日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成9年第二審第1号
    件名
貨物船第六十三富栄丸貨物船リオ サンタ ローザ衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年1月27日

    審判庁区分
高等海難審判庁
原審神戸

鈴木孝、師岡洋一、松井武、伊藤實、根岸秀幸
    理事官
米田裕

    受審人
A 職名:富栄丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
B 職名:リオ サンタ ローザ水先人 水先免状:阪神水先区
    指定海難関係人

    損害
富栄丸…左舷船首部外板に凹損、船橋左舷外板を圧壊
リ号…左舷船首部外板に凹損、左舷錨に曲損

    原因
富栄丸…狭視界時の航法(信号、速力)、船員の常務(新たな危険)不遵守(主因)
リ号…動静監視不十分、狭視界時の航法(衝突回避措置)不遵守(一因)

    二審請求者
受審人B、補佐人近岡廣

    主文
本件衝突は、第六十三富栄丸、視界制限状態における運航が適切でなかったことによって発生したが、リオ サンタ ローザが、視界制限状態における運航が適切でなかったことも一因をなすものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成5年5月19日09時36分
神戸港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第六十三富栄丸 貨物船リオ サンタ ローザ
総トン数 499トン 6,621トン
全長 65.82メートル 152.11メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 10,930キロワット
3 事実の経過
第六十三富栄丸(以下「富栄丸」という。)は、専ら小豆島から神戸港へ土砂を輸送する船尾船橋型の砂利採取運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.80メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成5年5月19日09時05分神戸港ポートアイランド第2埋立工事東側現場の、神戸港第6南防波堤灯台から260度(真方位、以下同じ。)1.2海里にあたる地点を発し、香川県小豆郡土庄町灘山地先に向かった。
A受審人は、出航操船に当たった後も、霧模様であったから引き続き船橋で操船に当たり、見張員として船首に一等航海士と一等機関士を配置して、次第に全速力に増速しながら埋立地東側の工事用ブイに沿って南下し、09時26分神戸港第1防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から115度2.1海里の地点で、針路を250度に定め、甲板員を手動操舵に就かせ、引き続き機関を約10ノットの全速力前進にかけて進行した。
間もなく霧のため視程が約200メートルに狭められたので、A受審人は、航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、09時27分機関を約6ノットの微速力前進としたものの、霧中信号を行うことなく、3海里レンジとしたレーダーを監視しながら続航した。
A受審人は、09時29分少し前レーダーにより右舷船首10度1.5海里のところにリオ サンタ ローザ(以下「リ号」という。)の映像を初めて認め、同時30分半少し過ぎ東灯台から133度1.6海里の地点に達したとき、同映像が同方向1海里となって、リ号と著しく接近することを避けることができない状況になったことを知ったが、針路を保つことができる最小限度の速力に減じることも、必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
09時33分A受審人は、レーダーでリ号の映像の方位が変わらないままで0.5海里にまで接近したのを知り、そのころ、船首で見張り中の一等航海士から船首方向に汽笛が聞こえる旨の報告があり、同船と著しく接近している状況であったものの、船首の見張員が相手船を視認できてその報告があってから避航措置をとっても大丈夫と思い、速やかに行きあしを止める措置をとることなく、一等航海士に対して他船が前方から接近中であるから良く見張るように指示し、直ぐに機関操作ができるよう、左舷側のレーダーから右舷側の機関操作台に移動して一等航海士からの報告を待った。
A受審人は、09時35分少し過ぎ一等航海士から「船首200メートルに船が見えた。」との報告を受け、それが緊迫した様子であったので、直ちに機関を中立にしたところ、続いて「右舵一杯」の叫び声を聞き、そのとおり右舵一杯を令し、自らもリ号を視認して同時35分半舵効きを良くしようと機関を全速力前進にかけ、舵効があらわれたので再び機関を中立とした。
しかしながら、09時36分東灯台から151度1.5海里の地点において、富栄丸は、280度を向いたその左舷船首部が約6ノットの速力で、リ号の左舷船首部に前方から約10度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の西風が吹き、視程は約200メートル、潮候は下げ潮の末期であった。
また、リ号は、中央船橋型冷凍運搬船で、船長Cほか32人が乗り組み、バナナ等生鮮果実2,320トンを積み、同月14日フィリピン共和国ダバオ港を発し、越えて19日早朝神戸港に入航して、検疫のため、06時49分東灯台から202度1.3海里の地点に船首5.79メートル船尾6.76メートルの喫水をもって投錨した。
09時10分ごろB受審人は、リ号を神戸港第3工区の日本ポート産業桟橋へ嚮(きょう)導するため同船に乗船したところ、霧のため視程が水先引受基準1,000メートルをやや下回る約800メートルになっていたが、霧堤が断続しており、船長の要請もあって、同時20分ごろ抜錨し、接近する他船の航過を待ったのち、同時23分機関を約6.8ノットの微速力前進にかけ、西方を向首していた自船を左回頭させ、同桟橋に向かった。
09時25分B受審人は、東灯台から198度1.4海里の地点で、針路を090度に定め、機関を約8.6ノットの半速力前進にかけ、航行中の動力船であることを示す灯火を掲げ、自動で霧中信号を吹鳴し、C船長在橋のもとに、一等航海士をレーダー監視につけて接近する他船があれば直ちに報告するよう指示し、三等航海士をテレグラフに、甲板員を操舵にそれぞれ当たらせて進行した。
09時27分B受審人は、過大な速力とならないように機関を微速力前進に減じ、一等航海士をレーダー監視につけているから、接近する他船があれば直ぐに報告があるものと思い、自らはレーダー監視をしないまま、同時30分再び機関を半速力前進として続航した。
同時30分半少し過ぎB受審人は、東灯台から172度1.3海里の地点に達したとき、レーダーで左舷船首10度1海里に富栄丸の映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、一等航海士から何の報告もなかったので、同状況に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずる措置がとれずに進行した。
B受審人は、09時32分少し前一等航海士から前路に他船が存在する旨の報告を受け、自らレーダーにより左舷船首10度0.8海里ばかりに富栄丸の映像を初めて認めたものの、直ぐにはその動静が分からず、同航海士からの動静報告がなかったが、そのころ視程が約200メートルに狭められてもいたので、念のために機関を微速力前進に減じ、同時33分約3ノットの極微速力前進とした。
間もなくB受審人は、一等航海士から富栄丸の映像が急速に接近する旨の報告を受け、09時34分機関停止、続いて半速力後進を令し、同時34分半少し前全速力後進としたところ、同時35分少し過ぎ左舷船首200メートルばかりに前路を右方に横切る態勢の富栄丸の船体を認めたが、自船の行きあしが相当に減殺されつつあったので、このままなら何とか衝突は回避できると思った直後、富栄丸が突如右転を開始したのを認め、もはや何をする暇もなく、リ号は、原針路のまま行きあしがなくなって前示のとおり衝突した。
衝突の結果、富栄丸は左舷船首部外板に凹損を生じ、船橋左舷外板を圧壊し、リ号は左舷船首部外板に凹損を生じ、左舷錨に曲損を生じたが、のちそれぞれ修理された。

