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1998年(平成10年)

平成10年広審第66号
    件名
プレジャーボート亜希同乗者負傷事件〔簡易〕

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之
    理事官
弓田邦雄

    受審人
A 職名:亜希船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
同乗者1人が約2箇月の加療を要する右手環指指先切断

    原因
離桟作業中の安全確認不十分

    主文
本件同乗者負傷は、離桟作業中、安全確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月6日09時25分
広島港
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート亜希
全長 6.00メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 36キロワット
3 事実の経過
亜希は、ヤマハ発動機株式会社が製造したSRV-20GNI型と称する、船体中央部右舷側に操縦席、同席前面にステアリングハンドル及び同ハンドルの右側に主機の遠隔操縦装置が装備された、幅1.95メートル深さ0.99メートルの6人乗りの船外機付FRP製プレジャーボートで、同ボートが使用される前には、宇品灯台から011度(真方位、以下同じ。)730メートルのヤマハ関西株式会社が運営する広島市元宇品町広島ベイマリーナ浮き桟橋(以下「マリーナ桟僑」という。)に左舷船首と左舷船尾とから直径(以下「径」という。)10ミリメートル(以下「ミリ」という。)の合成繊維製の係留索(以下「船首索」「船尾索」という。)各1本をそれぞれ同桟橋上の十字型ビット(以下「ビット」という。)に係止し、船首を東方に向けて左舷付けで同桟橋の南側に係留されていた。
ところで、マリーナ桟橋は、広島港第1区にあり、元宇品町の東側護岸から東方に向けて直角に15.5メートル延びた渡り橋の東端にある、東西方向に15.0メートル及び南北方向に7.5メートルの浮き桟橋で、同桟橋上の南北両側には各5個のビットが設置され、同ビットは、径50ミリ高さ300ミリの縦捧とその中間に径30ミリ長さ250ミリの横棒が十字となって組み合わされた構造で、縦俸の頂端径が80ミリとなったものであった。
平成9年12月6日09時15分A受審人は、亜希に1人で乗り組み、友人Bほか3人を同乗させ、魚釣りの目的で、船首0.40メートル船尾0.87メートルの喫水をもって、広島県似島から同県大奈佐美島付近の釣場に向かうこととして、自ら操縦席に座り、機関を始動させて離桟作業を始めた。
A受審人は、船首、船尾両索を外すため、B同乗者をマリーナ桟橋に降ろし、船首索をビットから外させて船上に投げ入れさせ、船尾索をビットから外させようとしたところ、船尾索がビットからなかなか外れず、そのころから北風の影響により船首部が桟橋から離れ、船尾索が少しし緊張して更に外れにくくなったことから船体を同桟橋に付けるまで船尾索を外すのを待つ旨後方に向かって叫んだが、同人は船尾索をビットから外すことに専念していてA受審人の叫び声に気付かず、作業を続けた。
09時25分少し前A受審人は、船尾索を外すのを待つ旨後方に向かって叫んだことから既に船尾索が手から放されたものと思い、マリーナ桟橋上で作業中のB同乗者に対する安全確認を十分に行うことなく、機関を微速前進にかけて左舵とし、その後船首が20度左転したところ、船尾部の同桟橋からの離れによって船尾索が一層緊張し、09時25分宇品灯台から011度730メートルの地点において、B同乗者が緊張した船尾索とビットの間に右手環指指先を挟み負傷した。
当時、天候は曇で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
この結果、B同乗者は、約2箇月の加療を要する右手環指指先切断を負った。

(原因)
本件同乗者負傷は、マリーナ桟橋からの離桟作業中、ビットから船尾索を外す際、作業中の同乗者に対する安全確認が不十分であったことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、マリーナ桟橋からの離桟作業中、同乗者が船尾索をビットから外させる場合、緊張する船尾索に手を挟まれる危険があったから、ビットから船尾索を外そうとする同乗者に対する安全確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、船尾索を外すのを待つ旨後方に向かって叫んだことから既に船尾索が手から放されたものと思い、安全確認を十分に行わなかった職務上の過失により、操船をして船尾索を緊張させ、同乗者の右手環指を負傷させるに至った。






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