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1998年(平成10年)

平成9年横審第39号
    件名
油送船第三グリーン丸貨物船幸成丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年6月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

長浜義昭、半間俊士、勝又三郎
    理事官
西田克史

    受審人
A 職名:第三グリーン丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:幸成丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
グリーン丸…左舷側ボートデッキ及び交通艇に破損
幸成丸…船首に凹損

    原因
グリーン丸、幸成丸…狭視界時の航法(速力)不遵守

    二審請求者
理事官西田克史

    主文
本件衝突は、第三グリーン丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、幸成丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年7月13日06時20分
東京湾中ノ瀬航路
2 船舶の要目
船種船名 油送船第三グリーン丸 貨物船幸成丸
総トン数 692.45トン 498トン
全長 64.92メートル 48.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット 735キロワット
3 事実の経過
第三グリーン丸(以下「グリーン丸」という。)は、船尾船橋型の鋼製アスファルトタンク船で、受審人Aほか7人が乗り組み、空倉のまま、船首2.10メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成8年7月9日17時20分青森県八戸港を発し、途中、宮城県大原湾で台風避難をしたのち、更に京浜港横浜区に寄港して補油を行う予定で、千葉港に向かった。
A受審人は、越えて同月13日04時35分ごろ浦賀水道航路南口の南方沖合で昇橋し、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で、浦賀水道航路に続いて中ノ瀬航路を北上し、05時42分第2海堡灯台から349度(真方位、以下同じ。)1.5海里の地点において、霧のため視程が約150メートルに狭められたので、機関を微速力前進に減じ、折からの南南西方に流れる約0.4ノットの潮流に抗して7.0ノットの対地速力とし、航行中の動力船が掲げる法定の灯火を掲げ、霧中信号を吹鳴し、甲板長を見張りに、機関長を主機の遠隔操縦にそれぞれつけ、針路を023度に定め、中ノ瀬航路をこれに沿って自動操舵で進行した。
06時00分A受審人は、中ノ瀬航路第3号灯浮標を左舷側に150メートル離して通過したとき、針路を020度に転じ、3海里レンジとしたレーダーで見張りを行いながら続航したところ、同時04分第2海堡灯台から011度3.9海里の地点に達したとき、左舷船首15度2.2海里に幸成丸の映像を初認し、その後レーダー監視を続け、同船が中ノ瀬航路に向け東行していることを認めた。
A受審人は、06時12分には1.5海里レンジとしたレーダーで幸成丸の映像を左舷船首6度1海里に見て、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知ったが、同船の映像が右方に大きく変化しないことから、中ノ瀬航路を北上中の自船の船尾をかわしてから東行するものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
A受審人は、その後も短距離レンジに順次切り換えて幸成丸のレーダー監視を続け、06時17分左舷船首14度720メートルに同船の映像を見て、同船が中ノ瀬航路を横断しようとしていることには気付かなかったものの、同船と著しく接近したことから甲板長に左舷船橋甲板に出て左舷前方を見張るよう指示し、依然速やかに行きあしを止める措置をとらず、同速力で続航した。
A受審人は、06時19分半甲板長から左舷前方150メートルばかりに幸成丸の船体を確認した旨の報告を受け、衝突の危険を感じ、同人に手動操舵につかせて右舵一杯としたものの、及ばず、06時20分第2海堡灯台から014度5.7海里の地点において、原速力のまま、024度に向首したグリーン丸の左舷側後部に、幸成丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程が約150メートルで、潮候は下げ潮の中央期で、付近海域に約0.4ノットの南南西流があった。
また、幸成丸は、船尾船橋型の鋼製砂利採取運搬船で、受審人Bほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾2.70メートルの喫水をもって、同日05時10分京浜港横浜区を発し、木更津港に向かった。
発航時から単独で操船中のB受審人は、06時00分第2海堡灯台から007度6.3海里の地点において、東京湾中ノ瀬D灯浮標を右舷側に50メートル離して通過したころ、霧のため視程が約150メートルに狭められたので、航行中の動力船が掲げる法定の灯火を掲げ、霧中信号を吹鳴し、甲板員を船橋に、機関長を船首にそれぞれ配置して見張りにつけ、機関を半速力前進に減じて4.0ノットの対地速力とし、針路を128度に定め、折からの南南西流により6度ほど右方に圧流されながら、手動操舵で進行した。
B受審人は、中ノ瀬航路北口付近に北上する他船のレーダー映像を認めたことから、視界が回復するのを待つこととし、06時12分第2海堡灯台から013度5.8海里の地点に達したとき、機関を中立とし、微弱な潮流を受け南南西方に圧流されながら、航路の西方100メートル付近の海域で、120度に向首して一時停留した。
そのころB受審人は、右舷船首74度1海里に中ノ瀬航路を北上するグリーン丸の映像を1.5海里レンジとしたレーダーで初認し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったことを知って停留を続け、06時17分同映像を右舷船首65度720メートルに見て同船と著しく接近したことを認めたが、グリーン丸の速力が遅かったことから、何とか同船の前路を横切って航路を横断することができるものと思い、行きあしを止め続けることなく、機関を極微速力前進にかけ2.0ノットの対地速力とし、針路を114度とし、潮流により右方に12度ほど圧流されながら手動操舵で進行を開始した。
B受審人は、06時19分半右舷前方150メートルばかりにグリーン丸の船体を視認して衝突の危険を感じ、右舵一杯、全速力後進としたが、及ばず、原針路のまま、1.0ノットの対地速力で、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、グリーン丸は、左舷側ボートデッキ及び交通艇に破損を、幸成丸は、船首に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、両船が霧のため視界が制限された東京湾の中ノ瀬航路付近において、航路を北上するグリーン丸が、レーダーにより前方に探知した幸成丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、航路外で一時停留中の幸成丸が、レーダーにより前方に探知したグリーン丸と著しく接近した際、行きあしを止め続けなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が制限された東京湾の中ノ瀬航路を北上中、レーダーにより前方に探知した幸成丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことを認めた場合、針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。ところが、同人は、航路をこれに沿って航行しているので、航路外の幸成丸が自船の後方をかわすものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じで行きあしを止めなかった職務上の過失により、7.0ノットの対地速力のまま進行して幸成丸との衝突を招き、グリーン丸の左舷側ボートデッキ及び交通艇に破損を、幸成丸の船首に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧のため視界が制限された中ノ瀬航路外で一時停留中、レーダーによりグリーン丸と著しく接近したことを認めた場合、行きあしを止め続けるべき注意義務があった。ところが、同人は、グリーン丸の速力が遅かったことから、同船の前方を通過することができるものと思い、行きあしを止め続けなかった職務上の過失により、再び2.0ノットの対地速力で進行し、グリーン丸との衝突を招き、前示のとおり両船に損害を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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