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1998年(平成10年)

平成9年門審第39号
    件名
引船明治丸引船列漁船第一芳新丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月27日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

酒井直樹、川本豊、藤江哲三
    理事官
西村敏和

    受審人
A 職名:明治丸鉛長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第一芳新丸漁ろう長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
芳新丸…左舷側後部外板に破口を生じて機関室に浸水
明治丸引船列…曳航していた浮船渠の前端部のタイヤフェンダー2個が脱落

    原因
芳新丸…動静監視不十分、追い越しの航法(避航動作)不遵守(主因)
明治丸引船列…見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    二審請求者
補佐人田川俊一

    主文
本件衝突は、明治丸引船列を追い越す第一芳新丸が、動静監視不十分で、同引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、明治丸引船列が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月27日04時00分
鹿児島県鹿児島湾
2 船舶の要目
船種船名 引船明治丸 作業台船十島
総トン数 459トン
載貨重量トン 10,000トン
全長 46.00メートル 65.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出カ 1,471キロワット
船種船名 漁船第一芳新丸
総トン数 101トン
登録長 25.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 380
3 事実の経過
明治丸は、可変ピッチプロペラを備えた船首船橋型引船で、A受審人ほか7人が乗り組み、空船で船首尾とも1.50メートルの喫水となった長さ65.00メートル幅44.00メートル深さ25.00メートルのケーソン製造用浮船渠十島(以下「十島」という。)を無人のまま船尾に曳(えい)航し、船首3.00メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成7年12月19日14時50分茨城県日立港を発し、鹿児島県鹿児島港に向かった。
A受審人は、曳航索として、十島の両舷船渠側壁前端の係船用ビットに係上した長さ35メートルのワイヤーロープの両端と長さ50メートルの化繊ロープをY字形にシャックルで連結し、さらにその先端を明治丸の曳航索ウインチから繰り出した長さ390メートルのワイヤーロープに連結して明治丸の船尾から十島の船尾端までの長さが535メートルの引船列とした。
この引船列の灯火として、A受審人は、明治丸に船舶を引いている航行中の動力船の灯火のほかに船橋甲板後端に取り付けられている2キロワットの投光器1個を十島に向けて照射し、また、十島には他の船舶に引かれている航行中の船舶が表示する灯火として海面上の高さが23.5メートルとなった船渠両舷側上部外側に舷灯と左舷側上部後端に船尾灯を掲げ、その電源として自動点灯スイッチを備えた蓄電池を接続したほか、船渠両舷側上部の前端及び後端とその下方の海面上の高さ8.45メートルの係船用ビット台座のハンドレールに自動点滅式標識灯(以下「点滅灯」という。)各1個をそれぞれ点灯していた。
A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士及び二等航海士の三人で単独の4時間交替として本州の南岸沿いに西行し、同月25日17時45分大隅半島の小山田湾に荒天避泊したのち、翌26日20時00分再び鹿児島港に向け航行を開始して大隅半島の南岸沿いに西行し、翌27日02時02分、佐多岬灯台から266度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点に達したとき、二等航海士から当直を引き継いで単独船橋当直に就き、針路を鹿児島湾口神瀬灯浮標の少し西方に向く351度に定め、機関を翼角14度機関回転数毎分295の全速力前進にかけ、4.0ノットの曳航速力で自動操舵により進行し、03時15分、立目埼灯台から270度1.8海里の地点に達したとき、針路を山川港沖合の鹿児島湾笠瀬灯浮標の2海里ばかり南東方に向く031度に転じて続航した。
A受審人は、03時27分、立目埼灯台から296度1.6海里の地点に達したとき、右舷船尾18度1.2海里のところに、自引船列を追い越す態勢で接近する第一芳新丸(以下「芳新丸」という。)の白、紅、2灯を視認できる状況となり、その後同船が自引船列と衝突のおそれがある態勢で接近した。しかしながら、同人は、曳航している十島の法定灯火と、点滅灯が高い位置に表示されていることから、他船が遠方から視認して避航するものと思い、前方の他船にのみ気を取られて作動中のレーダーを使用するなどして後方の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船に避航を促すよう、警告信号を行うことなく続航した。
A受審人は、03時57分、立目埼灯台から351度2.4海里の地点に達したとき、右舷船尾18度500メートルに接近した芳新丸が自船の後方に引かれている十島の前端右舷側110メートルに並航し、同時59分、鹿児島湾神瀬灯浮標を左舷側2海里に並航したとき、芳新丸が明治丸の右舷船尾18度350メートルに接近し、その後間もなく左転して明治丸と十島との間の曳航索に向首接近したが、依然、後方の見張りを行わなかったのでこのことに気付かず進行中、04時00分、立目埼灯台から350度2.4海里の地点において、明治丸船尾端から後方400メートルばかりのところで、同船の曳航索に、芳新丸の船首が後方から71度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視界は良好であった。
