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1998年(平成10年)

平成9年広審第96号
    件名
漁船第一大成丸漁船幸力丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年4月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

亀山東彦、黒岩貢、畑中美秀
    理事官
山?重勝

    受審人
A 職名:第一大成丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:幸力丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
大成丸…左舷中央部外板及びブルワークに凹損
幸力丸…船首部を圧壊

    原因
幸力丸…動静監視不十分、名種船間の航法(避航動作)不遵守(主因)
大成丸…各種船間の航法(協力動作)不遵守(一因)

    主文
本件衝突は、幸力丸が、動静監視不十分で、漁労に従事する第一大成丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第一大成丸が、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年12月27日16時30分
日本海鳥取県網代港北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一大成丸 漁船幸力丸
総トン数 87トン 9.39トン
全長 35.75メートル
登録長 14.76メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 617キロワット
漁船法馬力数 70
3 事実の経過
第一大成丸(以下「大成丸」という。)は、専ら底引き網漁に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか8人が乗り組み、かけ廻し式底引き網によるかに漁の目的で、船首2.4メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、平成7年12月27日08時00分兵庫県浜坂港を発し、鳥取県網代港北方沖合の漁場に向かった。
ところで、大成丸が行うかけ廻し漁法は、曳索(えいさく)の一端に
樽と称する浮きを取りつけて海上に落とし、曳索を投入しながら約1,000メートル航行したところで直角に針路を変え、さらに約800メートル曳索を延ばしたところで投網し、そこで直角に転針してもう1本の曳索を投網前半と同様に、1,000メートル、800メートルと長方形になるように延ばして最初の樽投入地点に戻り、樽を引き上げて曳(えい)網を開始するもので、1回の投索に要する時間は約15分、その間の速力は約8ノットであった。
A受審人は、漁場に到着後操業を開始して3回の操業を終え、その日4回目の操業を始めることとし、漁労に従事している船舶が表示する鼓型形象物を掲げ、さらに日没に近かったので、所定の航海灯と緑・白の全周灯及び近県の底引き網業界の申し合わせである投索中を示す黄色点滅灯を点じ、16時13分少し過ぎ、樽を投じたあと針路を180度(真方位、以下同じ。)とし、7.8ノットの対地速力で手動操舵により投索を開始した。A受審人は、曳索1,000メートル投じたところで針路を090度に転じ、さらに800メートル投じたところで投網し、針路を000度に転じて投索中、同時24分網代埼灯台から327度15.5海里の地点に達したとき、右舷船尾7度0.8海里に北上する幸力丸を初認したが、さして気にすることもなく投索を続け、樽投入地点に戻るため針路を270度に転じて間もなく、同時25分少し過ぎ、左舷正横後3度0.7海里となった幸力丸を見て、このまま投索を続けて樽投入地点で停止したら衝突のおそれがあることに気付いたものの、航行中の同船が漁労に従事する自船を避けてくれるものと思い、警告信号を行ったのみで、その後さらに接近しても、同船が少し転針したように見えたこともあって、一時行きあしを止めて投索を中断するなど衝突を避けるための協力動作をとらなかった。
A受審人は、その後も投索を続け、16時28分少し過ぎ、樽投入地点に戻って機関を停止し、樽の引き上げ作業にとりかかったところ、幸力丸が転針しないまま自船に向首接近していることに気付いたが、引き上げにかかった曳索が船底に入り込んでしまって機関を始動することもできないでいるうち、大成丸は、船首が振れて248度に向いた16時30分網代埼灯台から326度15.9海里の地点において、その左舷中央部付近に幸力丸の船首が後方から80度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北北西風があり、日没は16時58分であった。
また、幸力丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人が1人で乗り組み、いか一本釣りの目的で、船首0.5メートル船尾1.2メートルの喫水で、同日14時50分網代港を発し、同港北方沖合の漁場に向かった。
B受審人は、防波堤を替わった14時55分網代埼灯台から237度1,300メートルの地点で針路を328度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵として進行した。
B受審人は、操舵室で立って前路の見張りに当たり、16時20分網代埼灯台から325度14.2海里の地点に達したとき正船首1.0海里に東行する大成丸を初認したが、同船はかけ廻し式底引き網漁における投索中であったものの、右方に替わっており、漁を終えて帰港中であると思い、付近には他船も見えず、漁場に近くなっていることもあって、魚群探知器を作動させて魚の探索にかかり、大成丸の動静監視を行わなかったので、その後同船が投索しながら針路を北の方に変えたあとさらに自船の前路に向く西に転じ、16時25分少し過ぎ、右舷船首29度0.7海里となったことに気付かず、漁労に従事する大成丸の進路を避けなかった。
B受審人は、その後も魚群探知器による探索に気をとられていたので、大成丸が16時28分少し過ぎ、正船首で停止して樽の引き上げ作業を始めたことにも気付かないまま続航中、突然衝撃を感じ、幸力丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大成丸は左舷中央部外板及びブルワークに凹損を生じ、幸力丸は船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、鳥取県網代港沖合において、漁場に向け航行する幸力丸が、動静監視不十分で、漁労に従事する大成丸の進路を避けなかったことによって発生したが、大成丸が衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、単独で当直して漁場に向け航行中、前路に東行する大成丸を認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その後の動静を監視すべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船が右に替わっていたので帰港中であると思い、魚群探知器を作動させて魚の探索にかかり、その後の動静を監視しなかった職務上の過失により、漁労に従事する大成丸の進路を避けないまま進行して衝突を招き、大成丸の左舷中央部に凹損を生じさせ、幸力丸の船首部を圧壊させるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、樽投入地点に向け投索中、自船の前路に向け航行中の幸力丸を認め、このまま進行して樽投入地点で停止すれば、衝突のおそれがあることに気付いた場合、一時行きあしを停止するなど衝突を避けるための協力動作をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、同船が針路を転じたように見えたこともあって、幸力丸が自船を避けるものと思い、警告信号を行ったのみで、衝突を避けるための協力動作をとらなかった職務上の過失により、衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図



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