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1998年(平成10年)

平成8年第二審第47号
    件名
貨物船よね丸台船海進衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年3月10日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審那覇

師岡洋一、鈴木孝、小西二夫、伊藤實、根岸秀幸
    理事官
米田裕

    受審人
A 職名:よね丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:りゅうおう船長 海技免状:四級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
よね丸…船首部に破口及び亀裂を伴う損傷
海進…左舷側前部外板及び甲板にくさび状破口

    原因
海進…灯火・形象物不表示(主因)
よね丸…見張り不十分、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人A、同B、補佐人君島通夫、同知花孝弘

    主文
本件衝突は、錨泊中の海進が、光力の弱い単閃白光の標識灯を揚げたのみで所定の錨泊灯を表示していなかったことによって発生したが、よね丸が、見張り不十分で、海進との衝突を回避する措置を講じなかったことも一因をなすものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年9月16日01時25分
沖縄県石垣港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船よね丸
総トン数 499トン
全長 81.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
船種船名 引船りゅうおう 台船海進
総トン数 115トン
積トン数 2,435トン
全長 29.90メートル 60.00メートル
幅 7.50メートル 18.00メートル
深さ 3.19メートル 3.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
3 事実の経過
よね丸は、沖縄県那覇港と同県先島群島諸港との間において、コンテナ輸送に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、平成7年9月15日08時50分平良港を発し、14時30分石垣港第2埠頭(ふとう)E岸壁に出船右舷付けとして荷役に当たり、空コンテナ70個を積み込み、19時ごろ、目的港の平良港に入港する時間調整のため待機した。
ところで、石垣港は、港則法に定める特定港であるとともに、関税法に定める開港であり、防波堤(西)及び防波堤(南)の入口から西北西方へ港外に至る航路筋が設けられ、同航路筋の北側には入口から順に石垣港沖西防波堤灯台(以下「石垣港」を冠する航路標識名については「石垣港」の冠称を省略する。)と左舷標識としての第3号及び第1号各灯浮標が、南側には右舷標識としての第8号、第6号、第4号及び第2号各灯浮標が、また、西北西端中央部には安全水域標識としての中央灯浮標がそれぞれ設置されていた。一方、第1号、第2号、第3号及び第4号各灯浮標によって囲まれる幅約800メートル長さ約1,200メートルの水域には、直径1,200メートルの円形をした検疫錨地が、よね丸の係留岸壁から約1.5海里の沖合にあたる、沖西防波灯台から291度(真方位、以下同じ。)1,600メートルの地点を中心として、航路筋と重なる状況で設定されていた。
A受審人は、翌16日未明発航することとしたが、その際防波堤の外側の水域に船舶がいるか否かを確認するため、よね丸の船橋から港外に向かう航路筋の方向を見回したところ、航路標識の点滅する灯火以外に不動光の灯火を視認しなかったので、入出航中の船舶や錨泊中の船舶はいないものと思い、0.75海里レンジとして作動中の1号レーダーを3海里レンジに切換えるなどして防波堤外の状況を監視せず、01時15分船首2.0メートル船尾3.8メートルの喫水をもって同岸壁を発し、平良港に向かった。
A受審人は、これまで石垣港に入出港する際、防波堤入口付近において、無灯火で航行する小型漁船を見掛けることがあったので、発航時から見張りをしながら手動操舵に当たるとともに、一等機関士を操舵室の主機遠隔操作に就けて見張りにも当て、1号レーダーを時折監視して進行したところ、このときには防波堤内の水域に無灯火の漁船を認めなかった。
01時20分A受審人は、沖西防波堤灯台を右舷側に航過したとき、港外に向けて徐々に右回頭を始めたが、出航針路の目標となる中央灯浮標の方向を見回したところ、航路筋を示す第3号及び第1号灯浮標の単閃緑光、第6号の群閃赤光、第4号及び第2号各灯浮標の単閃赤光並びに中央灯浮標のモールス符号白光の各点滅灯火を視認した。しかしながら、前方約2,000メートルに錨泊中の台船海進が揚げていた単閃白光の標識灯の点滅灯火は、その光力が弱く視認可能な距離が約1,700メートルであったため、同受審人はこれを視認し得ないまま航行した。