(原因)
本件衝突は、両船が霧による視界制限状態の神戸港を航行中、西行する富栄丸が、霧中信号を吹鳴せず、かつ、レーダーにより前路に探知したリ号と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったばかりか、至近に迫って転舵したことによって発生したが、東行するリ号が、レーダーによる動静監視が不十分で、富栄丸と著しく接近した際、行きあしを止める措置がわずかに遅れたことも一因をなすものである。

(受審人の所為)
A受審人は、視界制限状態の神戸港を西行中、レーダーで前路1海里に著しく接近する態勢のリ号の映像を認めたが、約6ノットの速力で進行し、リ号の映像が0.5海里となり、船首の見張員から前方に汽笛が聞こえる旨の報告を受けた場合、同船と著しく接近している状況であったから、速やかに行きあしを止めるべき注意義務があった。しかるに、同人は、船首の見張員がリ号を視認できてその報告があってから避航措置をとっても大丈夫と思い、速やかに行きあしを止めなかった職務上の過失により、リ号を視認しないまま、見張員の指示どおり右舵一杯とし、ほぼ停止状態となったリ号との衝突を招き、富栄丸の左舷船首部外板及び船橋左舷外板に凹損並びにリ号の左舷船首部外板に凹損及び左舷錨に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、リ号を嚮導し、視界制限状態の神戸港を東行中、自らレーダー監視を行わず、富栄丸と著しく接近している状況を余裕をもって知ることができなかったことは本件発生の原因となる。
しかしながら、このことは、B受審人が一等航海士に対し、レーダー監視を続けて接近する他船があれば直ちに知らせるよう十分な指示を行っていた点及び富栄丸の存在を知ったのちは、同船との衝突を避けるため海上衝突予防法に定めるとおりの措置をとり、衝突時にはリ号の行きあしがほぼ停止していた点に徴し、同人の職務上の過失と認めない。

よって主文のとおり裁決する。

(参考)原審裁決主文平成9年1月30日神審言渡(原文縦書き)
本件衝突は、第六十三富栄丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、リオ サンタ ローザが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととに因って発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。

参考図






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION