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1998年(平成10年)

平成10年長審第16号
    件名
漁船第十八菊丸漁船平成丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

安部雅生、原清澄、坂爪靖
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:第十八菊丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:平成丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
菊丸…右舷船尾部などを破損
平成丸…右舷船首部防舷材に軽微な凹損

    原因
平成丸…見張り不十分、各種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
菊丸…見張り不十分、警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、平成丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している第十八菊丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十八菊丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年6月21日11時47分
長崎県五島列島白瀬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十八菊丸 漁船平成丸
総トン数 9.7トン 5.6トン
登録長 14.98メートル 12.82メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 364キロワット
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
第十八菊丸(以下「菊丸」という。)は、延縄(はえなわ)漁業等に従事するFRP製漁船で、A受審人と同人の父の2人が乗り組み、たこつぼ延縄漁を行う目的で、船首1.00メートル船尾1.70メートルの喫水をもって、平成9年6月21日04時00分長崎県水ノ浦漁港を発し、五島列島白瀬南西方沖合の漁場に向かった。
05時30分ごろA受審人は、1個の重さが約7キログラムのたこつぼを250個取り付けた全長約3,000メートルの延縄を1連と称し、16連を設置した水深約100メートルの漁場に至り、5連ばかりを揚げ戻すこととして操業を開始した。
A受審人は、船首を延縄の設置方向に向け、機関を回転数毎分700にかけてクラッチの嵌脱(かんだつ)を繰り返しながら1.0ノットの前進速力とし、舵を自動操舵としたまま、自らは船首方を向き、右舷船首部に備えた揚縄機の操作に当たり、同機の船尾方で右舷側に背を向けてブルワークに腰をかけた父に海面から上がってくるたこつぼからたこを取り出す作業を行わせ、3連目を終えたところで、北西方から南東方に向けて設置していた4連目の揚げ戻しにかかることとし、11時10分五島白瀬灯台(以下「白瀬灯台」という。)から239.5度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点において、針路を129度に定め、それまでと同様に1.0ノットの前進速力とし、自動操舵で進行した。
ところで、菊丸は、漁ろうに従事している船舶が表示する形象物を掲げていなかったが、揚縄機を備え、極低速力で進行しているうえ、付近の海域がたこつぼ延縄の漁場となっていることから、たこつぼ延縄漁に従事中の漁船と一見すれば分かる状態であった。
11時44分半A受審人は、右舷船尾44度950メートルのところに、自船に向けて接近する平成丸を視認し得る状況で、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、たこつぼの揚げ戻しに気をとられ、後方の見張りを十分に行うことなく、平成丸の存在に気付かないまま続航した。
11時46分半A受審人は、右舷船尾44度200メートルのところに、自船に向けて著しく接近する態勢の平成丸を初めて視認したものの、一瞥(いちべつ)しただけで同船が自船の船尾方を替わしていく船か、あるいは、当日、自船に近づいてたこつぼ延縄の設置方向を尋ねた漁船がいたことから、平成丸もそのつもりで自船に接近してきたものかと特に気にも留めずにたこつぼの揚げ戻しを続け、衝突のおそれがある態勢で接近する同船に対し、速やかに警告信号を行わずに進行中、同時47分わずか前右舷船尾至近に迫った平成丸の船体を再び認め、驚いて大声で叫んで手で合図を送るとともに、急ぎ機関の回転数を上げて増速したが、及ばず、11時47分白瀬灯台から232度4.5海里の地点において、ほぼ原針路のままの菊丸の右舷船尾部に、平成丸の右舷船首部が後方から約41度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東北東風が吹き、視界は良好であった。
また、平成丸は、延縄漁業等に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、あかむつ延縄漁を行う目的で、船首0.60メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、同日01時00分長崎県小値賀漁港を発し、03時00分ごろ五島列島白瀬南西方沖合の漁場に至って操業を行い、あかむつ16キログラムを獲て帰航することとし、11時24分白瀬灯台から251度9.0海里の地点を発進した。
漁場発進時、B受審人は、針路を088度に定め、機関を1,500の半速力前進にかけ、13.0ノットの速力として自動操舵で進行し、付近に他船を見かけなかったので、前部甲板で船首方を向き、しゃがんで魚の箱詰め作業を始めた。
11時44分半B受審人は、左舷船首3度950メートルのところに、極低速力で南下中の菊丸を視認し得る状況で、その後同船の方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、魚の箱詰め作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行うことなく、菊丸の存在に気付かないまま続航した。
11時46分半B受審人は、菊丸の方位が変わらないまま200メートルに接近したが、依然その存在に気付かず、同船の進路を避けずに進行中、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、菊丸は、右舷船尾部などを破損し、のち修理されたが、平成丸は、右舷船首部防舷材に軽微な凹損を生じたのみであった。

(原因)
本件衝突は、長崎県五島列島白瀬南西方沖合において、漁場から帰航中の平成丸が、見張り不十分で、前路でたこつぼ延縄漁に従事している菊丸の進路を避けなかったことによって発生したが、菊丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、長崎県五島列島白瀬南西方沖合の漁場から小値賀漁港に向け、1人で操船に当たって航行する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前部甲板での魚の箱詰作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路でたこつぼ延縄漁に従事中の菊丸に気付かず、同船の進路を避けることができないまま進行して衝突を招き、同船の右舷船尾部などを破損し、平成丸の右舷船首部防舷材に凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、長崎県五島列島白瀬南西方沖合において、たこつぼ延縄漁に従事する場合、後方から接近する他船を見落とさないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、たこつぼの揚げ戻しに気をとられ、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、平成丸が間近に接近するまで同船に気付かず、同船を視認したあとも、速やかに警告信号を行うことなくたこつぼの揚げ戻しを続けて衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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