その後A受審人は、中央灯浮標に向けて回頭を続け、01時22分、沖西防波堤灯台から281度720メートルの地点に達したとき、左舷船首5度ばかりに中央灯浮標の灯火を見て針路を302度に定め、13.0ノットの港内全速力として航路筋の右側を進行した。そのころ、ほぼ正船首約1,200メートルのところに、海進が掲げる3個の標識灯のうち、視野の内にあった船首部鳥居型マスト左舷側上部と船尾部マスト上部の各1個が発する単閃白光を、注視していれば視認し得る状況となったものの、同受審人は、船首方に不動光の灯火を視認しなかったので、航路筋と重なる検疫錨地に錨泊中の船舶はいないと思って前路の見張りを十分に行わず、海進の掲げる標識灯に気付かなかった。
こうしてA受審人は、航路筋の航行を続けたが、定針してから運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意せず、作動中の1号レーダーの監視を合わせ前路の見張りを十分に行っていなかったので、航行上の障害となっていた前路の海進の存在に気付かず、衝突回避の措置を講じないまま、同船に向首して手動操舵により進行したところ、01時25分沖西防波堤灯台から294度1,960メートルの地点において、よね丸は、原針路、原速力のまま、その船首が海進の左舷側前部にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力5の北北東風が吹き、視界は良く、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、海進は、砂利等の輸送に従事する鋼製の非自航台船で、台湾花蓮港において川砂2,400トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.1メートルの喫水をもって、B受審人ほか4人が乗り組む鋼製引船りゅうおうに曳航(えいこう)され、同月14日15時55分同港を発し、多良間島の普天間港に向かった。
ところで、海進は、居住設備を有しないが、海上衝突予防法(以下「予防法」という。)に定める舷灯1対及び船尾灯が航海灯としてそれぞれ設置されているほか、船首部鳥居型マスト中央の頂部で甲板上の高さ10.5メートルのところ及び船尾部マスト頂部で甲板上の高さ6.0メートルのところに、24ボルト30ワットの白色全周灯各1個が所定の錨泊灯としてそれぞれ設置されており、船首部甲板下の機関室内にある航海灯制御盤のスイッチにより、同室内のディーゼル発電機または蓄電池を電源として、これら灯火の点灯及び消灯を操作できるようになっていた。さらに、船首部鳥居型マスト上部の左右各舷側で甲板上の高さ約8メートルのところ及び船尾部マスト上部のほぼ中央で甲板上の高さ約5.5メートルのところに、株式会社A製のL-2型と称し、単一乾電池4個を電源とする6ボルト1.5ワットの、公称光達距離が約2,000メートルとされる、周期約4秒明間0.4秒で夜間自動的に点滅する日光弁スイッチを備えた単閃白光の標識灯が補助の灯火としてそれぞれ取り付けられていた。
B受審人は、海進を曳航して砂利等の輸送に従事するに際し、航行中も錨泊中も、同船のこれら灯火の点灯及び消灯の操作や電源確保の管理について自らは行わず、同船の作業員としてりゅうおうに乗船している甲板員に任せていた。
こうしてB受審人は、普天間港への航行の途、不開港入港手続等を行う目的で石垣港に寄港することとし、翌15日21時ごろ、錨地の指定を受けて同港港外に至り、投錨準備のため曳航索を短縮して甲板員を海進に移乗させ、21時30分検疫錨地内で沖西防波堤灯台から298度1,950メートルの地点に、船尾端中央部のストックアンカーを投入した。そして、錨索を約100メートル延出し、海進が風力5の北北東風に船尾を立て、航路筋内の北側部分に同船体がかかる態勢で錨泊作業を終了した。
そして、B受審人は、海上模様を勘案してりゅうおうを海進から離すこととしたが、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意せず、3海里手前から余裕をもって容易に視認できるばかりか、錨泊の状態を認識できる錨泊灯を表示することや、緊急事態に対処し得るよう必要に応じた当直要員を海進に配置するなり、付近にりゅうおうを錨泊させるなりして監視に当たることなど海進の適切な運航管理の措置を講じなかった。
こうして、B受審人は、投錨作業のため海進に移乗した甲板員がりゅうおうに戻ったとき、海進の航海灯が消灯され、錨泊灯が点灯されていないのを認めたが、同甲板員に点灯の指示をせず、補助の標識灯が自動点滅しているので、錨泊灯を点灯しなくても接近する船舶は標識灯に気付いて海進を避けてくれるから大丈夫と思い、りゅうおうを石垣港第2埠頭D岸壁に着岸させるため、海進を無人のまま錨泊させて同船から離れ、21時55分翌々朝の普天間港入港に備えて同岸壁に着岸させたのち上陸した。
その後海進は、折からの北北東風を船尾に受けながら船首を212度に向け、標識灯3個のみを点滅させて錨泊中、前示のとおり衝突した。
B受審人は、翌16日03時50分ごろりゅうおうに帰船したとき、乗組員から海進が衝突したことを知らされ、直ちに離岸して同船に向かい事後の措置に当たった。
衝突の結果、よね丸は、船首部に破口及び亀裂(きれつ)を伴う損傷を生じ、海進は、左舷側前部外板及び甲板に幅約3.1メートル深さ約3.0メートル長さ約7.1メートルのくさび状破口の損傷を生じたが、のちいずれも修理された。

