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1998年(平成10年)

平成9年長審第57号
    件名
プレジャーボート和丸プレジャーボートあけみ丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年2月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

関?彰、安藤周二、保田稔
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:和丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:あけみ丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
和丸…左舷船首に亀裂を伴う損傷
あけみ丸…右舷船尾から船首にかけてブルワークを破損、操舵室を大破

    原因
和丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

    主文
本件衝突は、和丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のあけみ丸を避けなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月23日12時45分
長崎県大島北西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート和丸 プレジャーボートあけみ丸
総トン数 4.96トン 3.2トン
登録長 10.35メートル 10.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 51キロワット 36キロワット
3 事実の経過
和丸は、操舵室を備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が単独で乗り組み、同乗者1人を乗せ、船首0.30メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成8年9月23日10時00分長崎県佐世保市相浦港を発し、同県大蟇島北西方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は、11時15分大蟇島大瀬灯台(以下「大瀬灯台」という。)から310度(真方位、以下同じ。)4.8海里の地点に至り、シーアンカーを使用して漂泊しながら釣りを開始し、折からの南南東に流れる海潮流に圧流されながら釣りを続けたが、12時42分少し前潮上りをして最初の釣り場に戻ることとし、同灯台から295度3.4海里の地点を発進し、そのとき左舷前方1海里ばかりのところで漂泊して釣りをしているあけみ丸を認め、釣果を確かめるつもりで、同船を左舷側50メートルばかり隔てて通過し、大立島に向首する340度に針路を定め、操縦席に腰かけ、右手で機関の操作ハンドルを、左手で操舵輪を握って手動操舵で操船にあたり、機関を全速力前進にかけて19.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、同釣り場は、たいやいとよりの好漁場であり、当時あけみ丸のほかにも十数隻のプレジャーボートなどが漂泊しており、いずれも1ないし2海里流されると潮上りをして一本釣りを行っていた。
A受審人は、当初前方を見張ってあけみ丸を操舵目標にしていたが、12時44分あけみ丸を左舷船首5度590メートルに見る態勢にあったころより、設置したばかりのGPS画面の目的地点の表示に気をとられ、前路の見張りを十分に行うことなく、続航し、同時44分半少し過ぎあけみ丸との距離が200メートルとなったころ、無意識のうちにわずか左舵をとり、針路が保たれずに少しずつあけみ丸寄りに偏したことに気付かないまま進行した。
A受審人は、12時45分わずか前あけみ丸との距離が100メートルとなって同船に向首することとなったものの、依然前路を見張らずに進行してこのことに気付かず、同船を避けないまま進行し、12時45分大瀬灯台から304度4.2海里の地点において、和丸の左舷船首が、原針路から20度回頭して320度を向き、原速力で、あけみ丸の右舷船尾に後方から20度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、南南東に流れる海潮流があった。
また、あけみ丸は、操舵室を備えたFRP製プレジャーボートで、B受審人が単独で乗り組み、同乗者5人を乗せ、船首0.40メートル船尾0.80メートルの喫水をもって、同日07時00分同県瀬戸港を発し、大蟇島北西方沖合の釣り場に向かった。
B受審人は、同日07時30分ころ同釣り場付近に至るとシーアンカーを船首から入れて釣りを開始し、風と海潮流に流されるたびに潮上りをし、12時00分ころ大瀬灯台から309度4.8海里ばかりの地点で4回目の釣りを再開した。
B受審人は、12時43分少し過ぎ再び流されて前示衝突地点付近に至り、船首を大立島方向の340度に向け、船尾甲板で船尾方を向き釣りを続けていたとき、右舷船尾3度1,000メートルのところに和丸を初めて認め、同時44分同船が右舷船尾5度590メートルに接近し、自船の右舷側を50メートルばかり隔てて航過して行く態勢にあると判断し、その動静を監視していたところ、同時44分半少し過ぎ同船が200メートルに接近したころ、その針路がゆっくりと左に偏してくるのに気付いた。
B受審人は、和丸が左転している様子ではなく、針路がずれただけでそのうちに針路をもとに戻すものと思い、引き続きその動静を監視していたところ、12時45分少し前同船との距離が150メートルとなったとき、まだ自船の方に向首してはいないものの、依然として針路を戻す気配が感じられず、かすかながらまだ左転を続けているのに気付いて不安を感じ、汽笛の備えもなかったため立ち上がって両手を振り大声で叫んだが効なく、同時45分わずか前同船が100メートルに近付いたころ自船に向首する態勢となり、危険を感じて同乗者をかばいながら甲板に伏せて避難中、自船が340度を向いた状態で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、和丸は、左舷船首に亀(き)裂を伴う損傷を生じ、あけみ丸は、右舷船尾から船首にかけてブルワークを破損し、操舵室を大破したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、和丸が、長崎県大蟇島北西方沖合の釣り場において、漂泊中のあけみ丸を近距離に隔てた針路で潮上りをする際、見張り不十分で、針路が偏して前路の同船に向首したまま、同船を避けなかったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、長崎県大蟇島北西方沖合の釣り場において、漂泊中のあけみ丸を近距離に隔てた針路で潮上りをする場合、同船を目標としながら針路を保持できるよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、目的地点のGPSの表示に気をとられ、前路の見張りを怠った職務上の過失により、針路が偏してあけみ丸に向首し、同船を避けずに進行して衝突を招き、和丸の左舷船首に亀裂を伴う損傷を、あけみ丸の右舷船尾から船首にかけてブルワークに損傷を生じ、操舵室を損壊させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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