日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9横審第9号
    件名
貨物船太平丸漁船第八開洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

大本直宏、西山烝一、西田克史
    理事官
清重隆彦

    受審人
A 職名:太平丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:第八開洋丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
太平丸…左舷船首部に凹傷
開洋丸…右舷側船尾部に凹傷

    原因
太平丸…見張り不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
開洋丸…警告信号不履行、追い越しの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第八開洋丸を追い越す太平丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、第八開洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月19日02時00分
大王埼沖合
2 船舶の要目
船種船名 貨物船太平丸 漁船第八開洋丸
総トン数 407トン 230トン
登録長 65.85メートル 40.59メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 735キロワット
3 事実の経過
太平丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、石炭灰1,007トンを載せ、船首2.80メートル船尾4.40メートルの喫水をもって、平成8年4月18日18時45分愛知県衣浦港を発し、大分県津久見港に向かった。
同日23時30分A受審人は、伊良湖水道航路南東方出口で船橋当直を引き継ぎ、所定の灯火表示を確かめて南下し、翌19日01時10分大王埼灯台から141度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達したとき、針路を224度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、操舵位置後方にある椅子(いす)に腰をかけ、右舷側の見張りを重点に行い、折から陸地寄りに数隻の漁船が操業している模様に着目し、時折立ち上がって6海里レンジのレーダー画面でそれらの映像を確かめたりして続航した。
01時51分A受審人は、大王埼灯台から213度7海里の地点で、左舷船首32度600メートルに第八開洋丸(以下「開洋丸」という。)の船尾灯を認め得る状況であったが、左舷側には自船に関係する船舶はいないものと思い、見張りを十分に行うことなく、開洋丸のレーダー映像も見落としたまま、その後同船と衝突するおそれがある態勢で接近していることに気付かず、同船の進路を避けずに進行した。
こうして、A受審人は、02時00分少し前ふと左舷側を見たとき、至近に迫った開洋丸の船影を認めて驚き、右舵に次いで左舵一杯としたが及ばず、02時00分大王埼灯台から215度8.6海里の地点において、太平丸は、ほぼ原針路原速力のまま、その左舷船首部が、開洋丸の右舷側船尾部に、後方から6度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、衝突の衝撃を感じないまま続航し、同日05時ごろ三木埼南東方沖合に至ったとき、衝突した旨の通報を受けて本件発生を知った。
また、開洋丸は、漁獲物運搬などに従事する船尾船橋型の鋼製漁船で、B受審人、C指定海難関係人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、同月18日15時40分静岡県焼津港を発し、愛媛県北宇和郡津島町岩松港に向かった。
B受審人は、船橋当直を自ら、一等航海士及びC指定海難関係人による単独の4時間3直制とし、20時00分所定の灯火表示を確かめ次直の一等航海士に船橋当直を引き継いだが、無資格のC指定海難関係人については船橋当直経験が豊富なので、同人に同当直を任せておいても大丈夫と思い、接近する船舶があれば知らせるよう、一等航海士を通して具体的に指示することなく降橋して休息した。
翌19日00時45分C指定海難関係人は、大王埼東方3.5海里の地点で一等航海士から船橋当直を引き継いで、単独で同当直に就き、01時00分大王埼灯台から141度2.7海里の地点で、針路を234度に定め、機関を全速力前進にかけ、8.3ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
01時51分C指定海難関係人は、大王埼灯台から212度7.3海里の地点で、右舷船尾42度600メートルに太平丸の白、白、紅三灯を初めて認め、その後同船が接近する状況であることを知ったが、船長から何の指示もなかったので、その状況をB受審人に報告せず、その後警告信号を行うことも、更に接近したとき衝突を避けるための協力動作をとることもなく、いずれ少し左転しておけば大丈夫と考え、同一の針路速力で続航し、同時55分針路を230度に転じて進行中、前示のとおり衝突した。
B受審人は、衝撃で衝突を知り、昇橋して事後の措置にあたった。
衝突の結果、太平丸は、左舷船首部に凹傷を生じ、開洋丸は、右舷側船尾部に凹傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が大王埼南東方沖合を南下中、開洋丸を追い越す太平丸が、見張り不十分で、その進路を避けなかったことによって発生したが、開洋丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
開洋丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の航海当直者に対し、接近する船舶があれば報告するよう具体的に指示しなかったことと、無資格の航海当直者が、船長に対して接近する船舶の存在を報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、大王埼南東方沖合を南下中、単独で船橋当直にあたる場合、左舷船首方の開洋丸の船尾灯を見落とさないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側には自船と関係のある船舶はいないものと思い、開洋丸のレーダー映像も見落とし、右舷側陸地寄りで操業している模様の漁船に気を取られ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、原針路原速力のまま進行して開洋丸との衝突を招き、太平丸の左舷船首部及び開洋丸の右舷側船尾部に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人に対する所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、大王埼南東方沖合を南下中、無資格者であるC指定海難関係人に船橋当直を行わせる場合、同当直者が他船を認め、これと接近する状況のときは自ら操船にあたれるよう、他船との接近を報告するよう具体的に指示しておくべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、同指定海難関係人の船橋当直経験が豊富なので、同人に同当直を任せておいても大丈夫と思い、同人に対して他船と接近するときには知らせるよう、具体的に指示しなかった職務上の過失により、太平丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人に対する所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き、大王埼南東方沖合を南下中、接近する他船を認めた際、その旨を船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
C指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION