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1998年(平成10年)

平成9年門審第9号
    件名
貨物船ぎおん丸漁船大黒丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、畑中美秀、西山烝一
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:ぎおん丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:ぎおん丸一等航海士 海技免状:三級海技士(航海)
C 職名:大黒丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ぎおん丸…船首部に擦過傷
大黒丸…左舷側後部外板に破口を生じて間もなく転覆、船長及び甲板員がそれぞれ腰椎打撲

    原因
ぎおん丸…狭視界時の航法(信号・速力・レーダー)不遵守(主因)
大黒丸…狭視界時の航法(信号・レーダー)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、ぎおん丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、大黒丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Bの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月9日05時20分
日向灘
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ぎおん丸 漁船大黒丸
総トン数 1,565トン 4.9トン
全長 105.62メートル
登録長 10.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 5,957キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
ぎおん丸は、船尾船橋型の貨物船で、A及びB両受審人ほか10人が乗り組み、コンテナ等約500トンを積載し、船首3.3メートル船尾4.9メートルの喫水をもって、平成8年6月8日15時40分大阪港を発し、鹿児島県志布志港に向かった。
A受審人は、船橋当直を一等航海士、二等航海士及び三等航海士にそれぞれ甲板手1人をつけた4時間3直制とし、当時霧の発生しやすい時期であったが、平素から視界が悪くなったときには知らせるように言っていたので、視界が悪くなれば当直者が自発的に報告してくれるものと思い、翌9日02時ごろ在橋していたとき視界が良かったので、霧で視界が制限されたとき自ら操船の指揮を執ることができるよう、視界制限時の船長への報告を各当直者に申し送るよう十分に指示することなく、二等航海士に当直を任せて降橋した。
B受審人は、04時00分二等航海士と船橋当直を交替し、同時30分細島灯台から100度(真方位、以下同じ。)10.1海里の地点で、針路を210度に定め、機関を全速力前進にかけ、20.2ノットの対地速力で航行中の動力船の灯火を揚げ、自動操舵により進行した。
B受審人は、当直を交替して間もなく霧により視程が0.5ないし1海里となり、05時10分ごろから視界が急に悪化して視程が約100メートルとなり、視界制限状態となったが、就寝間もないA受審人を起こすことがためらわれ、視界制限状態になったことを報告せず、霧中信号を行うことも、安全な速力に減じることもなく続航した。
05時17分B受審人は、正船首方1海里のところに漂泊中の大黒丸をレーダーで探知できる状況であったが、このころ6海里レンジとしたレーダーにより自船から2海里以上離れたところに他の4隻の映像だけを認めていたので、このほかに他船はいないものと思い、波浪の影響で小型の漁船は近距離でなければレーダーに映りにくい状況であったものの、短距離レンジに切替えるなどレーダーを適切に使用して見張りを十分に行うことなく、大黒丸の映像を見落としたまま、その後同船に著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
05時20分わずか前B受審人は、正船首に黄色の回転灯を視認し、右舵一杯を令したが効なく、05時20分川南港南防波堤灯台から098度8.4海里の地点において、ぎおん丸は、原針路、原速力のまま、その船首が大黒丸の左舷側後部に前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、視程は約100メートルであった。
A受審人は、自室で就寝中、衝突の衝撃を感じ、直ちに昇橋し事後の措置に当たった。
また、大黒丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、C受審人が同人の父親の甲板員と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.2メートルの喫水をもって、同月9日03時50分宮崎県川南漁港を発し、同港東方9海里の漁場に向かった。
04時50分C受審人は、川南漁港東方の漁場に着き、出航時から霧模様の視界が更に狭められ、視程が約100メートルになったが、霧中信号を行わず、操業を始める前にレーダーを3海里レンジとして監視したところ、他船の映像を認めなかったのでレーダーをスタンバイとしたうえ、航海灯を消灯してから黄色の回転灯及び作業灯を点灯し、甲板員を操舵及び機関の操作に当て、魚群探索を行ったのち、05時13分ごろ前示衝突地点付近において機関を中立にし、自らは船尾左舷側で後方を向き、手釣りであじの一本釣りを始めた。
05時17分C受審人は、船首が北東方に向いた状態で漂泊しながら操業しているとき、レーダーで左舷船首25度1海里のところにぎおん丸の映像を探知でき、その後同船が衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めることができる状況であったが、漂泊地点付近は航行船舶が少ないのでレーダーを見なくても大丈夫と思い、レーダーによる見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かないまま操業を続けているうち、同時20分わずか前、ぎおん丸の機関音を聴くとともに左舷方に同船の船首部を視認したものの、どうすることもできず、船首が055度に向いて前示のとおり衝突した。
衝突の結果、ぎおん丸は、船首部に擦過傷を生じたのみであったが、大黒丸は、左舷側後部甲板に破口を生じて間もなく転覆し、のち僚船により川南漁港に引き付けられた。また、C受審人及び甲板員Dがそれぞれ腰椎打撲を負った。

(原因)
本件衝突は、霧により視界が制限された日向灘において、航行中のぎおん丸が、霧中信号を行うことも安全な速力とすることもせず、レーダーによる見張り不十分で、前路に漂泊中の大黒丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことによって発生したが、漂泊中の大黒丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分であったことも一因をなすものである。
ぎおん丸の運航が適切でなかったのは、船長の当直者に対する視界制限時の報告についての指示が十分でなかったことと、当直者の視界制限時の報告及び措置が適切でなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
B受審人は、霧のため視界が制限された日向灘を航行する場合、前路で漂泊中の他船を見落とさないよう、レーダーレンジを短距離に切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、4隻の映像のほかに他船はいないものと思い、レーダーレンジを6海里としたまま、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行して衝突を招き、ぎおん丸の船首部に擦過傷及び大黒丸の左舷側後部外板に破口を生じさせて転覆させ、C受審人及びD甲板員にそれぞれ腰椎打僕を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人は、日向灘を航行中、部下に船橋当直を行わせる場合、霧の発生しやすい時期であったから、視界制限時の船長への報告を各当直者に申し送るよう十分に指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、視界が悪くなれば当直者が自発的に報告してくれるものと思い、視界制限時の船長への報告を各当直者に申し送るよう十分に指示しなかった職務上の過失により、視界が制限された際、自ら操船の指揮を執ることができずに衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、霧のため視界が制限された日向灘において、漂泊して一本釣りにより操業する場合、接近する他船を探知できるよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漂泊地点付近は航行船舶が少ないのでレーダーを見なくても大丈夫と思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、そのまま操業を続けて衝突を招き、前示の損傷及び負傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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