(主張に対する判断)
海進側補佐人は、「A受審人が前方を見ておらず、1,200メートル手前のところから視認できる状況にあった海進が掲げる単閃白光の標識灯を視認しなかったこと、夜間であるにもかかわらず作動していたレーダーを見ていなかったことが本件衝突の原因であって、B受審人には本件衝突について何らの過失もなく、海進が所定の錨泊灯を揚げていなかったことが本件発生の原因ではない。」旨主張するので、この点について検討する。
本件は、夜間における衝突であるが、視界が制限されるなどしてよね丸及び海進の両船舶が互いに視野の内にない場合や海進が全く無灯火の状態でよね丸側がレーダーによらなければ海進の存在を認識し得ない場合とは異なり、海進が当時揚げていた所定の灯火でない光力の不十分な単閃白光の標識灯をもってしても、通常の操船者が注意して見張りに当たっていれば、少なくとも海進の1,200メートル手前の地点では同灯火を視認し、同船の存在を認識し得て、衝突を回避するための措置を講じる十分な時間的、海域的余裕があったと認められる。したがって、A受審人がレーダー監視による同船の確認をしなかったことはもとより、海進に接近する段階において肉眼による前路の安全を確認せず見張りを十分に行っていなかったことが本件発生の原因となることは明らかであって争いのないところである。
次に、多様な状態で運航されている船舶が夜間表示しなければならない各灯火についてみると、予防法の灯火及び形象物の規定によりそれらの種類及び数が詳細に定められている。そして操船者はこれらの各灯火を視認することによって、当該船舶の存在はもとよりその運航状態を認識し、かつ、衝突のおそれの有無を判断したうえで、当該船舶との見合関係に応じた航法を適用することがはじめて可能となるので、所定の灯火を表示することは、いずれの運航状態における船舶にとっても、航法を適用するうえからのみならず衝突を防止するうえからも必要不可欠である。
ところで、錨泊中の海進が当時表示しなければならない所定の錨泊灯は、予防法第30条第1項の規定により、その種類及び数について、前部に白色の全周灯1個及びできる限り船尾近くにその全周灯より低い位置に白色の全周灯1個とされている。また、同法第22条の規定により、その光度にかかわる視認距離について、3海里以上あることと定められており、同錨泊灯を設置していた海進はそれら灯火を表示することが可能であった。
しかしながら、事実で認定したとおり、当時、海進は自船の存在を示すために単閃白光の標識灯のみを3個揚げて単独で錨泊していたのであるが、同標識灯は、株式会社ゼニライトブイ製のL-2型と称する単閃白光の周期約4秒、公称光達距離約2,000メートルのものであり、しかも当時既に光力が減衰していて公称光達距離が維持されていなかったことは衝突後の検証によっても明らかになっている。
一方、A受審人が、航路筋を出航するにあたり、検疫錨地内の船舶の有無を見張りを行って確認していたと認められることは、離岸に際して防波堤外に船舶がいるか否かを確認するために、検疫錨地の方を見回したところ船舶が表示する不動光の灯火を視認しなかった旨の供述記載及び発航に際して航路筋を航行する船舶等の有無について確認するため防波堤の外を見回すということは経験則上認め得ること並びに沖西防波堤灯台を替わり徐々に右回頭を始めてから中央灯浮標を左舷船首5度ばかりに見て針路を302度に定めるまでの間に航路筋を示す各灯浮標を視認していた旨の当廷における供述から明らかである。そのため海進が所定の錨泊灯を表示していれば、同灯火の視認距離が3海里以上ある不動光の白色全周灯であるところから、よね丸の離岸時、回頭時若しくは離岸から回頭までの約5分間のいずれかにおいて、海進が検疫錨地に錨泊中であることをA受審人は認識し得たものと認められる。
ところが、海進が所定の錨泊灯を表示していなかったので、A受審人が航路筋に沿う302度に針路を定める以前に同船の存在を認め得なかったものであり、その後同受審人にレーダー監視を含む前路の見張りを引き続き十分に行っていなかったことが認められるものの、それは、離岸時及び回頭時に航路筋を見回した際、不動光の灯火を認めなかったことから前路に船舶はいないと思い込んだことによって誘発されたものである。したがって、海進が所定の錨泊灯を表示していなかったことはA受審人の見張りが不十分となった要因をなすものであり、かつ、標識灯が同受審人の注意を改めて喚起するものでなかったことを考え合わせると、錨泊灯不表示の本件発生へのかかわりは大きく、これが本件発生の主たる原因であり、また、海進の運航管理責任を有するB受審人が、同錨泊灯の不点灯を承知のうえで点灯の指示をすることなく、同船から離れてしまった責任は重いものといわざるを得ない。
以上を総合すると、海進が所定の錨泊灯を表示していなかったことは、検疫錨地に錨泊中の船舶はいないというA受審人の思い込みの原因をなし、見張り不十分で海進の見落としを招いたものと認められ、かつ、同船が同錨泊灯を表示していれば、かかる事態をひき起こさなかったと認められるところから、「海進が所定の錨泊灯を揚げていなかったことが本件発生の原因ではなく、B受審人に何らの過失もない。」とする海進側補佐人の主張には理由がない。

