日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年那審第57号
    件名
瀬渡船大洋一号プレジャーボートアクア衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:大洋一号船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
B 職名:アクア船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大洋一号…船首部左舷外板を損傷
アクア…船尾部右舷外板を損傷

    原因
大洋一号…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守
アクア…動静監視不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、大洋一号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、アクアが、動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月24日17時55分
沖縄県那覇港
2 船舶の要目
船種船名 瀬渡船大洋一号 プレジャーボートアクア
総トン数 4.19トン
登録長 9.50メートル 7.47メートル
全長 8.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 183キロワット 169キロワット
3 事実の経過
大洋一号は、航行区域を沿海区域(限定)とするFRP製遊漁船で、釣り客を防波堤などに瀬渡しする業務に従事していたところ、A受審人が1人で乗り組み、いずれも那覇港の那覇防波堤、新港第1防波堤及び浦添第1防波堤の順に寄せて釣り客を収容するため、船首0.4メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年8月24日17時00分那覇市港町3丁目の那覇北マリーナを発し、那覇防波堤内側に寄せ、釣り客がいないことを確かめたうえ、同時52分を同防波堤を離れ、次の新港第1防波堤南部分内側の屈曲部に向かった。
A受審人は、那覇防波堤を離れたのち左回頭し、17時53分那覇港新港第1防波堤南灯台(以下「南灯台」という。)から240度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点で、針路を南灯台を正船首少し左舷方に見る072度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で、操舵に当たり、新港第1防波堤、那覇防波堤及び那覇空港護岸からなる唐口と称する「港の防波堤の入口または入口付近」(以下「防波堤入口」という。)の水路を横断する状態で進行した。
定針したころA受審人は、左舷方を一見して小型船2隻と入航するカーフェリー1隻を遠方に認めたが、左舷正横よりも後方3640メートルに認めうる状況にあった入航中のアクアを見落とした。
A受審人は、アクアと互いに進路を横切る態勢であったが、左舷方近距離には他船はいないと思い、その後前方のみに気を遣い、後方を含む左舷方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、17時54分南灯台から232度520メートルの地点に達し、アクアが左舷正横よりも後方9度330メートルとなったとき、出航船も新港第1防波堤の陰から出て来る他船もなかったことから、針路を同灯台側に少し寄る068度に転じ、同時54分半わずか過ぎ南灯台から218度290メートルの地点に達し、同船が左舷正横よりも後方27度150メートルとなったとき、更に針路を054度に転じた。
A受審人は、それまではアクアの前路を無難に航過する状況のところ、自船の054度への転針及びほぼ同時期に行われたアクアの左転と増速により、同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然後方を含む左舷方の見張りを十分に行わなかったので、同船の存在に気付かず、大幅に右転するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
17時55分わずか前A受審人は、左舷至近にアクアを初めて認め、機関停止としたが、間に合わず、17時55分南灯台から201度140メートルの地点において、同一針路の大洋一号の船首部左舷がアクアの船尾部右舷に後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力1の東風吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
また、アクアは、航行区域を沿海区域(限定)とするFRP製クルーザー型プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人とその家族など、子供3人を含む10人を乗せ、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日08時30分那覇市港町2丁目の那覇マリーナを出港し、慶良間列島座間味島の座間味港に至り、同港付近を周遊するなどしたのち、16時30分同港を発し、帰途に就いた。
B受審人は、途中那覇港西方のチービシ付近を経由し、那覇港第2号灯浮標を左舷側近距離で通過したのち、17時53分南灯台から279度1,010メートルの地点に達したとき、針路を南灯台を左舷船首方に見る112度に定め、機関を半速力前進にかけて15.0ノットの対地速力で、操舵に当たり、防波堤入口の水路に沿う状態で進行した。
