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1998年(平成10年)

平成9年横審第40号
    件名
貨物船雄勁丸貨物船エンヨウマル衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

雲林院信行、大本直宏、西田克史
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:雄勁丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:雄勁丸二等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
雄勁丸…左舷船首部を圧壊し、左舷側後部外板に亀裂を伴う凹傷
エンヨウマル…船首部を圧壊し、右舷側中央部外板に凹傷

    原因
雄勁丸、エンヨウマル…狭視界時の航法(信号、速力)不遵守

    二審請求者
受審人B

    主文
本件衝突は、雄勁丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、エンヨウマルが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月10日00時42分
千葉県房総半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船雄勁丸 貨物船エンヨウマル
総トン数 3,748トン 2,829トン
全長 108.96メートル 93.88メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 4,471キロワット 2,438キロワット
3 事実の経過
雄勁丸は、船首船橋型の混載自動車専用船で、A及びB両受審人ほか8人が乗り組み、台車や完成車等50台を積載し、船首4.30メートル船尾5.55メートルの喫水をもって、平成8年8月8日20時10分北海道苫小牧港を発し、京浜港東京区に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及びB受審人の3人による単独4時間3直制と決め、折から乗船していた見習航海士をB受審人の当直時間帯に組み入れ、翌9日20時ごろ一等航海士に当直を任せるにあたり、房総半島東方沖合の霧情報を入手していたので、視程300メートルとなる海域などを海図上に記入して同航海士に示すとともに申し継ぐよう指示し、安全航行のために、前もって海図上に引いておいた針路線より沖側に出ても良い旨を伝え、降橋して自室で休息した。
ところで、雄勁丸の船橋には、船橋当直者心得と称し、見張り、機関及び汽笛の使用、航海計器類の使用、狭視界時の船長への報告や航法等が当直者への注意事項として掲示されており、B受審人も機会あるごとに同心得に接していた。したがって、A受審人は、船橋当直を任せるにあたり、霧情報を海図上に記入し、沖出しの指示も与えているので、狭視界が予想されるたびに、その都度指示を出さなくても、同心得に従って行動すれば十分であったことから、改めて狭視界となった際の報告などについての指示を強調しなかった。
翌10日00時00分B受審人は、海図上に記載された針路線より1海里ばかり沖側の、犬吠埼灯台から180度(真方位、以下同じ。)11.9海里の地点で、一等航海士と交替して船橋当直に就き、針路を同針路線に沿う220度に定め、機関を全速力前進にかけ、18.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
B受審人は、入直して間もなく霧により視程が0.5から3海里の範囲で変化するなか、00時27分レーダーにより正船首方及び同方わずか右の6海里と8海里のところに2隻の反航船の映像を初めて認め、両船の動静を監視しながら航行した。そして、同受審人は、同時30分ごろから視程が約100メートルに狭められるようになったが、同2隻の反航船のほかに航行に支障を来す船舶が見あたらなかったので自分1人でも大丈夫と思い、A受審人にこのことを報告せず、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもしないまま続航した。
00時38分少し過ぎB受審人は、前示2隻の反航船のうち先航船(以下「第三船」という。)が、レーダーに映る航跡により、その進路を右方に転じているのを知り、互いに左舷を対して航過できるよう、針路を自動操舵のまま230度に転じた。そしてそのころ、同受審人は、針路を転じたことによって、第三船に後続する反航船エンヨウマルを左舷船首7度2海里のところに見るようになり、その後方位にほとんど変化のないまま著しく接近する状況となるのを知って手動操舵に切り替えたものの、そのままの針路でもエンヨウマルとも左舷を対して何とか航過できそうであり、著しく接近したときには右舵一杯をとればかわせるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく、同一針路及び速力のまま進行した。
B受審人は、引き続きレーダーによりエンヨウマルの映像を見ていたところ、00時41分半前路近距離のところまで接近した同船に衝突の危険を感じ、急きょ右舵35度をとり機関を中立とした。しかしながら、その効なく、00時42分太東埼灯台から079度14.3海里の地点において、300度まで右回頭した雄勁丸の左舷船首部に、エンヨウマルの船首が、前方から85度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視程は約100メートルであった。
A受審人は、自室で休息中、衝突の衝撃を感じて昇橋し、事後の措置にあたった。
また、エンヨウマルは、船尾船橋型の冷凍貨物運搬船で、船長C及び二等航海士Dほか18人が乗り組み、清酒等193トンを載せ、船首2.00メートル船尾4.18メートルの喫水をもって、同月9日16時00分千葉港を発し、北海道釧路港に向かった。
C船長は、船橋当直を一等、二等及び三等各航海士に、それぞれ甲板員1人をつけ、2人による4時間3直制と決め、出航後在橋していたが、視程が約5海里あったので航行に支障がないものと思い、22時30分当直航海土に対し、見張りの徹底及び霧などによる異常事態が生じた際の即時報告を命じたのち、降橋して休息した。
D二等航海士は、23時45分三等航海士と交替して船橋当直に就き、同時55分太東埼灯台から128度10海里の地点に達したとき、針路を035度に定め、機関を全速力前進にかけ、14.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
D二等航海士は、翌10日00時ごろから霧により視程が約100メートルに狭められるようになったが、船長に報告せず、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもしないまま、レーダーによる見張りを行いながら続航した。そして、同航海士は、同時31分少し前右舷船首6度6海里のところに雄勁丸の映像を初めて認めた。
00時38分少し過ぎD二等航海士は、雄勁丸の映像を右舷船首8度2海里のところに認めるようになり、その後方位にほとんど変化のないまま著しく接近する状況であったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしないまま、同一針路及び速力で進行した。そして、同航海士は、同時42分少し前前路近距離のところまで接近した雄勁丸に衝突の危険を感じ、急きょ右舵一杯として機関を停止した。しかしながら、その効なく、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C船長は、D二等航海士の報告により衝突の事実を知り、昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果、雄勁丸は、左舷船首部を圧壊し、左舷側後部外板に亀(き)裂を伴う凹傷を生じ、エンヨウマルは、船首部を圧壊し、右舷側中央外板に凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、霧により視界制限状態となった千葉県房総半島東方沖合において、同半島に沿って南下中の雄勁丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、かつ、レーダーにより前路に探知したエンヨウマルと著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、同半島に沿って北上中のエンヨウマルが、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、かつ、レーダーにより前路に探知した雄勁丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、霧により視界制限状態となった千葉県房総半島東方沖合において、同半島に沿って南下中、レーダーにより船首方から反航してくるエンヨウマルの映像を認め、その後方位にほとんど変化のないまま著しく接近する状況となるのを知った場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、また、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、手動操舵に切り替えたものの、そのままの針路でもエンヨウマルと左舷を対して何とか航過できそうであり、著しく接近したときには右舵一杯をとればかわせるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもしなかった職務上の過失により、同一針路及び速力のまま進行してエンヨウマルとの衝突を招き、雄勁丸の左舷船首部圧壊及び左舷側後部外板に亀裂を伴う凹傷並びにエンヨウマルの船首部圧壊及び右舷側中央部外板に凹傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人が、船橋当直を当直者に任せるにあたり、狭視界となった際の報告などについての指示を徹底していなかったきらいはある。しかしながら、船橋に船橋当直者心得を掲示して狭視界時に当直者がとるべき注意事項を示し、また、事前に霧情報を入手して視程300メートルとなる海域などを海図上に記入し、当直者に示すとともに申し継ぐよう指示しており、安全航行のために、前もって海図上に引いておいた針路線より沖側に出ても良い旨を伝えているなどの点に徴し、同受審人の所為は、本件発生の原因とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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