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1998年(平成10年)

平成9年広審第4号
    件名
漁船進漁丸漁船第二冨士丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月4日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

畑中美秀、亀山東彦、花原敏朗
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:進漁丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:第二冨士丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
冨士丸…右舷船尾外板に破口、船長は約5日間の入院治療を要する頭部外傷後遺症及び外傷性頸部症候群

    原因
冨士丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
進漁丸…動静監視不十分、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第二冨士丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る進漁丸の進路を避けなかったことによって発生したが、進漁丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月21日13時30分
山口県室積港沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船進漁丸 漁船第二冨士丸
総トン数 4.8トン 0.84トン
登録長 11.50メートル 6.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 15 10
3 事実の経過
進漁丸は、小型機船底引き網漁に従事するFRP製漁船で、A受審人が妻と2人で乗り組み、船首0.30メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成8年7月21日04時15分山口県上関漁港を発し、室積港と尾島間の太刀魚の漁場に向かった。
A受審人は、漁場到着後、すでに集合していた50隻余りの漁船とともに太刀魚の引き縄漁にかかり、それぞれ縄が絡まないよう、漁場の北端から南南西方に向けてほぼ同じ方向に縄を引いては、尾島近くで縄を揚げて漁獲物を得る、という操業を繰り返した。
13時14分少し過ぎA受審人は、尾島の付近で揚縄を終えたので、投縄地点まで移動することとし、妻を後部甲板に張っていた日除けオーニングの下で餌付け作業に従事させ、室積港灯台から170度(真方位、以下同じ。)5,100メートルの地点において、針路を026度に定め、機関を毎分2,000回転の半速力にかけて5.0ノットの速力で、遠隔手動操舵にあたって進行した。
A受審人は、投縄地点に向かって発進したとき、左舷船首方に他の漁船群から離れて漂泊していた第二冨士丸(以下「冨士丸」という。)を認めたが、操業しているように見受けられず、当面接近してくることはないと思い、日差しが強かったので舵輪の位置から離れ、右舷後部のオーニングの下で直射日光を防いで遠隔手動操舵を続けた。
13時25分A受審人は、左舷船首45度450メートルに、その後発進して前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で進行していた冨士丸を視認できる状況となったが、右舷船首方五軒屋の沖合0.5海里ばかりに密集していた操業中の漁船群に気をとられ、冨士丸の動静を監視していなかったのでこれに気づかず、同時29分冨士丸は同方位のまま90メートルにまで近づいたが、右転するなど衝突を避けるための最善の協力動作をとらずに続航中、同時30分少し前左舷側至近に接近していた冨士丸にやっと気づき、右舵一杯をとったが効なく、13時30分室積港灯台から146度3,400メートルの地点で、進漁丸は、その船首が036度に向いたとき、原速力のまま冨士丸の右舷船尾に後方から24度の角度で衝突し、冨士丸を左舷側から転覆させた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、冨士丸は、雑漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が一人で乗り組み、船首0.15メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同日04時00分山口県熊毛郡平生町の漁船だまりを発し、太刀魚の漁場に向かった。
B受審人は、04時30分ごろ佐合島と牛島の中間に達し、太刀魚のこぎ釣りにかかったが、釣果が好ましくなく、11時ごろ尾島の北沖合に漁場移動して操業を再開したところ、まずまずの漁獲を得ることができたので、13時過ぎ帰港することとした。
13時20分B受審人は、室積港灯台から164度3,500メートルの地点において、針路をほぼ五軒屋に向首する060度に定め、機関を微速力前進にかけて3.6ノットの速力で、船尾の左舷側に腰を下ろして梶棒(かじぼう)を右手で操りながら進行しているうち、同時25分ごろ右舷正横後11度450メートルに前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していた進漁丸を視認できる状況となったが、右舷船首方の五軒屋の沖合0.5海里ばかりに密集していた操業中の漁船群に気をとられ、右舷横方向の見張りを行わなかったので進漁丸に気づかず、左転するなど同船の進路を避けないまま続航中、冨士丸は原針路・原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、進漁丸に損傷はなく、冨士丸は右舷船尾外板に破口が生じたが、のち修理され、衝突時の衝撃でB受審人は海上に転落し、付近を航行中の僚船に救助されて病院に急行したものの、約5日間の入院治療を要する頭部外傷後遺症及び外傷性頸部症候群を負った。

(原因)
本件衝突は、山口県室積港沖合において、冨士丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近していた進漁丸の進路を避けなかったことに因って発生したが、進漁丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための最善の協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、漁場から帰港中、一人で梶棒を握って操舵にあたりながら見張りに従事していた場合、右舷横から接近していた進漁丸を見落とすことのないよう、右舷横方向の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、右舷前方の漁船群に気をとられ、右舷横方向の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、進漁丸に気づかず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、冨士丸の右舷船尾外板に破口を生じさせたほか、同受審人も海上に転落し、約5日間の入院治療を要する頭部外傷後遺症及び外傷性頸部症候群を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、漁場を移動開始時、左舷船首方で漂泊していた冨士丸を認めた場合、同船がそのうち発進して接近することもあるから、冨士丸の動静監視を行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、右舷前方の漁船群に気をとられ、冨士丸の動静監視を行わなかった職務上の過失により、冨士丸に気づかず、衝突を避けるための最善の協力動作をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷及びB受審人に対する負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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