に対する配慮が不十分で、引船を手配して活用せず、船尾部が専用桟橋に圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、愛知県衣浦港において、左舷側から風速10メートル毎秒の風を受けて水路を北上中、右舷を対して着桟する操船指揮を執る場合、強風・波浪注意報が継続中であることを知っており、風速が引船を手配して活用する数値に達していたのであるから、船尾部の圧流を制御できるよう、引船を手配し活用するなりして、風圧流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、錨とバウスラスターを使用すれば着桟できるものと思い、風圧流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、船尾部が圧流されて桟橋衝突を招き、右舷船尾部に損傷を生じさせるに至った。






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