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1998年(平成10年)

平成9年神審第75号
    件名
プレジャーボートハーディー−ラック防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、工藤民雄、織戸孝治
    理事官
吉川進

    受審人
A 職名:ハーディー−ラック船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ハ号…船首部が圧壊、船長ほか同乗者全員がそれぞれ骨折や打撲傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件防波堤衝突は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月17日05時55分
大阪港堺泉北区
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートハーディー−ラック
全長 7.96メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 110キロワット
3 事実の経過
ハーディー−ラック(以下「ハ号」という。)は、レーダーを装備していないFRP製プレジャーボートで、A受審人が船長としてひとり乗り組み、船釣りを行う目的で、A株式会社の従業員3人とその子供2人を同乗させ、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、平成8年11月17日05時30分大阪港堺泉北区第5区浜寺水路内の、泉北大津南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から090度(真方位、以下同じ。)2.4海里の高石マリーナを発し、和歌山県友ヶ島水道を経て淡路島南岸沖合の沼島付近釣り場に向かった。
ところで、ハ号は、A受審人が役員をしているA株式会社が、従業員の福利厚生を目的として昭和63年に購入し、高石マリーナに定係していたもので、A受審人は同船購入後、月に二度ばかり船長として同船に乗り組み、従業員やその家族などを乗せて友ヶ島水道周辺に出掛けて釣りを楽しんでいた。
A受審人は、平素堺泉北区を出航して友ヶ島水道方面に向かうとき、浜寺水路を経て助松ふ頭とその北東側対岸のガス会社岸壁との間の水路出口にある泉北南第3号及び同第4号灯浮標(以下、灯浮標名については「泉北」を省略する。)の間を通過し、その北西方1,000メートルばかりにある南第2号灯浮標付近で徐々に左転すると、間もなく左舷前方に関西国際空港が見えるようになるので、針路を操縦席の前にある磁気コンパスで真針路の228度に当たる羅針路220度とし、同空港の北端付近に向けて約25ノットの全速力前進で航行することにしていた。
こうして、A受審人は、船体中央部にある操舵室前部の操縦席に腰掛け、当時日出の約1時間前で暗かったものの水路両岸が道路の照明灯や工場群の照明などで明瞭(りょう)に視認できるので、両岸を目視で確認しながら水路に沿ってそのほぼ中央部を航行し、05時45分南防波堤灯台から095度1.1海里の地点に達したとき、南第3号及び同第4号灯浮標の灯火を視認できるようになり、針路をこれらの中間に向く323度に定め、機関回転数を毎分1,500として約8ノットの速力で手動操舵により進行した。
05時47分半A受審人は、南防波堤灯台から079度1,700メートルの地点に達したとき、そのころ後部甲板にいた2人の子供に対して寒いから操舵室に入るよう注意したりするなど、操船以外のことに気をとられ、左舷船首350メートルばかりに見えるようになった南第4号灯浮標の灯火が、転針目標としていた南第2号灯浮標と同じ灯質で、予定転針地点に達したものと思い違いし、右舷側のガス会社の岸壁やタンク群の見え具合及び助松ふ頭の視認模様によって船位を十分に確認することなく、左転を開始した。
05時51分少し過ぎA受審人は、南防波堤灯台から075度800メートルの地点に達したとき、針路をいつものように228度に転じたところ、泉北大津南防波堤に向首する態勢となったが、いつもなら見えてくる関西国際空港の明かりが、海面上の高さが約4メートルある同防波堤に妨げられて視認できず、その明かりを探しながら続航中、05時55分南防波堤灯台から164度420メートルばかりの同防波堤東面に、原針路、原速力のまま衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
衝突の結果、防波堤には擦過痕が生じたのみで損傷がなかったが、ハ号は船首部が圧壊し、のち修理されないまま売却され、A受審人ほか同乗者全員がそれぞれ骨折や打撲傷を負った。

(原因)
本件防波堤衝突は、夜間、大阪港堺泉北区を出航中、灯浮標を転針目標として針路を転じる際、船位の確認が不十分で、転針目標とした灯浮標を取り違えたまま泉北大津南防波堤に向け進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、大阪港堺泉北区を出航中、灯浮標を転針目標として針路を転じる場合、付近に同様な灯質の航路標識が設置されていたのであるから、転針目標とする灯浮標を取り違えることのないよう、灯浮標のみでなく近くの陸岸のタンク群の視認状況などで船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、後部甲板にいた子供に対して操舵室に入るよう注意したりするなど、操船以外のことに気をとられ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、転針目標とした灯浮標を取り違え、泉北大津南防波堤に向け進行して同防波堤に衝突し、船首部を圧壊させるとともに、同人を含め同乗者5人にそれぞれ骨折や打撲などの傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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