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1998年(平成10年)

平成9年仙審第69号
    件名
貨物船第二すみせ丸漁船第六十三久榮丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年5月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
仙台地方海難審判庁

?橋昭雄、安藤周二、供田仁男
    理事官
上中拓治

    受審人
A 職名:第二すみせ丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
B 職名:第六十三久榮丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
すみせ丸…右舷船首材に凹損
久榮丸…右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損

    原因
久榮丸…灯火・形象物の表示不適切、港則法の航法(避航動作)不遵守(主因)
すみせ丸…警告信号不履行(一因)

    主文
本件衝突は、入航する第六十三久榮丸が、多数の光力の強い作業灯を点灯して航海灯の識別を妨げたばかりか、防波堤入口から十分に離れたところで、出航する第二すみせ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、出航する第二すみせ丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月19日23時10分
青森県八戸港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二すみせ丸 漁船第六十三久榮丸
総トン数 4,331.15トン 99.47トン
全長 117.30メートル 36.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 3,309ワット 588キロワツト
3 事実の経過
第二すみせ丸(以下「すみせ丸」という。)は、船尾船橋型セメント運搬船で、A受審人ほか14人が乗り組み、セメント6,484トンを載せ、船首6.36メートル船尾7.32メートルの喫水をもって、平成7年12月19日22時40分青森県八戸港住金鉱業岸壁を発し、宮城県塩釜港仙台区に向かった。
ところで、A受審人は、離岸に先立ち、八戸港外港の中央防波堤南西側に数隻の停泊船を認めたので、東航路を経て同防波堤東側を北上する針路をとることにし、機関長をテレグラフ操作に、操舵手を手動操舵に就け、自らは見張りを兼ねて操船指揮を執り、離岸後直ちに揚錨を開始した。
23時00分A受審人は、八戸港白銀北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から174度(真方位、以下同じ。)680メートルの地点で収錨すると、航行中の動力船の灯火を表示し、針路を000度に定め、機関を微速力前進にかけて3.0ノットの対地速力(以下速力は対地速力である。)で東航路に向かった。間もなく、中央防波堤の東側に第六十三久榮丸(以下「久榮丸」という。)の多数の光力の強い作業灯を初認し、同時04分半白銀北防波堤越しの左舷船首6度1,200メートルのところにこれを認めるようになった。
23時06分半少し過ぎA受審人は、北防波堤灯台から156度190メートルの地点で、針路を310度に転じて東航路のほぼ中央に向けたとき、右舷船首40度740メートルに久榮丸の同灯火を認めるようになったが、これを操業など行っているものであろうと思って続航した。
23時08分A受審人は、右舷船首46度450メートルに久榮丸の同灯火を認めるようになったとき、同船の航海灯を識別することはできなかったものの、同船が東航路防波堤入口(以下「防波堤入口」という。)に接近中で、そのまま進行すれば同入口付近で出会うおそれがあることを認めたが、いずれ両船が接近すれば互いに左舷側にその進路を避けることになるものと思い、久榮丸に対して同入口から十分に離れたところで自船の進路を避けるよう、速やかに警告信号を行わなかった。
23時08分半少し前A受審人は、北防波堤灯台から214度80メートルの地点に達したところで、中央防波堤東側に向かうべく右転を開始し、船首が000度に向きかけたころ、ほぼ正船首370メートルに久榮丸の両舷灯を認め、左舷側に同船の進路を避けようとして短音1声を行い、更に右転を続けて針路を010度に転じた。
ところが、間もなくA受審人は、久榮丸の前示光力の強い作業灯に惑わされて両舷灯を見失ったまま続航中、同時09分少し過ぎ左舷船首10度100メートルのところに、再び同船の両舷灯のうち緑灯を認めて衝突の危険を感じ、急いで短音5声を行うとともに右舵一杯及び機関を全速力後進に令したが及ばず、23時10分北防波堤灯台から348度90メートルの地点において、ほぼ015度を向いたすみせ丸の船首が、久榮丸の右舷中央部外板に、わずかな前進行きあしをもって前方から約45度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
