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1998年(平成10年)

平成9年函審第73号
    件名
漁業取締船へいせい漁船第三十八光洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

平野浩三、大石義朗、岸良彬
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:へいせい船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:へいせい一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:第三十八光洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
へいせい…船尾端右舷外板に凹損
光洋丸…船首部左舷外板に擦過傷

    原因
光洋丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
へいせい…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第三十八光洋丸が見張り不十分で、前路で漂泊中のへいせいを避けなかったことによって発生したが、へいせいが動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
Cを戒告する。
Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月22日12時31分
北海道襟裳岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁業取締船へいせい 漁船第三十八光洋丸
総トン数 470.66トン 19.91トン
全長 50.20メートル
登録長 15.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 956キロワット
漁船法馬力数 150
3 事実の経過
へいせいは、漁船操業の監視業務に従事し、可変ピッチプロペラを有する鋼製漁業取締船で、A受審人及びB受審人ほか12人が乗り組み、監視業務に従事する目的で、漁業監督官1人を乗せ、船首2.0メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成9年5月18日11時00分函館港を発し、襟裳岬南方沖合に向かった。
翌19日07時15分A受審人は、東南東風が次第に強くなり、風波を避けるため襟裳岬灯台西方5海里付近において漂泊して天候の回復を待った。
越えて22日06時00分A受審人は、風波が和らいできたので監視業務を襟裳岬灯台から南南東約15海里付近の海域で行うこととし同海域に向かったものの、次第にうねりが大きくなり、再び避泊するために引き返し、07時15分同灯台から263度(真方位、以下同じ。)3.2海里付近において、機関回転数毎分500、翼角1度とし、船首をほぼ北方に向けて漂泊を開始し、08時00分当直を二等航海士に行わせて降橋した。
12時00分B受審人は、二等航海士から当直を引き継いで三等航海士と共に当直に就き、同時21分襟裳岬灯台から284度5.4海里の地点で船首を340度に向け、右舷前方から風波と海流とにより北西方に0.7ノットの速度で圧流されていたとき、左舷船尾20度1.3海里に折からの風浪で船首を大きく振りながら接近する第三十八光洋丸(以下「光洋丸」という。)を認め、自船の左舷側を航過するものと思い、その後動静監視を十分に行うことがなかったので、同船が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、汽笛の使用についてはA受審人から十分余裕のある時期に機関室に連絡して汽笛の元弁を開放するよう指示されていたが、その旨を連絡しないままでいたところ、同時29分同態勢で接近して距離が500メートルばかりになった同船を認め、依然として左舷側を航過するものと思い、十分余裕のある時期に警告信号を行わず、翼角を前進にかけるなどの避航の措置をとらなかった。同時30分半過ぎ、至近となった同船をほぼ同時に認めた三等航海士が、汽笛のスイッチを押したが作動せず、急いで翼角を全速力前進、右舵一杯としたものの及ばず、12時31分襟裳岬灯台から284度6.1海里の地点において、船首が350度に向いたとき、速力がないまま、へいせいの右舷船尾端に光洋丸の左舷船首が後方から36度の角度で衝突した。
当時、天候は雨で風力6の東北東風が吹き、視程は4海里で、付近海上には波高4メートルの波があった。
また、光洋丸は、刺網漁業などに従事する鋼製漁船で、C受審人ほか3人が乗り組み、刺網を揚網する目的で、船首2.0メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同月22日00時30分えりも港を発し、襟裳岬灯台から南南西方25海里の漁場に向かい、03時00分漁場に達して、揚網を行ったが、次第に風浪が激しくなり、途中で揚網を断念し、09時30分漁場を発進して、帰路に就いた。
11時46分1人で当直中のC受審人は、襟裳岬灯台から243度9.2海里の地点に達し、操舵室の左舷側のいすに腰掛けて自動操舵により針路を026度に定め、機関を全速力前進とし、左方に4度圧流されながら8.0ノットの対地速力で進行中、同人の位置からの前方見通しは、船首楼が高いため船首の右舷15度及び左舷5度が死角となっていたが、当時右舷前方からの風浪で船体が大きく動揺し、操舵室前面の窓に飛沫(まつ)がかかって前方見通しが悪く、右舷側に身体を移動することによって死角を補うことができる状況で、同人の左前方の落とし窓の一部を開放し、折から海面及び雨による反射の影響を抑制するためレーダーのFTCを強くかけ、6海里レンジとして見張りに当たっていたが、そのころ前方を横切る2隻の船舶の動静に気を取られ、画面端の船首方に映し出されていたへいせいを見落とし、やがて同船の映像が雨雲及び海面反射の影響を受けた範囲内に入って探知困難な状況で進行した。
12時21分C受審人は、襟裳岬灯台から271度6.6海里池点において、船首方1.3海里にへいせいの船体を視認し得る状況であったが、レーダーにより前路には船舶がいないものと思い、身体を右舷側に寄せて見張りを行わなかったので、同船の存在に気付かず、船首を大きく左右に振りながら衝突のおそれのある態勢で続航した。
その後もC受審人は、椅子に腰掛けて見張りをレーダーに頼って同船を避けずにいたところ、12時31分わずか前レーダーから目を離して前方を見たとき、船首が波の谷に向かい突然船首至近にへいせいの船体を認め、機関を中立にしたが及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、へいせいは船尾端右舷外板に凹損を生じ、光洋丸は船主部左舷外板版に擦過傷を生じた。

(原因)
本件衝突は、荒天時の北海道襟裳岬沖合において、帰航中の光洋丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のへいせいを避けなかったことよって発生したが、へいせいが、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
C受審人は、荒天時の北海道襟裳岬沖合において、1人の船橋当直で漁場から帰航する場合、船首右舷方に死角があったから、身体を右舷側に寄せるなどして死角を補って見張りを行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に船舶がいないものと思い、死角を補って見張りを行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊するへいせいを避けずに進行して同船との衝突を招き、へいせいの船尾端右舷外板に凹損を及び光洋丸の船首部左舷外板に擦過傷を生じさせるに至った
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、荒天時の北海道襟裳岬沖合において、漂泊当直中、船首を大きく振りながら自船に向けて進行する光洋丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を知ることができるよう、その後の同船に対する動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷を無難に航過するものと思い、その後の同船に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置が遅れて衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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