(航法の適用)
本件は、石垣港から平良港に向かって石垣港内の航路筋を航行中の動力船であるよね丸と花蓮港からりゅうおうに曳航されて石垣港に入航し、指定された検疫錨地に単独で錨泊中の非自航船舶である海進とが、夜間、互いに視野の内にある状況で衝突したものであり、以下両船舶間に適用すべき航法について検討する。
石垣港は、港則法に定める特定港であるから同法が一般法である予防法に優先して適用されることになるが、港則法には航行中の動力船と単なる錨泊中の船舶との見合関係について避航義務若しくは保持義務を定めた航法規定はなく、予防法が適用されることとなる。
ところで、よね丸は、夜間、港内の航路筋を航行中であったから、A受審人自らが操船の指揮をとり、航行中の動力船が表示する所定の灯火を掲げ、安全で実行に適する限り航路筋の右側端に寄って、安全な速力で航行するとともに、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に十分注意し、すべての手段により常時適切な見張りを行って進行することが要求される。
しかしながら、A受審人は、航路筋に沿う針路に定めたのち港内全速力として進行したときから、レーダー監視を含む見張りを十分に行っておらず、作動中の1号レーダーを監視するなり肉眼による前路の見張りを十分に励行するなりしていれば、少なくとも1,200メートル手前のところから視認し得る標識灯を掲げていた海進の存在を認識して同船との衝突を回避し得る状況にあったものと認められる。
また、海進は、夜間、港内の航路筋にあたる検疫錨地に錨泊したのであるから、指定された錨地であったとしても、海進の運航管理責任を有するB受審人が運航上の危険や他の船舶との衝突の危険に注意して、海進の存在とともに錨泊の状態を十分な余裕をもって他の船舶に知らせ得るよう、錨泊中の船舶が表示する所定の錨泊灯を掲げるとともに、緊急事態に対処し得るよう必要に応じた当直要員を配置するなり、付近にりゅうおうを錨泊させるなりして監視に当たるなど、海進の適切な運航管理を行うことが要求される。
しかしながら、B受審人は、夜間の強風時、検疫錨地内とはいうものの航路筋にかかる態勢で海進を錨泊させたにもかかわらず、光力の弱い標識灯を掲げただけで所定の錨泊灯を表示せず、よね丸からは十分余裕をもって海進を視認することも同船が錨泊中の船舶と認識することもできない状況にしていたばかりか、よね丸との衝突回避に対処し得ない無人状態にしていたことが認められる。
2船舶間における航法の適用は、相互に共通した認識の得られることが前提であり、灯火の表示がこのように違法な状態で錨泊していた海進に対し、錨泊中の船舶としての法的保護を認容して2船舶間の航法を適用することは妥当でない。
したがって、本件は、両船共に運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に十分注意し、よね丸側は、十分な見張りを励行して光力の弱い灯火を掲げる船舶等をも見落とさないように努め、海進側は、所定の錨泊灯を表示したうえで衝突を回避するための措置を講じなければなならない場合であり、船員の常務により律するのが相当である。