また、久榮丸は、船体中央部に操舵室を有する鋼製漁船で、いか一本釣り漁業に従事する目的で、B受審人ほか7人が乗り組み、船首1.7メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同月18日09時20分八戸港を発し、同港東方約100海里沖合の漁場に至って操業中、乗組員に急病人が発生して急遽操業を中止し、翌19日13時10分帰途に就いた。
B受審人は、単独で船橋当直にあたり、機関を10.0ノットの全速力前進にかけて八戸港に向かった。23時02分中央防波堤東側の、北防波堤灯台から358度1,500メートルの地点に達し、針路を180度に定め、同時03分入港に備えて係留索の準備のために機関を微速力前進として4.4ノットに減じ、航行中の動力船の灯火のほかに船橋前部甲板上を照明する多数の光力の強い作業灯を点じた。ところが、同作業灯を点じたために、前路の見張りが妨げられる状況となったので、船首部の乗組員を係留索の準備の傍ら見張りにもあたらせ、自らは専らレーダーによる見張りを行いながら防波堤入口に向かって進行した。
23時04分半B受審人は、北防波堤灯台から357度830メートルの地点で、レーダーで左舷船首6度1,200メートルのところに港内を出航してくるすみせ丸の映像を初めて探知し、その後、同映像を監視しながら続航した。同時06分半少し過ぎ左舷船首10度740メートルのところに同映像を認めるようになり、同船と防波堤入口付近で出会うおそれがあることを知り、同船が同入口を通過後、中央防波堤の東側または西側のいずれかに向かうことが予想される状況であった。
しかし、B受審人は、一刻も早く急病人を運びたい事情もあり、そのまま防波堤入口の東寄りに進行すれば、すみせ丸の進路を右舷側に避けることができるものと思い、同入口から十分に離れたところで同船の進路を避けることなく、23時08分半少し前正船首370メートルに同船が接近して間もなく、左舵をとり同入口の東寄りに向けて続航した。同時09分少し過ぎ船首部から突然「船が来た。」の叫び声を聞いてその動向を確かめようと船橋外に出たところ、右舷船首至近に迫ったすみせ丸の黒い船体を認めて衝突の危険を感じ、急いで機関を停止続いて全速力後進にかけたが及ばず、船首が150度を向き、約2ノットの前進行きあしをもって前示のとおり衝突した。
衝突の結果、すみせ丸は右舷船首材に凹損を生じ、久榮丸は右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じたが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、八戸港において、同港東航路を経て出航するすみせ丸と入航する久榮丸とが、防波堤入口付近で出会うおそれがあった際、久榮丸が、前部甲板上に多数の光力の強い作業灯を点灯して航海灯の識別を妨げたばかりか、同入口から十分に離れたところで、出航するすみせ丸の進路を避けなかったことによって発生したが、すみせ丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、八戸港東航路を経て入航する際、出航してくるすみせ丸のレーダー映像を探知し、これと防波堤入口付近で出会うおそれがあることを認めた場合、同船が同入口を通過したのち、中央防波堤の東側または西側のいずれかに向かうことが予想されるから、同入口から十分に離れたところで同船の進路を避けるべき注意義務があった。しかし、同人は、急病人を一刻も早く運びたい事情もあり、そのまま防波堤入口の東寄りに進行すれば、すみせ丸の進路を右舷側に避けることができるものと思い、同入口から十分に離れたところで同船の進路を避けなかった職務上の過失により、同入口に接近後その進路を避けようとして衝突を招き、すみせ丸の右舷船首材に凹損を、久榮丸の右舷中央部外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、八戸港東航路を経て出航する際、多数の光力の強い作業灯を点灯して入航してくる久榮丸と防波堤入口付近で出会うおそれがあることを認めた場合、同船に対して同入口から十分に離れたところで自船の進路を避けるよう、速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかし、同人は、いずれ両船が接近すれば互いにその進路を左舷側に避けることになるものと思い、久榮丸に対して防波堤入口から十分に離れたところで出航する自船の進路を避けるよう、速やかに警告信号を行わなかった職務上の過失により衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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