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1998年(平成10年)

平成9年神審第34号
    件名
貨物船興生丸漁船友栄丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

須貝壽榮、山本哲也、工藤民雄
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:興生丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
B 職名:友栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
興生丸…左舷側中央部外板に軽微な凹傷
友栄丸…船首部を圧壊

    原因
友栄丸…見張り不十分、横切りの航法(避航動作)不遵守(主因)
興生丸…警告信号不履行、横切りの航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、友栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る興生丸の進路を避けなかったことによって発生したが、興生丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月14日03時50分
伊良湖水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船興生丸 漁船友栄丸
総トン数 199.93トン 11.98トン
全長 57.04メートル
登録長 14.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 661キロワット
漁船法馬力数 35
3 事実の経過
興生丸は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、主として京浜、阪神間において鋼材などの輸送に従事していたところ、船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.50メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、平成8年6月13日11時30分千葉県千葉港を発し、愛知県豊橋港に向かった。
A受審人は、同日22時ごろ御前埼の東北東方10海里付近でC船長から引き継いで単独の船橋当直に当たり、所定の灯火を表示して遠州灘を西行したのち、伊良湖水道を北上した。そして、翌14日03時41分伊良湖岬灯台から233度(真方位、以下同じ。)1,700メートルの地点に達したとき、針路を336度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵によって進行した。
03時45分少し過ぎA受審人は、伊良湖岬灯台から282度1.1海里の地点で針路を031度に転じ、中山水道に向けて続航中、同時46分左舷船首30度1,750メートルに友栄丸の白、緑2灯を初めて視認し、その後その方位がほとんど変わらず、同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近するのを知った。
やがてA受審人は、友栄丸に先航して南下する数隻の漁船が転針して自船の船尾を航過したことから、友栄丸の避航を期待し、その動静を監視していたところ、依然避航の気配が認められなかったものの警告信号を行わず、注意を喚起するため、03時48分同船が同方位のまま870メートルに近づいたとき、船橋上の作業灯を前方に向けて点灯し、間もなく同船が間近に接近するのを認めたが、そのうちに避航動作をとるものと思い、速やかに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとらず、同じ針路及び速力で進行した。
そして、A受審人は、友栄丸が至近に迫ったのを認め、操舵を手動に切り替えて右舵一杯をとったが効なく、03時50分伊良湖岬灯台から331度1.2海里の地点において、興生丸は、原速力のまま034度を向いたとき、その左舷側中央部に友栄丸の船首が直角に衝突した。
当時、天候は雨で風力1の北風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。
C船長は、昇矯に備えて自室で衣服を着用していたとき、衝突の衝撃を感じ、急いで船橋に駆け上がり、事後の措置に当たった。
また、友栄丸は、小型底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.00メートルの喫水をもって、同月14日03時00分愛知県豊浜漁港を発し、渥美半島南方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、03時10分羽島灯標から253度1.4海里の地点て針路を157度に定め、引き続き機関を全速力前進にかけて10.0ノットの対地速力で、所定の灯火を表示して自動操舵によって伊勢湾を伊良湖水道に向けて南下中、多数の漁船が左舷後方から自船より高速力で近づいてくるのを認め、これらを先に行かせようと思い、同時41分伊良湖岬灯台から318度2.2海里の地点に達したとき、針路を124度に転じるとともに、操舵を手動に切り替えて半速力に減速し、7.0ノットの対地速力で進行した。
03時46分B受審人は、伊良湖岬灯台から323度1.6海里の地点に達したとき、右舷船首57度1,750メートルに前路を左方に横切る態勢の興生丸の白、白、紅3灯を視認できる状況で、その後その方位がほとんど変わらずに接近し衝突のおそれがあったが、右舷前方には自船を追い越した漁船ばかりで、接近する他船はいないと思い、左舷後方から近づいてくる漁船に気をとられ、舵輪の後ろでいすに腰掛けたまま、しばしば後方を振り向き、前方の見張りを十分に行わなかったので、興生丸の灯火に気付かず、同船の進路を避けずに続航した。
やがてB受審人は、03時50分少し前船首至近に興生丸の船首部を初めて視認し、衝突の危険を感じて機関を停止したが効なく、友栄丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、興生丸は左舷側中央部外板が長さ幅とも約1メートルの範囲に軽微な凹傷を生じ、友栄丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、伊良湖水道において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、友栄丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る興生丸の進路を避けなかったことによって発生したが、興生丸が、警告信号を行わず、機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、伊良湖水道を漁場に向けて南下する場合、前路を左方に横切る態勢の興生丸の灯火を見落とさないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷前方から接近する他船はいないと思い、後方から接近する漁船に気をとられ、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、興生丸の進路を避けずに進行して同船との衝突を招き、その左舷側中央部外板に軽微な凹傷を生じさせ、自船の船首を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、伊良湖水道を中山水道に向けて東行中、前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近する友栄丸が避航動作をとらないまま間近に接近するのを認めた場合、速やかに機関を後進にかけるなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうちに友栄丸が避航動作をとるものと思い、速やかに機関を後進にかけるなと衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、同じ針路及び速力のまま進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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