(原因)
本件衝突は、夜間、沖縄県石垣港において、航路筋と重なる検疫錨地に錨泊中の海進が、光力の弱い単閃白光の標識灯を掲げたのみで所定の錨泊灯を表示していなかったことによって発生したが、出航中のよね丸が、見張り不十分で、海進に向首したまま進行し、同船との衝突を回避する措置を講じなかったことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、沖縄県石垣港において、航路筋と重なる検疫錨地に海進を錨泊させる場合、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意して、海進の存在とその状態を十分余裕をもって他の船舶に知らせ得るよう、錨泊中の船舶が表示する所定の錨泊灯を海進に表示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、単閃白光の標識灯を掲げているから接近する船舶は海進を避航してくれるものと思い、所定の錨泊灯を表示しなかった職務上の過失により、よね丸との衝突を招き、よね丸の船首に破口及び亀裂を伴う損傷並びに海進の左舷側前部外板及び甲板にくさび状破口の損傷をそれぞれ生ぜしめるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、夜間、石垣港において、検疫錨地と重なる航路筋を出航する場合、運航上の危険及び他の船舶との衝突の危険に注意して、光力の弱い灯火を掲げる船舶等をも見落とさないよう、レーダー監視を合わせ見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、不動光の灯火を認めなかったことから前路に錨泊中の船舶はいないと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、海進に気付かず、衝突回避の措置を講じることなく同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成8年11月21日那審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、よね丸が、見張り不十分で、錨泊中の海進を避けなかったことに因って発生したが、海進が、錨泊中であることを示す成規の灯火を掲げなかったこともその一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

参考図






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