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1998年(平成10年)

平成10年広審第5号
    件名
旅客船神戸丸油送船裕洋丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、釜谷奬一、上野延之
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:神戸丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:神戸丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)
C 職名:裕洋丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
D 職名:裕洋丸甲板手 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
神戸丸…右舷船首部に軽微な凹損及び右舷後部に擦過傷
裕洋丸…左舷船首部及び左舷後部に凹損

    原因
神戸丸…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(主因)
裕洋丸…動静監視不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、神戸丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、裕洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Dを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月18日01時25分
備讃瀬戸東部
2 船舶の要目
船種船名 旅客船神戸丸 油送船裕洋丸
総トン数 3,717トン 499トン
全長 116.03メートル 62.76メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 8,090キロワット 882キロワット
3 事実の経過
神戸丸は、神戸・高松両港間に定期運航する旅客船兼自動車渡船で、A、B両受審人ほか19人が乗り組み、車両14台及び旅客46人を載せ、船首3.6メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成9年5月17日22時00分神戸港を発し、高松港に向かった。
ところでA受審人は、神戸・高松両港での入出港操船のほか、明石海峡及び備讃瀬戸東口から高松港の間を自ら操船指揮することとしていたため、当該海域手前で報告するよう船橋当直者に対し指示しており、その他の海域を航海士、甲板手及び甲板員各1人の計3人による船橋当直者に任せて運航していた。また、同受審人は、休息できるのが主に播磨灘航行中の2時間ばかりであったが、このときは船橋隣の自室で仮眠をとることとしており、平素から当直者に対して、不安を感じるときには報告するよう指示・指導していた。
こうして、B受審人は、他の当直者2人と共に同日22時40分神戸港沖合で、出港操船を終えたA受審人から操船を引き継いで船橋当直に就き、航行中であることを表示する灯火を掲げ、明石海峡航路を経て、翌18日01時00分大角鼻灯台から115度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点で、針路を262度に定め、機関を全速力前進にかけ約19.0ノットの対地速力で、手動操舵により備讃瀬戸東航路東口へ進行した。
01時06分少し過ぎB受審人は、大角鼻灯台が右舷正横となったとき、高松入港時刻調整のため、主機関回転数微調整ダイヤルにより同回転数を少し下げて約18.0ノットの対地速力として続航し、同時9分半わずか過ぎ他船避航のため、針路を264度に転じて進行した。
01時14分半わずか過ぎB受審人は、大角鼻灯台から235度5,150メートルの地点に達したとき、左舷船首45度1.7海里ばかりのところに鳴門海峡方面からほぼ305度を向首して来航する第三船のマスト灯2灯及び緑色舷灯を初認したので同船を替わすつもりで、針路を備讃瀬戸東航路北東端に向く270度に転じて進行したが、このとき、右舷船首3度2,050メートルに裕洋丸の船尾灯を視認し得る状況であったものの、前示第三船に気を奪われて、この状況に気付かなかった。
B受審人は、01時19分地蔵埼灯台から109度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首5度1,100メートルのところに裕洋丸の船尾灯を初めて認め、その後同船の左舷側を約100メートル離して接近する態勢となったのを知ったものの、このころ左舷船首45度1,700メートルばかりに、前示第三船が白、白、緑3灯を表示し、なおも明確な方位の変化なく接近するのを認めていたので、裕洋丸に対する動静監視が不十分となり、速やかに減速するなどして同船との衝突を避けるための措置をとることなく、同針路・同速力のまま続航した。
B受審人は、01時22分左舷船首近距離に迫った第三船と衝突の危険を感じ、機関を極微速力前進とするとともに、同船と裕洋丸の両船に向けて探照灯を照射し、同時23分半ごろ機関を中立として右舵5度を命じて、惰力により右転中、神戸丸は、01時25分地蔵埼灯台から203度930メートルの地点において、275度を向首したその右舷船首が、裕洋丸の左舷船首に後方から約1.5度の角度で衝突し、その直後、神戸丸の右舷後部と裕洋丸の左舷後部が再度衝突した。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、ほぼ転流期であった。
A受審人は、自室で休息中、衝突の衝撃で目覚め、直ちに昇橋したところ、裕洋丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
また、裕洋丸は、国内各港間の油製品の輸送に従事する船尾船橋型油タンカー兼引火性液体物質ばら積船兼液体化学薬品ばら積船で、C、D両受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.6メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月17日19時45分大阪港を発し、瀬戸内海経由で大分港に向かった。
ところでC受審人は、船橋当直を同人、一等航海士及びD受審人の3名による単独4時間交代制とし、明石・来島両海峡等の狭水道では自ら操船するほか、平素から当直者に対して危険を感じた場合等には報告するよう指示・指導して運航に当たっていた。
こうして、D受審人は、同日23時50分ごろ播磨灘航路第4号灯浮標付近で、船橋当直に就き、航行中であることを表示する灯火を掲げ、同航路灯浮標に沿って備讃瀬戸東航路へ向かい、翌18日00時54分半わずか過ぎ大角鼻灯台から169度1.5海里の地点で、針路を同航路東口北東端に向首する268.5度に定め、来島海峡の通過時刻調整のため機関を全速力前進よりやや減速し、約11.0ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
D受審人は、01時19分地蔵埼灯台から118度1,900メートルの地点で、左舷船尾6.5度1,100メートルに神戸丸のマスト灯及び緑色舷灯が視認でき、その後自船に著しく接近して衝突のおそれのある態勢であることを認め得る状況であったが、このことに気付かなかった。
01時21分ごろD受審人は、地蔵埼灯台から132度1,350メートルの地点に達したとき、ようやく左舷船尾7度700メートルに神戸丸のマスト灯及び緑色舷灯を初認し、その後自船の左舷側を約100メートル離れて航過する状況であったが、動静監視が不十分で、一瞥(べつ)して左舷を航過して行くものと思い、警告信号を行い、大きく右転するなどして衝突を避けるための措置をとることなく、同針路・同速力のまま続航中、01時22分ごろ神戸丸が前示第三船に対し探照灯を照射していることを認めたので、神戸丸との航過距離を広げるつもりで、自動操舵のまま針路を5度右転して、海図台に向かい備讃瀬戸東航路入航後の針路を確かめた後、同時25分少し前操舵位置に戻ったとき、同船が左舷至近に迫っていることに気付き、急いで手動操舵に切り替えて右舵一杯とするも効なく、裕洋丸は、ほぼ原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
C受審人は、自室で休息中、衝突の衝撃を感じて、直ちに昇橋したところ、神戸丸と衝突したことを知り、事後の措置に当たった。
衝突の結果、神戸丸は右舷船首部に軽微な凹損及び右舷後部に擦過傷を生じたが修理するまでには至らず、裕洋丸は左舷船首部及び左舷後部に凹損を生じてのち修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、両船が備讃瀬戸東航路東口に向け西行中、同航路東口東方海域において、神戸丸が、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、裕洋丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路東口東方海域において、左舷方から明確な方位の変化なく接近する第三船を認めて同航路に向け西行中、船首右前方を同航する裕洋丸に接近する態勢となったのを知った場合、衝突の有無を確認することができるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前示第三船に気を奪われ、裕洋丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、裕洋丸に衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、神戸丸の右舷船首部に軽微な凹損及び右舷後部に擦過傷並びに裕洋丸の左舷船首部及び左舷後部に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
D受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路東口東方海域を同航路に向け西行中、左舷後方に神戸丸のマスト灯及び緑色舷灯を認めた場合、衝突の有無を確認することができるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一瞥して航過して行くものと思い、神戸丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のD受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。
C受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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