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1998年(平成10年)

平成8年神審第127号
    件名
貨物船第八住徳丸乗組員死亡事件

    事件区分
死傷事件
    言渡年月日
平成10年6月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、清重隆彦
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第八住徳丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
一等航海士が低酸素性脳症で死亡

    原因
荷役作業時における安全措置不十分

    主文
本件乗組員死亡は、荷役作業時の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年6月18日07時57分
兵庫県東播磨港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八住徳丸
総トン数 443トン
全長 60.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第八住徳丸(以下「住徳丸」という。)は、主に岡山県味野港沖合に、錨泊する海砂採取船から海砂を積み取り、兵庫県東播磨港や同県姫路港において自船の旋回式ジブクレーンを使って揚荷をする、船尾船橋型砂利・石材運搬船で、A受審人及び一等航海士Bほか2人が乗り組み、海砂1,350トンを積載し、船首4.20メートル船尾4.35メートルの喫水をもって、平成8年6月18日07時30分東播磨港伊保公共埠頭(ふとう)の海砂陸揚げ専用岸壁に左舷付けで着岸し、同時40分から揚荷を開始した。
B一等航海士は、着岸に際して伝馬船で先に岸壁に上がり、船からの係船索をとる作業に従事したのち、満船状態の住徳丸が、同公共埠頭の水深が浅いため、船底を岸壁際の海底に接触させて岸壁から3メートルほど平行に離れた状態で係留していたので、船上に戻らないで、荷主であるA株式会社(以下「A社」という。)の荷役担当作業員(以下「陸上作業員」という。)が、岸壁上の荷役設備の稼動準備をするのを見守っていた。
海砂は、住徳丸のクレーンバケットによって岸壁上に設置されていたホッパーに投入され、ベルトコンベアで同公共埠頭近くにあるA社の工場敷地内海砂置場に運ばれるようになっていた。
同ホッパーは、上面開口部が一辺の長さ3.60メートルの正方形で、岸壁上からの高さ4.80メートルのところにあり、また、下方の落下口が幅0.60メートル奥行き0.41メートルの長方形で、岸壁上からの高さ1.78メートルのところにあり、その下に海砂の落下量を調節するため、11本の調整棒を挿入したダンパーボックスが取り付けられていた。
海砂はこのダンパーボックスを経て鋼製のスカートを通り、幅約0.8メートルのベルトコンベアに落下するようになっており、鋼製の架台に載せられたベルトコンベアは、ホッパーの中心線から1.20メートル岸壁側端寄りのところがその端で、ベルトは岸壁上の、高さ0.80メートルにある直径0.40メートルのローラによって折り返していた。
ところで、ホッパーなど荷役用陸上施設の管理は、A社が行っており、荷役開始時に陸上作業員がベルトコンベアを始動させ、ホッパー内からベルトコンベアへの海砂の落下量を、調整棒の挿入本数を加減することによって調節していた。そして、この調整棒の挿入本数が少な過ぎると海砂の落下量が多くなってベルトコンベアからあふれ、また、多過ぎると、次第にホッパー内に海砂がたまり、その自重でダンパーボックスのところで目詰まりを起こし、海砂がベルトコンベアに落下しなくなることがあった。
このような場合、調整捧を何本か抜き出して隙間(すきま)を広げるが、それでも海砂が落下しないときは、備えられている木槌(きづち)でホッパーの側壁をたたいて落下させていた。そして、このような修復作業は、荷役中に時折行われていたが、稼働中のベルトコンベアの架台に上がらなければならず、危険が伴うので、A社では、船の乗組員が直接行わず、作業事務所の方に連絡するよう、各船に注意を与えていた。
A受審人は、このことをB一等航海士や他の乗組員にも伝えていたものの、ホッパーが目詰まりを起こしたとき、荷役当直中のB一等航海士が、時折、A受審人に知らせないまま自ら修復作業を行っていることを知っていたが、作業事務所に電話で修復作業を依頼すると陸上作業員がきて荷役が再開できるまでにかなりの時間を必要とすることから、B一等航海士の行動を黙認していた。
こうして、A受審人は、同公共埠頭で揚荷を開始するに当たって、ホッパーの目詰まりなどの陸上荷役設備の修復作業を自ら行うことのないよう、乗組員に指示するなど、荷役時の安全措置を十分に行わないまま揚荷作業を開始した。
陸上作業員は、始動調整を終えたのち作業事務所に引き揚げたが、B一等航海士は、岸壁上で引き続き海砂の落下状態を監視していた。
07時56分ごろB一等航海士は、海砂がホッパー内で目詰まりしたのを認め、甲板上で揚荷作業を見守っていたA受審人に知らせて陸上作業員を呼び寄せる措置をとらないまま、自らベルトコンベア架台に上がって木槌でホッパー側面をたたき始めたところ、07時57分東播磨港伊保灯台から真方位047度1.5海里の伊保公共埠頭海砂陸揚げ専用岸壁のベルトコンベア架台上において、バランスを崩して転倒し、右腕がベルトコンベアのローラに巻き込まれた。
当時、天候は雨で風力1の南風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
A受審人は、機関長とハッチコーミングの船尾左舷側で、荷役状況を監視しながら立ち話をしていたところ、異常に気付いた機関長が自船のクレーンバケットを伝って岸壁に上がり、ベルトコンベアの緊急停止ボタンを押して停止させたのち、コンベアのベルトを切断してB一等航海士(昭和47年10月18日生)を救出した。しかし、同航海士は、右袖(そで)からローラに巻き込まれていた作業服の襟周りで首が絞められ、病院に運ばれたが、のち低酸素性脳症で死亡した。

(原因)
本件乗組員死亡は、東播磨港伊保公共埠頭において、海砂を揚荷中、荷役作業時における安全措置が不十分で、荷役当直者が岸壁上で稼働中のベルトコンベア架台に上がって荷役設備の修復作業を行い、転倒してベルトコンベアのローラに右腕を巻き込まれたことによって発生したものである。
荷役作業時における安全措置が不十分であったのは、船長が、荷役当直者に、岸壁上の荷役用ホッパーが本船からの揚荷で目詰まりなどを起こした際、その修復作業を自ら行うことのないよう、指示しておかなかったことと、荷役当直者が、自ら稼働中のベルトコンベア架台に上がり、同作業に当たったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人が、東播磨港伊保公共埠頭において揚荷中、部下を荷役当直に当たらせる場合、岸壁上にある揚荷用ホッパーが海砂で目詰まりを起こしたときに、その修復作業を船の乗組員が行うことのないよう、荷主から注意されていたのであるから、部下に対して同作業を行わないよう指示すべき注意義務があった。ところが、同受審人は、ホッパーが海砂で目詰まりを起こした際、作業事務所に連絡しても、陸上作業員が修復作業にくるのに時間がかかるので、部下が同作業を行うのを黙認し、陸上荷役設備の修復作業を行わないよう指示しなかった職務上の過失により、B一等航海士がベルトコンベアのローラに巻き込まれて死亡するに至らしめた。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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