17時54分B受審人は、右舷船首41度330メートルにあって進路を横切る態勢の大洋一号を初めて認め、間もなく再び同船を見たが、いずれも一見しただけであったことから、同船については自船と同じ方向に進行しているので危険はないと思い、その後左舷後方遠方の入航中のカーフェリーの動静、新港第1防波堤の陰から他船が出て来ないかどうかなどに気を遣い、また南灯台付近で那覇マリーナに向けて左転するつもりでいたこともあって、右舷前方の大洋一号に対する動静監視を行わなかった。
17時54分半わずか過ぎB受審人は、南灯台から247度320メートルの地点に達し、大洋一号が右舷船首19度150メートルとなったとき、針路を092度に転じるとともに、そのころ海面が穏やかになり、新港第1防波堤の陰から出て来る他船もなかったので、機関を全速力前進に上げて21.0ノット増速した。
B受審人は、それまでは自船の前路を大洋一号が無難に航過する状況のところ、自船の転針と増速及びほぼ同時期の大洋一号の転針により、同船と互いに衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、依然同船に対する動静監視を行わなかったので、そのことに気付かず、大幅に減速するなど衝突を避けるための措置をとることなく続航した。
17時55分わずか前B受審人は、ふと右舷方を見て大洋一号が至近となっていることに気付き、左舵一杯、機関停止としたが、間に合わず、064度に向首して前示のとおり衝突した。
衝突の結果大洋一号は船首部左舷外板を損傷し、アクアは船尾部右舷外板を損傷し、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
那覇港は港則法に定める特定港であり、同港出入航のため大小各種、多数の船舶が防波堤入口の水路を航行するが、とくに港則法上の「航路」は設けられていない。
本件は、この防波堤入口において発生したものであり、どのような航法を適用すべきかを検討する。
大洋一号は、那覇防波堤から新港第1防波堤南部分内側の屈曲部に向かっており、防波堤入口の水路を横断する状態で進行していた。同船は当初針路072度であったが、途中068度に転針し、17時54分半わずか過ぎ更に054度に転針し、速力の変更はなかった。
アクアは、入港のため那覇港第2号灯浮標南方から防波堤入口に向かい、防波堤入口の水路にほぼ沿う状態で進行していた。同船は当初針路112度であったが、17時54分半わずか過ぎ092度に転針するとともに増速した。
その後両船は同針路、同速力で進行して衝突した。
大洋一号が針路072度で進行し、アクアが針路112度及び当初の対地速力で進行したとすれば、大洋一号はアクアの前方を120メートルでかわる状況であり、また、大洋一号が針路068度で進行し、アクアが針路112度及び当初の対地速力で進行したとすれば、大洋一号はアクアの前方を110メートルでかわる状況であった。
すなわち、両船は、当初互いに進路を横切る態勢であったが、無難にかわる状況のところ、ほぼ同時期の大洋一号の2回目の転針及びアクアの転針と増速により、互いに衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったものである。
このような衝突に至る経過に対しては、港則法には適用する航法規定がないので、海上衝突予防法によることとなるが、互いに衝突のおそれがある態勢で接近する状況となってから衝突するまで30秒以内のごく短時間であることを考慮すれば、海上衝突予防法の定型的撤去を適用することはできない。
したがって、海上衝突予防法の船員の常務により律するのが相当である。
なお、大洋一号は防波堤入口の水路を横断する状態で進行し、一方アクアは同水路をこれに沿った状態で進行していた点については、防波堤入口に港則法上の「航路」が設けられていないこと、両船の大きさ、両船の運動性能などを考慮すれば、アクアの優先権を認めるのは相当ではない。

(原因)
本件衝突は、沖縄県那覇港南部の唐口と称する防波堤入口において、両船が互いに進路を横切る態勢であったが、無難にかわる状況のところ、ほぼ同時期に行われた大洋一号の転針及びアクアの転針と増速により、互いに衝突のおそれがある態勢で接近する状況となった際、大洋一号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、アクアが、大洋一号に対する動静監視不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、那覇港南部の防波堤入口を那覇防波堤から新港第1防波堤南部分内側の屈曲部に向かって進行する場合、前方ばかりでなく後方を含む左舷方の見張りも十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前方のみに気を遣い、左舷方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったアクアの存在に気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、大洋一号の船首部左舷に、アクアの船尾部右舷にそれぞれ損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、那覇港南部の防波堤入口を入航中、右舷前方に大洋一号を認めた場合、同船のその後の動静監視を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷前方の新港第1防波堤の陰から他船が出て来ないかどうかなどに気を遣い、大洋一号に対する動静監視を行わなかった職務上の過失により、大洋一号と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったことに気付かず、衝突を避けるための措置をとらないまま進行して同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人に戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION