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1998年(平成10年)

平成10年神審第26号
    件名
プレジャーボート麻裕美IIのり養殖施設損傷事件〔簡易〕

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成10年10月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄
    理事官
副理事官 山本茂

    受審人
A 職名:麻裕美II船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
養殖施設の網やロープなどに損傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件のり養殖施設損傷は、船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年11月23日07時00分
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボート麻裕美II
登録長 8.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 128キロワット
3 事実の経過
麻裕美IIは、レーダーを装備したFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人など7人を同乗させ、釣りの目的で、船首尾とも0.6メートルの喫水をもって、平成9年11月23日06時40分兵庫県東播磨港内天川左岸の東播磨港伊保灯台から359度(真方位、以下同じ。)1.0海里の高砂マリーナを発し、同県明石市二見沖合の釣り場に向かった。
ところで、東播磨港の航路西側一帯には、東播磨港別府西防波堤灯台(以下「別府西防波堤灯台」という。)からそれぞれ、280度470メートル、233度1,930メートル、251度2,140メートル、280度1,920メートル及び305度1,650メートルの5地点で囲まれる五角形をした海域にのり養殖施設が設けられていた。同施設内には、長さ200メートル幅30メートルののり網が29基設置され、区画の外縁に夜間のみ黄色の閃(せん)光を発する乾電池式または太陽電池式標識灯がほぼ100メートルの間隔で取り付けられていた。
A受審人は、平成4年からプレジャーボートに船長として乗り組んで友人などを乗せレジャーを楽しんでおり、これまで高砂マリーナから二見沖合の釣り場に何度も航行した経験を有し、船に備え付けられた兵庫県瀬戸内海のり・わかめ養殖漁場図を見て、東播磨港から明石海峡の西側にかけての沿岸一帯に設置された多数ののり養殖施設の位置や設置状況を承知していた。
平素、A受審人は、高砂マリーナから二見沖合の釣り場に向かうとき、発航地の南方沖合にある上島を船首目標として南下し、同島に2,000メートルまで接近したところで左転し、針路を118度として、東播磨港の航路西側一帯ののり養殖施設の南側約1海里のところを東行するようにしていた。
発航後、A受審人は、船体中央部にある操舵室前部右舷寄りの操縦席のいすに腰を掛けて操船に当たり、天川を下航し、06時42分東播磨港伊保灯台から343度1,000メートルの地点に達したとき、針路を上島に向首する208度に定め、機関を半速力前進にかけ、22.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
06時48分半A受審人は、上島灯台から028度2.4海里の地点に差し掛かったとき、まだ予定転針地点に達していなかったが、慣れたところであったことに気を許し、周囲を見渡しただけで、転針地点に達したものと思い、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うことなく、針路をいつものように118度に転じたところ、予定の針路線よりも1.3海里北側を東行するようになり、東播磨港の航路西側一帯に存在するのり養殖施設に向首する態勢となったことに気付かなかった。
その後、A受審人は、のり養殖施設の南側を航行しているものと思いながら、依然船位を確認せず、船首が少し浮上して前方の見通しが良くない状態で、いすに腰を掛けたまま見張りに当たって、同施設に向首進行していることに気付かずに続航した。
07時00分わずか前、A受審人は、操舵室外の右舷船尾方にいた同乗者の発したのり網だとの叫び声を聞き、至近に迫ったのり養殖施設を認め、急いで機関を全速力後進としたが及ばず、07時00分別府西防波堤灯台から242度2,000メートルの地点において、麻裕美IIは、原針路、原速力のまま、のり養殖施設の南縁に乗り入れた。
当時、天候は晴で風力4の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
その結果、麻裕美IIはプロペラに絡網して航行不能となり、のち漁船によって養殖施設内から引き出されたが、養殖施設の網やロープなどに損傷を生じた。

(原因)
本件のり養殖施設損傷は、東播磨港の高砂マリーナから明石市二見沖合の釣り場に向け航行中、上島北方で目的地の釣り場に向け針路を転じる際、船位の確認が不十分で、同港沖合に設置されたのり養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、高砂マリーナから明石市二見沖合の釣り場に向け航行中、上島北方で目的地の釣り場に向け針路を転じる場合、東播磨港の航路西側海域にのり養殖施設が設けられていることを知っていたのであるから、同施設に乗り入れることのないよう、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、慣れたところであったことに気を許し、周囲を見渡しただけで、転針地点に達したものと思い、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、予定地点の手前で転針し、のり養殖施設に向首進行して同施設に乗り入れ、プロペラに絡網して航行不能となったほか、のり養殖施設に損傷を与えるに至った。






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