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1998年(平成10年)

平成9年仙審第75号
    件名
漁業調査船いわき丸漁船第七十八榮久丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

半間俊士、葉山忠雄、釜谷獎一
    理事官
亀井龍雄

    受審人
A 職名:第七十八榮久丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第七十八榮久丸漁労長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
いわき丸…船尾外板に破口
榮久丸…船首部に凹損

    原因
榮久丸…操船・操機取扱不適切

    主文
本件衝突は、第七十八榮久丸が、着岸時の船体停止の確認が不十分であったこと、及び着岸操船終了時における、可変ピッチプロペラのピッチ操作つまみの停止位置確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月24日21時42分
福島県小名浜港
2 船舶の要目
船種船名 漁業調査船いわき丸 漁船第七十八榮久丸
総トン数 200トン 65トン
全長 42.30メートル 31.03メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット 698キロワット
3 事実の経過
いわき丸は、船体のほぼ中央に船橋を有する鋼製の漁業調査船で、船長Cほか12人が乗り組み、船首1.50メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、平成8年4月10日14時30分福島県小名浜港の漁港区である1号ふ頭東側岸壁の中央付近に船首尾ともそれぞれ6本の係留索を取り、同岸壁に沿った193度(真方位、以下同じ。)に向首して出船右舷着けで着岸した。その後夜間は無人で係留中、同月24日21時42分小名浜港第1西防波堤東灯台(以下「第1西防波堤灯台」という。)から337度600メートルの地点において、その船尾部に、同船の後方で係岸作業を行っていた第七十八榮久丸(以下「榮久丸」という。)の船首が真後ろから衝突した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時であった。
また、榮久丸は、沖合底びき網漁業に従事し、可変ピッチプロペラを装備した船首船橋型の鋼製漁船で、A及びB両受審人のほか5人が乗り組み、同月21日01時15分宮城県石巻港を発し、小名浜港東方沖合漁場で操業の後、漁獲物水揚げの目的で、船首1.50メートル船尾2.50メートルの喫水をもって、同月24日19時30分同漁場を発進し、小各浜港に向かった。
ところで、小名浜港1号ふ頭ないし4号ふ頭は、南西方から東方にかけて湾曲した第1西防波堤の北側に位置するふ頭で、その東方から西方に向け、1号から4号ふ頭の順に配置され、これらふ頭の南端と同防波堤との間は、幅約400メートルの航路筋になっていた。
A受審人は、夜間の小名浜港入港経験が少なかったことから、同人が乗船する前の船長兼漁労長で同港の入港経験の多いB受審人に着岸操船を行わせることにした。
こうして、A受審人は、小名浜港の港界を過ぎたころ入港部署を令し、B受審人と共に船橋配置に就き、21時20分ごろ沖防波堤西端を替わし、手動操舵で第1西防波堤に沿って小名浜港1号ふ頭に向かうべく進行し、同時35分同ふ頭の南東端を航過したころ、同ふ頭東側岸壁の中央よりわずか南側に出船着けで右舷係留中のいわき丸をB受審人と共に認めた。A受審人は、同船の後方の岸壁に出船右舷着けとすべく同時37分第1西防波堤灯台から349度460メートルの地点で、B受審人に可変ピッチプロペラの操作などを行わせ、自らは操舵にあたり進行した。
B受審人は、主機操縦スタンドの前に立ち、操船を行いながら、プロペラピッチを適宜2ないし3度として2ノットの舵効を保つことのできる最低速力で左回頭し、21時41分ごろ小名浜港1号ふ頭1・2号岸壁の中央よりやや北寄りの地点である第1西防波堤東灯台から340度670メートルの地点の同岸壁前面に至り、船首尾の係留索を岸壁に取り終え、その後、同索をワーピングエンドで巻き締めて岸壁は横着けすることとなったが、自船の船首方約45メートルのところには、いわき丸が着岸していた。
A受審人は、係留索を岸壁のビットに取り終えたのを知り、操舵輪を離れ、船橋後部の扉のところに立ち、船尾甲板での係船作業の様子を眺めていたが、このときB受審人の操作する可変ピッチプロペラのピッチ操作つまみが、わずかに前進側に位置していて、船体が徐々に前方に移動していたものの、船体の停止を十分に確認していなかったことからこの状況に気付かなかった。
他方、B受審人は、係留索を岸壁ビットに取り終えたのを視認し、操舵スタンドから離れることとしたが、このとき船体がわずかに前方に移動しているのを認めたものの、まもなく係留索を船側のビットに固定し終えるので、移動は止まるものと思い、可変ピッチプロペラのピッチ操作つまみの停止位置確認を十分に行わなかった。
B受審人は、21時41分半ごろ船体が前方に向けて移動している旨の報告を受け、前方を見たところ、いわき丸の船尾に自船の船首が25メートルに接近し、係留索が後方に移動しているのを知って驚き、慌ててピッチを後進とするつもりで操作したところ、誤って前進に操作し、急激に前進行脚が強まり前示のとおり衝突した。
衝突の結果、いわき丸は船尾外板に破口を生じ、榮久丸は、船首部に凹損を生じ、後いずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、榮欠丸が、福島県小名浜港1号ふ頭1・2号岸壁で係留索を岸壁のビットに取り終えたあとの係留作業に従事中、船首方の岸壁にいわき丸が着岸している際、着岸時の船体停止の確認が不十分であったこと、及び可変ピッチプロペラのピッチ操作つまみの停止位置確認が不十分であったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福島県小名浜港1号ふ頭1・2号岸壁で係留索を岸壁のビットに取り終えたあとの係留作業に従事中、船首方の岸壁にいわき丸が着岸している場合、船体がいわき丸に向け移動することのないよう、船体の停止を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、係留索を岸壁のビットに取り終えたことから、船体は停止しているものと思い、船体の停止を十分に確認しなかった職務上の過失により、いわき丸との衝突を招き、いわき丸の船尾外板に破口、及び榮久丸の船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、福島県小名浜港1号ふ頭1・2号岸壁で係留索を岸壁のビットに取り終えたあとの係留作業に従事中、操船を終えて操舵スタンドを離れる場合、遊転中の可変ピッチプロペラに前進推力が生じないよう、同プロペラのピッチ操作のつまみが停止位置にあることを十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、船体がわずかに前方に移動していたのを認めたものの、係留索を固定し終えれば、いずれ船体移動は止まると思い、同プロペラのピッチ操作つまみが停止位置にあることを確認しなかった職務上の過失により、いわき丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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