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1998年(平成10年)

平成10年那審第18号
    件名
旅客船サザンクロス8号旅客負傷事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年12月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、小金沢重充
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:サザンクロス8号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
旅客1人が3箇月の入院加療を要する腰椎圧迫骨折、同1人が2箇月半の入院加療を要する胸椎圧迫骨折及び腰椎圧迫骨折、同1人が2箇月半の入院加療を要する胸椎圧迫骨折、同1人が2箇月半の通院加療を要する腰椎圧迫、同1人が3箇月半の通院加療を要する腰椎圧迫

    原因
荒天下、船体の動揺が旅客に危険を及ぼすことについての配慮不十分

    主文
本件旅客負傷は、荒天下、船体の動揺が旅客に危険を及ぼすことについての配慮が不十分で、大幅な減速措置がとられなかったことによって発生したものである。
運航管理者が、旅客の安全確保についての指導を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
受審人Aの一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月10日11時28分
沖縄県波照間島北方沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船サザンクロス8号
総トン数 19トン
全長 24.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,338キロワット
3 事実の経過
サザンクロス8号(以下「サザンクロス」という。)は、航行区域を沿海区域(限定)とし、旅客定員90人の一層甲板型軽合金製旅客船で、船首部に操舵室が設けられ、これに続く船体中央部が長さ10.5メートル、幅3.5メートルの客室となっており、前方向きの3人掛け座席が左右に各1列配置され、更に客室後方が遊歩甲板となっており、前方向きの5人掛けベンチ型座席が左右各1列配置され、名座席にはシートベルトはなかったが、各所に手すりが設けられていた。
サザンクロスは、平素定期運航されていたところ、沖縄県八重山列島の石垣島、波照間島、西表島など八重山6島周遊ツアーのため臨時便として運航されることとなり、A受審人ほか甲板員1人が乗り組み、添乗員1人を含む旅客45人を乗せ、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水鰍をもって、平成9年12月10日08時40分石垣港を出港し、波照間漁港に至り、11時10分波照間島観光を終えた旅客を再び乗せて同漁港を発し、西表島仲間港に向かった。
ところで、A株式会社は、旅客運送事業等を営み、サザンクロスなど旅客船15隻を使用して石垣港と竹富地区離島との間で定期運航もしくは臨時運航の業務に当たっており、B指定海難関係人が平成6年10月から同社運航管理者を務めていた。
B指定海難関係人は、平素乗組員に対して運航管理規程の運航基準を順守するよう指導するとともに、3箇月に1度程度全船乗組員を集めて運航についての安全会議を開き、旅客に注意を促す船内放送についての要領文書を作成し、荒天時の船体動揺に対しては、過去の船体動揺による旅客負傷事故に照らし、旅客の安全確保のため減速するよう一応指導していたものの、旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することについての指導を十分に行っていなかった。また同人は、サザンクロスの石垣港出港の際、石垣島地方に強風及び波浪の各注意報が発表されていたが、A受審人に荒天時の減速航行について改めて指示することに思い至らなかった。
A受審人は、波照間漁港発航後運転席に腰掛けて操船に当たり、11時13分波照間島灯台から314度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達し、波照間港第2号立標を左舷近距離で通過したとき、強い北東風が吹き、同方向からの高い波がある荒天のなか、近づけば風か弱くなり、波が低くなる西表島南岸に向く023度に針路を定め、機関を全速力前進では航行できないと判断し、半速力前進にかけ、風、波に抗して14.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
A受審人は、ときおり一段と高い波が来るので、これを認めたときには機関を更に微速力前進程度に減じ、過ぎると半速力前進に戻すようにし、それでも船体はかなり動揺していたが、減速しているので航行には支障はないと思い、船体の動揺が旅客に危険を及ぼすことについて十分配慮せず、動揺を緩和するための大幅な減速措置をとることなく、同一の針路で続航し、旅客に注意を促すことについては添乗員に伝えておけば旅客全員に伝えられると考え、船内放送を行わなかった。
11時28分A受審人は、波照間島灯台から005度4.2海里の地点に達したとき、船首方からひときわ高い波が押し寄せるのを認めたが、減速する暇がなく、船首部が高く持ち上げられると同時に急速に下降するという事態に遭遇し、このとき、客室前部に腰掛けていた旅客が上方に放り出される状況となり、座席などに体を打ちつけ、これら旅客のうち5人が負傷した。
当時、天候は曇で風力5の北東風が吹き、波が高く、石垣島地方には前日から強風及び波浪の各注意報が発表されていた。
A受審人は、旅客からの報告がなかったこともあって、旅客の状態を知らないまま進行するうち、やがて風が弱まり、波も低くなったことから、大原航路第21号立標に向け、同第23号立標を経て、12時00分仲間港に入港し、旅客を下船させた。
A受審人は、負傷した旅客が西表島をバス観光中、痛みが治まらず、激しくなった旨を訴え、大原診療所で診察を受けたことを聞き、旅客が負傷したことを初めて知った。
その結果、客室前部右舷側座席の旅客Cが3箇月の入院加療を要する腰椎圧迫骨折を、客室前部右舷側座席の同Dが2箇月半の入院加療を要する胸椎圧迫骨折及び腰椎圧迫骨折を、客室前部左舷側座席の同Eが2箇月半の入院加療を要する胸椎圧迫骨折を、客室前部右舷側座席の同Fが2箇月半の通院加療を要する腰椎圧迫を、客室前部右舷側座席の同Gが3箇月半の通院加療を要する腰椎圧迫をそれぞれ負った。
本件後B指定海難関係人は、直ちに全船乗組員参加の安全会議を開くとともに、「わが社の安全運航対策」及び「安全運航マニュアル」と題する乗組員指導のための2文書を作成し、荒天時には、旅客に注意を促す船内放送を行うこと、大幅な減速航行を行うこと、船内巡視を行うことなどを改めて指導し、事故再発防止に努めた。

(原因)
本件旅客負傷は、強風及び波浪の各注意報が発表され、強い北東風と同方向からの高い波がある荒天下、多数の旅客を乗せて沖縄県波照間島波照漁港から同県西表島仲間港に向かって航行する際、船体の動揺が旅客に危険を及ぼすことについての配慮が不十分で、動揺を緩和するための大幅な減速措置がとられず、ひときわ高い波を船首に受けたとき、船首部が高く持ち上げられると同時に急速に下降したことによって発生したものである。
運航管理者が、旅客の安全確保のため、荒天時旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速することについての指導を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。

(受審人等の所為)
A受審人は、強風及び波浪の各注意報が発表され、強い北東風と同方向からの高い波がある荒天のなか、多数の旅客を乗せて波照間漁港から仲間港に向かって航行する場合、船体の動揺が旅客に危険を及ぼすことについて十分配慮し、船体の動揺を緩和するための大幅な減速措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関を半速力前進に減じているので航行には支障はないと思い、旅客に危険を及ぼすことについて十分配慮せず、動揺を緩和するための大幅な減速措置をとらなかった職務上の過失により、ひときわ高い波を船首に受け、船首部が高く持ち上げられると同時に急速に下降したとき、客室前部の旅客が上方に放り出される状況となり、座席などに体を打ちつけるという事態を招き、旅客5人を負傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、荒天時旅客に危険を及ぼさない程度まで大幅に減速する措置をとるよう指導を十分に行っていなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、本件発生後直ちに全船乗組員が参加する運航についての安全会議を開くとともに、安全運航についての指導文書を作成し、全船乗組員に対して荒天時船内放送を行うこと、大幅な減速を行うこと、船内巡視を行うことなどを改めて指導し、事故再発防止に努めている点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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