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1998年(平成10年)

平成9年横審第92号
    件名
遊漁船時栄丸プレジャーボート飛鳥衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月29日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

勝又三郎、猪俣貞稔、西村敏和
    理事官
関隆彰

    受審人
A 職名:時栄丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:飛鳥船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
時栄丸…船首部に擦過傷
飛鳥…左舷船尾部に亀裂を伴う損傷、船外機カバーに破損

    原因
時栄丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
飛鳥…動静監視不十分、信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、時栄丸が、見張り不十分で、形象物を表示せずに錨泊中の飛島を避けなかったことによって発生したが、飛鳥が、動静監視不十分で、避航を促す有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月2日18時05分
知多半島羽豆岬南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船時栄丸 プレジャーボート飛鳥
総トン数 3.20トン
全長 12.40メートル 8.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 244キロワット 40キロワット
3 事実の経過
時栄丸は、FRP製小型遊漁兼用船で、A受審人が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、予約客のための釣場を下見する目的で、船首0.20メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成9年5月2日17時55分愛知県師崎港港内の定係地を発し、羽豆岬南方4海里沖合の沖ノ瀬に向かった。
発航後、A受審人は、操舵室のいすに腰掛けて操舵操船に当たり、師崎水道を南下中、羽豆岬南西方に魚礁を設置した通称「ボチの瀬」と呼ばれる良好な釣場があることを思い出し、沖ノ瀬に向かう前に同釣場を先に下見することとし、18時00分少し前羽島灯標から059度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点に達したとき、針路を220度に定め、機関を回転数1,000の半速力前進にかけ、9.5ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
A受審人は、18時02分少し過ぎ羽島灯標から105度320メートルの地点に達したとき、右舵をとって同灯標を付け回し、同時03分少し過ぎ同灯標から179度200メートルの地点に達したとき、針路を270度に転じて続航した。
針路を転じたころ、A受審人は、正船首500メートルに飛鳥が存在し、同船が錨泊を示す形象物を表示していなかったものの、船尾を見せて動いていないことから、錨泊していることが分かる状況となり、その後同船に向首し、衝突のおそれのある態勢で接近したが、周囲を一べつしただけで同船を見落とし、遊漁中の他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく進行した。
その後、A受審人は、GPSプロッターを見たり右舷側にあたる師崎方面の地形で山立てをして船位を確認することに没頭し、飛鳥の存在に気付かず、左転するなど衝突を避けるための措置をとらないまま、機関回転数を毎分800に下げながら魚群探知器で釣場の状況を探索中、18時05分羽島灯標から248度520メートルの地点において、時栄丸は、原針路のまま、7.6ノットの対地速力で、その船首が飛鳥の左舷船尾にほぼ平行に衝突した。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、飛鳥は、FRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、めばる釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同日17時00分愛知県豊浜港港内の定係地を発し、羽島灯標南西方沖合の釣場に向かった。
B受審人は、17時10分ごろ羽島灯標の沖合に至り、その後釣場の状況を確かめることとして魚群探索をしながら周航し、同時20分ごろ水深約15メートルの前示衝突地点付近で船外機を止め、直径25ミリメートル長さ50メートルの化学繊維製のロープに20キログラムの錨を取り付けて船首から投入し、形象物を表示しないまま船首を270度に向けて錨泊した。
B受審人は、操舵室前方の右舷中央部で右舷後方を向き、友人が左舷前部にそれぞれ座って釣りを始め、18時02分少し過ぎ右舷船尾4度810メートルのところに南下中の時栄丸を初認したが、漁船は錨泊船に接近してから避けるので自船を避けてくれるものと思い、時栄丸に対する動静監視を十分に行わずに釣りを続けた。
B受審人は、その後時栄丸が右転して羽島灯標を付け回し、18時03分少し過ぎ同船がほぼ正船尾500メートルに接近し、自船に向首して衝突のおそれのある状況になったが、依然として時栄丸に対する動静監視を行わなかったので同船の接近に気付かず、避航を促す有効な音響信号を行うことなく竿釣りを続け、18時05分少し前同船の動向が気になり、立ち上がって後方を見たところ、間近に接近した同船に気付き、大声を出して避航を促したものの、効なく、270度を向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、時栄丸は、船首部に擦過傷を生じ、飛鳥は左舷船尾部に亀(き)裂を伴う損傷、船外機カバーに破損をそれぞれ生じたが、のち修理された。

(原因)
本件衝突は、知多半島羽豆岬南西沖合において、釣場の下見をするため航行中の時栄丸が、見張り不十分で、形象物を表示せずに錨泊中の飛鳥を避けなかったことによって発生したが、飛鳥が、動静監視不十分で、避航を促す有効な音響による信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、知多半島羽豆岬南西方沖合において、船位を確認したり、魚群探知器で探索しながら釣場の下見をするため航行する場合、形象物を表示せずに錨泊中の飛鳥を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲を一べつしただけで前路に遊漁中の他船はいないものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の飛鳥に気付かず、同船との衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、時栄丸は擦過傷を生じただけであったが、飛鳥の左舷船尾に亀裂を伴う損傷、船外機カバーに破損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号をして同人を戒告する。
B受審人は、知多半島羽豆岬南西方沖合において、錨泊して釣りを行い航行中の時栄丸を認めた場合、同船が無難に航過するかどうかを判断できるよう、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、漁船は錨泊船に接近してから避けるので自船を避けてくれるものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれのある態勢で後方から接近する時栄丸に気付かず、避航を促す有効な音響信号を行うことなく錨泊して衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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