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1998年(平成10年)

平成9年長審第85号
    件名
漁船第五十一源宝丸漁船(船名なし)衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:第五十一源宝丸船長 海技免状:二級小型船舶操縦士(5トン未満限定)
    指定海難関係人

    損害
源宝丸…右舷船首部に擦過傷及び推進器等に曲損
伝馬船…左舷中央部外板に破口を生じで浸水、のち廃船、船頭が肋骨骨折等、Bの妻が死亡

    原因
源宝丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
伝馬船…船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、第五十一源宝丸が見張り不十分で、ろかいのみを用いて航行する漁船(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、漁船(船名なし)が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Aの二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年11月22日13時15分
熊本県嵐口漁港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十一源宝丸 漁船(船名なし)
総トン数 14トン
全長 16.1メートル 約4メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
第五十一源宝丸(以下「源宝丸」という。)は、熊本県嵐口漁港近辺において、活魚運搬船への養殖魚輸送や活魚養殖場へのえさ運搬などに従事するFRP製漁船で、A受審人が、単独で乗り組み、えさの積込みの目的で、船首1.00メートル船尾170メートルの喫水をもって、平成8年11月22日13時10分嵐口港第4号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から280度(真方位、以下同じ。)330メートルの係留地を発し、同灯台から099度700メートルのところにあるA水産株式会社(以下「A水産」という。)の養殖魚用えさ製造工場(以下「えさ工場」という。)に向かった。
ところでA受審人は源宝丸のほかに数隻の同種船舶を所有するA水産の従業員で、平素、えさ工場で作業し、同人の受有する海技免状では源宝丸を単独運航することができなかったが、その旨A水産に報告せず、休暇などで乗組員が不足した折、過去数回にわたり同船を運航していた。
また、嵐口漁港は、御所浦島北部にあって唐網代瀬戸に面し、防波堤灯台から092800メートルばかりの海岸を基点として、ここから北西方に約280メートル延びた防波堤の内側には長さ約550メートル幅約250メートルの範囲に、高さ約70センチメートルの多数の活魚養殖筏(以下「筏群」という。)が存在していた。筏群と海岸との間の水路は、活魚養殖に携わる作業船や筏の間で釣りをする小舟だけが通航していたが、海岸近くの水深が浅く、所々にやぐらを組んだ洗網台があったりして、同水路の可航幅が潮の干満により20メートルないし30メートル程度でごく狭かった。
A受審人は、係留地を発進したのち、特に前方の見張りの妨げとなるものもない操舵室の右舷側操縦席でいすに腰掛け、手動操舵により進行中、筏群の間で一本釣りをしている数隻の小舟を認めたものの、日常のことなので特に気にも留めず、筏群と海岸との間のごく狭い水路に入った。
13時14分わずか過ぎA受審人は、防波堤灯台から130度440メートルの地点に達し、機関を回転数毎分1,000ばかりに調整して8.0ノットの速力とし、針路を055度に定めたとき、ほぼ船首方260メートルのところにろを漕(こ)ぎながら航行する漁船(船名なし)(以下「伝馬船」という。)を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で同船と互いに接近する状況となったが、一瞥(いちべつ)したのみで前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、このことに気付かないまま、左舷側の筏群と一定距離を保つことに専念して進行した。
こうして源宝丸は、伝馬船を避けずに続航中、13時15分防波堤灯台から106度540メートルの地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が伝馬船の左舷中央部に前方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
A受審人は、衝撃で衝突したことを知り、急ぎ機関を後進にかけて停止し、伝馬船の救助に当たった。
また、伝馬船は、専ら筏群の間や海岸近くで一本釣り漁を行う無甲板のろ漕ぎ木製漁船で、B指定海難関係人が同人の妻Cと2人で乗り組み、船首0.30メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、同日11時00分防波堤灯台から165度300メートルの係留地を発し、えさ工場の沖合100メートルばかりの筏群の中の水路に至り、かさご釣りを行った。
B指定海難関係人は、釣果が少なかったので釣りを止め、13時08分半帰航の途につき、妻Cをほぼ中央部に腰掛けさせ、自らは左舷船尾で腰掛けてろを漕ぎ、筏群と海岸との間のごく狭い水路に出て、同水路に沿って進行した。
13時14分わずか過ぎB指定海難関係人は、防波堤灯台から104度560メートルの地点に達し、235度ばかりに向けて約1.5ノットの速力で進行していたとき、視力が十分でなかったものの船首方260メートルのところに源宝丸を認め、その後衝突のおそれがある態勢で同船と互いに接近する状況となったが、いつもA水産の船が自船を避けてくれていたので、源宝丸が自船を避けるものと思い、速やかに水路の端に移動するなどの衝突を避けるための措置をとることなく続航中、同時15分わずか前同船が間近に接近したとき妻のCが大声を出したので初めて衝突の危険を感じ、とっさに右転して替わそうとしたが及ばず、船首が315度を向いたとき前示のとおり衝突した。
衝突の結果、源宝丸は、右舷船首部に擦過傷及び推進器等に曲損を生じ、のち修理されたが、伝馬船は、左舷中央部外板に破口を生じて浸水し、のち廃船となった。また、B指定海難関係人及び妻Cの2人が船外に投げ出され、B指定海難関係人が助骨骨折等を負い、妻C(昭和3年11月23日生)が源宝丸の推進器により身体躯幹を切断されて死亡した。

(原因)
本件衝突は、熊本県嵐口漁港内の筏群と海岸との間のごく狭い水路において、両船が衝突のおそれがある態勢でほぼ真向かいから互いに接近中、源宝丸が、見張り不十分で、ろかいのみを用いて航行する伝馬船を避けなかったことによって発生したが、伝馬船が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、嵐口漁港内の筏群と海岸との間の小舟などが往来するごく狭い水路を航行する場合、前路の伝馬船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意業務があった。しかし、同人は、一瞥したのみ前路に他船はいないものと思い、左舷側の筏群と一定距離を保つことに専念したまま、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、伝馬船を避けずに進行して同船との衝突を招き、源宝丸の推進器等に曲損を、伝馬船の左舷外板に破口を生じ、B指定海難関係人に肋骨骨折等を負わせ、Cを死亡させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の二級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、源宝丸と衝突のおそれがある態勢のまま互いに接近する状況となった際、速やかに衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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