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1998年(平成10年)

平成9年門審第92号
    件名
貨物船大黒丸プレジャーボート第2光進丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月9日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

畑中美秀、清水正男、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:大黒丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第2光進丸船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大黒丸…右舷中央部の外板に凹損とその上部のハンドレールに曲損
光進丸…船首部を圧壊、船長が約1週間の通院治療を要する頭部打撲及び前額部挫創

    原因
光進丸…見張り不十分、港則法の航法(航路・避航)不遵守(主因)
大黒丸…警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、関門港において航路外から航路に入った第2光進丸が見張り不十分で航路を航行していた大黒丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大黒丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月8日01時40分
関門港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船大黒丸 プレジャーボート第2光進丸
総トン数 199トン 3.4トン
全長 58.90メートル
登録長 9.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット 128キロワット
3 事実の経過
大黒丸は、専ら関西から九州北部方面へ各種プラント及び鋼材などの輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼板704トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成8年8月7日05時30分東播磨港を発し、長崎港に向かった。
A受審人は、機関長と2人で6時間毎の輪番制の航海当直体制をとり、翌8日00時それまで船橋当直にあたっていた機関長と交代して単独の航海当直に入り、01時21分ごろ関門橋を通過したのち、同時8分半下関岬ノ町防波堤灯台から115度(真方位、以下同じ。)60メートルの地点に達したとき、針路を199度に定め、機関を10.5ノットの全速力前進にかけ、折からの1.0ノットの南西流に順じて11.5ノットの対地速力で、関門航路の右側をこれに沿って手動操舵にあたりながら進行した。
01時38分半A受審人は、山底ノ鼻灯台から097度330メートルの地点に至り、同灯台を右舷正横に見て並航する転針予定地点に達したので、右転しようとしたところ、右舷船首45度800メートルに、関門航路を西から東に横切る態勢で、航路外から航路に入ってきた第2光進丸(以下「光進丸」という。)の白・紅2灯を初認し、すでに互いに至近に迫り、航路をこれに沿って航行している自船の進路に同船が接近する状況で、衝突の危険が生じていたが、光進丸はそのうち左転し、航路外に出て自船の後方を替わっていくものと思い、速やかに同船に避航を促すための警告信号を吹鳴せずに続航した。
A受審人は、更に接近するも警告信号を吹鳴しないまま右舵5度をとって緩やかに右転を続けていたところ、光進丸は依然として航路を横切る態勢のままで接近し続け、同時39分半やっと危険を感じ、船橋上の探照灯を点滅して注意喚起し、左舵一杯をとったが効なく、01時40分山底ノ鼻灯台から180度430メートルの地点において、大黒丸が、206度を向いたとき、光進丸の船首が大黒丸の右舷中央部に前方から70度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東風が吹き、付近には0.9ノットの南西流があった。
また、光進丸は、中古のFRP製漁船として購入されたのち、漁船及び遊漁船の登録を新たに受けていたものの、当時私的なレジャーに使用されていたもので、B受審人が息子で船主のCから一時借り受けて1人で乗り組み、船首0.4メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月7日16時30分関門港門司区大里本町の船だまりを発し、関門海峡西口沖合の女島付近の釣り場に向かい、18時ごろ釣り場に到着して釣りにかかったものの、B受審人の不手際で発電機が度々ブラックアウトし、集魚灯の、点灯に時間がかかることに嫌気がさし、翌8日00時釣りを中断して帰港の途についた。
B受審人は、関門港内に入航したのち、九州側に寄せて機関を9.0ノットの半速力前進にかけて手動操舵で航行し、01時25分ごろ小倉日明北岸壁の沖合から、目的地に向けて最短距離の針路をとることとし、関門航路を横切って大山ノ鼻灯台の南沖合150メートルに至り、彦島南岸に沿って航路の外側を東行し、同時37分少し過ぎ山底ノ鼻灯台から245度840メートルに達したとき、針路を再び関門航路を横切って門司大里防波堤灯台に向首する096度に定めて進行した。
01時38分半B受審人は、関門航路の北側境界線を斜めに横切って航路外から航路内に入ったとき、左舷船首32度800メートルに航路内を南下していた大黒丸の白・白・緑3灯を視認できる状況となったが、同じく左舷船首方に見えていた関門航路第19号灯浮標の緑色点滅灯と門司側海岸沿いの国道を通行する自動車の灯火に紛れて同船の灯火を見落としたうえ、折から東行していた右舷前方の貨物船の動静に気をとられ、左舷前方の見張りを十分に行わなかったので、大黒丸に気づかずに同船の進路を避けないまま続航中、前示のとおり、原針路・原速力のまま衝突した。
衝突の結果、大黒丸は、右舷中央部の外板に凹損とその上部のハンドレールに曲損を生じ、光進丸は、船首部が圧壊したが、のちいずれも修理され、B受審人は衝突時の衝撃で、約1週間の通院治療を要する頭部打撲及び前額部挫創を負った。

(原因)
本件衝突は、夜間、関門港において、航路外から航路に入った光進丸が、見張り不十分で、航路を航行していた大黒丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大黒丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、関門航路の屈曲部において、航路を横切るため航路外から航路内に入ろうとする場合、航路を航行している船舶を見落とすことのないよう、左右の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、右舷前方で同航路を東行していた他の船舶の動静に気をとられ、左舷前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、左舷前方の大黒丸の灯火を見落とし、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、大黒丸の右舷中央部に凹損などの損傷と、光進丸の船首部に圧壊とを生じさせ、自身も頭部打撲及び前額部挫創を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、夜間、関門航路を航行中、航路の屈曲部で右舷船首方に、突如航路外から航路に入って接近する光進丸の灯火を認めた場合、衝突の危険が生じた状況にあったから、速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、光進丸は自船の後方を替わるものと思い、速やかに警告信号を行わなかった職務上の過失により、光進丸に避航を促さないまま進行し、同船との衝突を招き、前示の損傷と負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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