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1998年(平成10年)

平成9年函審第70号
    件名
漁船第三十二綱義丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年3月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

平野浩三、大石義朗、岸良彬
    理事官
千手末年

    受審人
    指定海難関係人

    損害
船長、右下腿骨筋断裂及び溺水のため死亡

    原因
漁労作業手順不適切

    二審請求者
理事官千手末年

    主文
本件乗組員死亡は、定置網揚収作業中、緊張したロープを解き放つ際の作業手順が適切でなかったことによって発生したものである。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
北海道知床半島東岸沖合
平成8年11月26日08時40分
2 船舶の要目
船種船名 漁船第三十二綱義丸
総トン数 19.58トン
登録長 18.70メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 130
3 事実の経過
第三十二綱義丸(以下「綱義丸」という。)は、定置網漁業に従事するFRP製漁船で、船長B及びA指定海難関係人が乗り組み、漁期終了時に僚船3隻と共に網を揚収する目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成8年11月26日06時00分知床岬灯台から169度(真方位、以下同じ。)5.5海里の地点を発し、同地点沖合の水深100メートルのところに設置した定置網に向かい、同時05分同網に達し、前日に引き続き揚網作業を開始した。
08時35分ごろ安全帽及び作業用救命衣を着用したB船長は、船首部において底網に取り付けられた長さ100メートル、径35ミリメートルの化繊製ロープ(以下「ロープ」という。)端を引き揚げて船首ブルワーク上のガイドローラから10メートル後方の船橋前面壁の左舷側甲板上高さ95センチメートル、巻き取りドラム径24センチメートルの油圧駆動の1号キャプスタンに導いてこれにロープを3回巻き付けて引き揚げ作業を開始し、強く張ってきたのでこれより6.6メートル前方の同規格の2号キャプスタンに掛け回して巻き取ることにし、A指定海難関係人を同キャプスタンの配置につかせて、自らは1号キャプスタンの左舷側で作業指揮に当たった。
A指定海難関係人は、ロープを2号キャプスタンに6回巻き付けて巻き取ったロープを足元にコイル状に整理し、約30メートル巻き取ったところで強く張って巻き取りできなくなり、同キャプスタンを停止した。
このときB船長は、引き揚げを左舷至近で作業中の強力なキャプスタンを有する僚船に委ねることとし、1号キャプスタンにはロープストッパーが取り付けられていなかったため緊張したロープの仮止めができず、同キャプスタンを低速回転とし、2号キャプスタンへのロープを両手で引いてキャプスタンローラに滑らせながら送出防止措置をとったが、同措置が不十分で、ロープが急激に送出することのないよう、ロープを十分に緩めて足元のロープを整理するなどの作業手順を適切に行うことなく、A指定海難関係人に対し、ロープエンドを僚船に渡して2号キャプスタンからロープを解くよう指示した。
08時40分わずか前A指定海難関係人の解いたロープが緩んでB船長の足元にはうこととなり、同船長は、手に取っていた緊張したロープがわずかに緩み始めたので、間髪を入れずに3回巻きのロープを解き始めたとき、足元のロープの送出側に右足を置いたことに気付かず、A指定海難関係人は、同船長に対してロープが絡み付くことのないよう進言する余裕がなかった。
こうして1号キャプスタンから解き放したロープが勢いよく走りだし、B船長の足元のロープが右足首に1回巻きの状態で絡み付き、08時40分知床岬灯台から164度5.5海里の地点において、B船長は、船首から海中に転落した。
当時、天候は曇で風力2の南東風が吹いていた。
転落の結果、B船長(昭和16年10月5日生、一級小型船舶操縦士免状受有)は、右下腿骨筋断裂及び溺水の状態で直ちに付近の僚船により救助され、病院に急送されたのち死亡した。

(原因)
本件乗組員死亡は、北海道知床半島東岸沖合において、定置網を揚収作業中、強く張ったロープをキャプスタンから解き放す際、作業手順が不適切で、ロープを十分に緩めて足元のロープを整理しないままロープの送出側に足を置いた状態で解き放し、送出するロープが作業中の乗組員の足首に絡み付いたことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
A指定海難関係人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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