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1998年(平成10年)

平成9年神審第77号
    件名
貨物船第八実穂丸送電線損傷事件

    事件区分
施設等損傷事件
    言渡年月日
平成10年3月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

長谷川峯清、佐和明、工藤民雄
    理事官
坂爪靖

    受審人
A 職名:第八実穂丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
送電線4条が切断

    原因
水路調査不十分

    主文
本件送電線損傷は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月8日09時57分
尼崎西宮芦屋港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八実穂丸
総トン数 471トン
全長 63.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第八実穂丸(以下「実穂丸」という。)は、船尾船橋型の砂利運搬船で、A受審人ほか、4人が乗り組み、空倉のまま、船首1.20メートル船尾2.80メートルの喫水をもって、平成9年2月8日09時45分兵庫県尼崎西宮芦屋港第1区にある尼崎閘門(こうもん)西方の尼崎市鶴町の砂揚場を発し、同県家島港に向かった。
ところで、実穂丸の船首部には、ジブクレーンが、船底までの深さ6.5メートルの上甲板上に、長さ22.5メートルのブームの基部が1.8メートルの高さで装備されており、船体中央部の貨物倉内には昇降用スナップが設けられていないことから、同倉の出入りには、同クレーンのブームを立て、その先端からつり下げられたバケットを倉底に降ろしてはしごがわりに使用していた。また、同倉のハッチコーミングには、海砂の除塩作業時に積荷の砂が船外に流出しないよう、合成樹脂製ホース(以下「ホルダー」という。)によりところどころ固定保時されたキャンバスシートが掛けられていた。
尼崎西宮芦屋港第1区の尼崎閘門北方を南北に流れる蓬川(よもがわ)には尼崎閘門波除堤灯台(以下「閘門灯台」という。)から018度(真方位、以下同じ。)1,100メートルに、最下層の高さ平均水面上22メートルの送電線が、同川をまたいで懸けられ、送電線下を通航する船舶に対して注意換起措置として、同送電線の左右両岸各鉄塔に、赤文字で「電線に注意」と表示されたナイロン繊維製の垂れ幕各1枚と、両鉄塔間の送電線に、等間隔に2個の明示球と称する径50センチメートルの橙色FRP製球形標識がそれぞれ取り付けられていた。
A受審人は、発航に際し、次航海で着岸予定の、閘門灯台から020度約1,400メートルの蓬川左岸にある、尼崎市西高洲町の砂揚場にはこれまで行ったことがなかったので、港外に出る前に同川を上航し、同砂揚場までの水深や川幅など水路状況の下見をすることとした。
A受審人は、蓬川上流を通航するのは初めてであったが、発航地から遠い距離ではないので、改めて海図に当たらなくても目測で行くことができるものと思い、あらかじめ通航経験のある者に問い合わせたり、大縮尺の海図に当たるなどして水路調査を十分に行うことなく、同川をまたいで送電線が懸けられていることも、その高さも知らないまま発航し、船橋中央の操舵輪の左横に設置された測深儀を作動させ、蓬川を上航し始めた。
09時49分A受審人は、閘門灯台から017度380メートルの地点において、針路を鶴町東岸に沿う029度に定め、機関を極微速力前進にかけ、3ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。
このころ、船首配置に就いていた一等航海士が、出港配置が解除になって船尾方に向かっているとき、倉底にホルダーが数個落ちているのを認め、これを拾うため、ジブクレーンのブームを仰角70度に立てて倉内作業を始めた。
09時53分A受審人は、閘門灯台から023度760メートルの地点に差し掛かり、針路を蓬川の川筋に沿う006度に転じたとき、前路350メートルの蓬川の水面上方に、送電線とそれに取り付けられた明示球を認めたが、海図に当たるなどして同送電線の高さを確認していなかったので、最下層の送電線がジブクレーンのブーム先端よりも低い位置にあることを知らないまま、水深と川幅とを確かめながら続航した。
09時56分少し過ぎA受審人は、閘門灯台から018度1,040メートルの地点に達したとき、針路を西高洲町の砂揚場付近に向く027度に転じ、ジブクレーンのブームを立てたままでも送電線の下を無難に通航できるものと思って進行中、09時57分閘門灯台から019度1,110メートルの地点において、原針路のまま、実穂丸のジブクレーン先端が、最下層の送電線を切断した。
当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、尼崎閘門の水門は閉ざされていた。
送電線切断の結果、実穂丸はジブクレーンのブーム先端の接触部の塗装が剥離(はくり)しただけであったが、送電線は4条が切断され、関西電力株式会社により23時05分に復旧された。

(原因)
本件送電線損傷は、尼崎西宮芦屋港第1区の蓬川において、同川を上航中の実穂丸が、水路調査不十分で、同川をまたいで懸けられた送電線の高さを確認しないまま、自船のジブクレーンのブームを立てて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、尼崎西宮芦屋港第1区の蓬川こおいて、次航海で着岸予定となっている尼崎市西高洲町砂揚場の下見をする目的で、同川を上航する場合、蓬川上流を通航するのは初めてであったから、同川をまたいで懸けられている送電線の存在や高さを確認できるよう、あらかじめ大縮尺の海図に当たるなど、水路調査を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同受審人は、発航地から遠い距離ではないので、改めて海図に当たらなくても目測で行くことができるものと思い、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、ジブクレーンのブームを立てたまま進行して送電線の切断を招き、実穂丸の同ブーム先端の塗装剥離及び送電線4条を切断させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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