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1998年(平成10年)

平成9年横審第107号
    件名
油送船第二十一嘉栄丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年8月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、長浜義昭、西村敏和
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:第二十一嘉栄丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
機関長が転落、溺水により死亡

    原因
係留作業に対する安全措置不十分

    主文
本件乗組員死亡は、係留作業に対する安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年3月29日17時35分
名古屋港第1区
2 船舶の要目
船種船名 油送船第二十一嘉栄丸
総トン数 165.99トン
全長 31.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 272キロワット
3 事実の経過
第二十一嘉栄丸は、主として伊勢湾内で各油槽所間のA重油運搬に従事する鋼製油送船で、船橋位置が船首から21.5メートル後方にあって、船橋前面の甲板下は船首部からフォアピークタンク、チェンロッカー、コファーダム、並びに1番、2番及び3番各カーゴータンクとなっており、また、外径約72センチメートルのタイヤフェンダー21個が、外舷周囲を取り巻く状態で、ブルワーク上高さ約30センチメートルのハンドレール上端から吊り下げられていた。
本船は、A受審人、機関長Bほか1人が乗り組み、空倉のまま、船首0.4メートル船尾1.3メートルの喫水とし、乾舷ほぼ1.7メートルの状態で、平成8年3月29日17時10分名古屋港第2区の9号地東岸にある丸中興産桟橋を発し、機関を全速力の10.0ノットにかけて同港第1区の10号地及び12号地で囲まれた、潮凪橋奥の通称鴨の浦係留場に向かった。
ところで鴨の浦係留場は、潮凪橋の北側に奥行き約500メートル及び幅約100メートルの10号地と12号地で囲まれた矩形状水域の12号地側にあり、同橋の北方約100メートルから300メートルにかけて幅約2メートル長さ約12メートルの7本の桟橋が約60ないし70メートル間隔で櫛状に張り出し、各桟橋間に適当な間隔で係船用支柱(以下「支柱」という。)が設置されていて、これら支柱の2本ごと頂部に、係留索として直径40ミリメートル程度のナイロンロープの両端が取り付けられ、そのバイト部分を船側ビットにとって係留するようになっていた。
A受審人は、1人で操船に当たり、潮見橋下を通過して9号地北側から10号地ふ頭南端を回ったところで、適宜減速するとともに、甲板員を船首配置に、B機関長を船尾配置にそれぞれ就け、17時26分名古屋港北航路第10号灯浮標から303度(真方位、以下同じ。)1,130メートルにあたる、潮凪橋下の水路中央点(以下「橋中央」という。)を通過したとき、12号地岸壁の線に対し、15度の進入角度となる345度の針路とし、機関を適宜極微速力前進、停止とし、ほぼ1.0ノットの行きあしで、潮凪橋から約280メートル北方にある、5本目の桟橋(以下「定係浅橋」という。)付近に入り船左舷係留することとして進行した。
17時34分A受審人は、定係桟橋の手前約50メートルのところにある4本目の桟橋に達したとき、B機関長が船首部に赴き、船首端から7.5メートル後方の、左舷側1番タンク横に吊り下げてあるタイヤフェンダー付近で、ボートフックを手にしてハンドレール上端から舷外に身を乗り出しているのを認め、両桟橋間には15ないし20メートル間隔で5本の支柱があり、定係桟橋側から2本目と3本目の支柱に両端が係止されている係留索が船尾部にとるものであったが、そのバイト部分が海面に浮遊していて、同機関長がそれを取り込む作業をしていることを知った。
A受審人は、これまでにも行きあしを止めずにB機関長が係留索を海面から拾い上げる作業をするのを見ており、前進行きあしがある状態であると、バイト部分が何かのはずみで舷側のタイヤフェンダーに引っ掛かり、係留索が緊張するおそれがあったが、前進行きあしがわずかなので問題ないものと思い、行きあしを止めたのち、同索を取り込む作業をさせるなど係留作業に対する安全措置をとらなかった。
B機関長は、救命胴衣を着けずに、安全帽、静電防止用上下服に防寒着、防寒靴及びゴム手袋を着用して作業に当たり、17時34分半少し過ぎ、バイト部分をボートフックで甲板上ハンドレールの高さまで持ち上げたところ、身を乗り出していた付近のタイヤフェンダーにバイト部分が引っ掛かり、これを外そうとしているうちに係留索が緊張して同フェンダーが勢いよく持ち上がり、17時35分船首部が定係桟橋に並んだころ同機関長はフェンダーと同索にはねられ、橋中央の北方270メートル付近水域において、海中に転落した。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
A受審人は、B機関長(昭和15年12月17日生)が転落したのを目撃し、自ら海中に飛び込み、同機関長を救助して病院に急行させたが、同人は溺水により死亡した。

(原因)
本件乗組員死亡は、名古屋港第1区の10号地及び12号地で囲まれた、通称鴨の浦係留場において係留作業を行うに当たり、係船用支柱にバイトの状態で取り付けてある係留索を取り込む際、安全措置が不十分で、行きあしを止めずに同作業が続けられ、同索のバイト部分が舷側のタイヤフェンダーに引っ掛かって緊張し、同フェンダーが持ち上げられたとき、同作業に当たっていた乗組員が同フェンダーと係留索にはねられ、海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、名古屋港第1区の10号地及び12号地で囲まれた、通称鴨の浦係留場において係留作業を行うに当たり、船尾配置の乗組員が船首部に赴き、ボートフックを使用して海上に浮遊している係留索を取り込む作業をしているのを知った場合、係船用支柱に両端が取り付けてあるので、そのバイト部分が何かのはずみで舷側のタイヤフェンダーに引っ掛かり、係留索が緊張するおそれがあったから、行きあしを止めたのち、同索を取り込む作業を行わせるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前進行きあしがわずかなので問題ないものと思い、行きあしを止めたのち、係留索を取り込む作業を行わせなかった職務上の過失により、同索のバイト部分が舷側のタイヤフェンダーに引っ掛かって緊張し、同フェンダーが持ち上げられたときに同フェンダーと係留索にはねられて、同乗組員を海中転落させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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