また、芳新丸は、まぐろ延縄漁業に従事するFRP製漁船で、船長Cが父親のB受審人ほか2人と乗り組み、同年10月19日12時00分和歌山県勝浦港を発し、同月26日ミクロネシア漁場に至って操業を開始し、まぐろ13トンを獲て同年12月20日操業を打切り翌21日07時00分グアム港に寄港し、船首1.23メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同日10時00分同港を発し、鹿児島港に向かった。
C船長は、船橋当直を自らとB受審人、機関長及び甲板長の4人で3時間交替の4直制としてグアム島沖合から佐多岬に向け北上を続け同月26日21時00分種子島南端の北西方8海里ばかりの地点で単独船橋当直に就き、航行中の動力船の灯火を表示し、入港時刻調整のために機関を半速力に減じて種子島海峡を通過したのち翌27日00時00分、馬毛島を右舷側8海里ばかりに通過したとき次直の機関長と交替して休息した。
B受審人は、同日02時46分佐多岬灯台から270度1.6海里の地点で、前直の機関長から当直を引き継いで単独船橋当直に就き、針路を鹿児島湾口神瀬灯浮標にほぼ向首する355度に定め、機関を半速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で自動操舵により進行し、03時00分佐多岬灯台から310度2.2海里の地点に達したとき左舷船首4度2.3海里のところを先航する明治丸の黄、白2灯と投光器の強い灯火を初認し、その後これらの灯火が次第に接近することを知った。
B受審人は、03時27分、立目埼灯台から253度1.8海里の地点に達したとき、針路を山川港沖合の鹿児島湾笠瀬灯浮標の1.3海里東方に向く025度に転じたところ明治丸の灯火を左舷船首12度1.2海里に見るようになり、明治丸に曳航された十島の揚げた船尾灯と、点滅灯を左舷前方1.0海里に視認でき、明治丸と十島とが引船列で、自船が同引船列を追い越す態勢で接近することが分かる状況となった。しかしながら、同人は、明治丸が揚げた引船灯と船尾灯は曳網中の漁船が揚げたもので投光器は後方の網を照射しているものと思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、双眼鏡を使用するなどして引き続いて明治丸引船列の動静監視を行わなかったので、同引船列中の十島の掲げた船尾灯と白色点滅灯を視認せず、自船が明治丸を追い越す態勢で接近していることを知ったもののその船尾に十島を曳航していることに気付かないまま続航した。
B受審人は、03時57分、立目埼灯台から348度2.2海里の地点に達し、明治丸に左舷船首12度500メートルに接近したとき、その後方に引かれている十島の前端が左舷側110メートルに並航したが、天井の低い操舵室中央部に立ったまま明治丸の灯火だけを注視していたので、十島の高い位置に揚げている灯火に気付かないまま十島を追い越し、同時59分、明治丸が左舷船首12度350メートルに接近し、曳航されている十島の前端が左舷船尾40度130メートルとなったとき、左舷前方の鹿児島湾笠瀬灯浮標に向け転針予定地点に達したので、明治丸の左舷側を追い越すこととし、機関をいったん停止して明治丸の船尾付近海面に漁網がないことを確認したのち同時59分少し過ぎ再び機関を半速力前進にかけ、十島の進路を避ける措置をとることなく左舵一杯をとって左回頭し、進路を320度に転じ、対地速力が5ノットに達した04時00分、突然船底に異音が生じて行きあしが止まり、前示のとおり衝突した。
衝突後、行きあしが停止した芳新丸の左舷側に、さらに十島の前端部が衝突して押し付けられた状態となり、乗組員全員は十島に移乗し、のち明治丸に救助されたが、船体は左舷側後部外板に破口を生じて機関室に浸水し、機器に濡れ損を生じ、十島は前端部のタイヤフェンダー2個が脱落した。
A受審人は、衝突に気付かないまま続航し、04時55分鹿児島湾笠瀬灯浮標の南方3海里ばかりの地点で、十島に移乗した芳新丸の乗組員が振っている携帯電灯の光に気付いて双眼鏡で十島を注視し、初めて本件発生を知り事後の処置に当たった。

(原因)
本件衝突は、夜間、鹿児島湾立目埼北方沖合において、明治丸引船列を追い越す芳新丸が、動静監視不十分で、同引船列の進路を避けなかったことによって発生したが、明治丸引船列が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、大隅海峡から鹿児島港に向け鹿児島湾口を北上中、前路に明治丸引船列中の明治丸の引船灯、船尾灯及び投光器の灯火を視認した場合、同引船列との衝突のおそれの有無を判断できるよう、引き続き同引船列の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、引船の灯火を曳網中の漁船の灯火と思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近した明治丸引船列中の十島の灯火に気付かず、同引船列の進路を避けることなく進行して十島との衝突を招き、十島のタイヤフェンダーの脱落及び芳新丸の左舷側外板に破口を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、大隈海峡から鹿児島港に向け鹿児島湾口を北上する場合、後方から接近する他船を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、曳航している十島の法定灯火と点滅灯が高い位置に表示されていることから、他船が遠方から視認して避航するものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、芳新丸と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことなく進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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