日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年神審第69号
    件名
漁船第八十六蛸島丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年12月1日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也、須貝壽榮、西林眞
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第八十六蛸島丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定・旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
過給機のノズルリングに打こん、ロータ軸曲損、主機6番シリンダ排気弁、過給機のロータ軸及びノズルリングなど損傷

    原因
主機排気弁シート部肉厚の確認不十分

    主文
本件機関損傷は、主機排気弁シート部肉厚の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月23日17時00分
福井県越前岬沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十六蛸島丸
総トン数 50.13トン
全長 30.78メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 735キロワット(定格出力)
回転数 毎分900(定格回転数)
3 事実の経過
第八十六蛸島丸は、昭和55年8月に進水した、まき網漁業船団に所属する鋼製灯船で、主機としてダイハツディーゼル株式会社が同年に製造した6DS1M-22FS型ディーゼル機関を装備し、クラッチ式逆転滅速機を介してプロペラを駆動しており、操舵室から遠隔操縦装置により主機及びクラッチの運転操作ができるようになっていた。
主機は、石川島汎用機械株式会社製のVTR250型排気ガスタービン過給機を備え、船首側からの順番号が付された各シリンダのシリンダヘッドは、バルブローテータ付きの吸気弁及び排気弁を各2個備えた4弁式で、排気弁が船首側に配列されていた。また、上下2組の排気マニホルドが同ヘッドの右舷側に取り付けられ、1、4及び5番シリンダの排気が下側マニホルドを通って過給機排気ケーシング下部入口に、2、3及び6番シリンダの排気が上側マニホルドから同上側入口にそれぞれ導かれていた。
本船は、網船及び運搬船2隻とともに4隻で船団を組み、毎年1月初めから5月中頃にかけて新潟沖から鳥取沖の日本海で操業したのち、6月には検査工事と合入渠(にゅうきょ)工事とを毎年交互に実施し、6月末から再び日本海や三陸沖で操業を行うことを繰り返していた。
A受審人は、平成5年3月にA株式会社に入社し、網船や運搬船の一等機関士として乗り組んだのち、同7年1月には本船の機関長に昇進し、同年6月に実施する合入渠工事において、例年どおり主機シリンダヘッドの開放整備を地元の機関整備業者に発注することとなり、自ら工事仕様書を作成した。
ところで、主機のメーカーでは、排気弁のシート部にステライトを盛り金して運転中の摩耗が軽減されるよう工夫しているものの、機械切削や摺(すり)合わせの整備が何度か繰り返されるうち、シート部の外縁と触火面との垂直方向の厚さ(以下「シート部肉厚」という。)が次第に薄くなり、シート部の強度が低下することから、図面寸法で5.0ミリメートル(以下「ミリ」という。)の肉厚が3.5ミリまで減少すると使用限度である旨を取扱説明書に明示し、取扱者に注意を促していた。
しかしながら、A受審人は、吸排気弁についてカーボン除去や摺合わせを行うよう仕様書に記載していたものの、整備業者に任せておけば大丈夫だと思い、シート部肉厚を計測して使用限度に近づいた弁については新替えするよう指示することなく、また、自ら工場に出向いて摺合わせの状態を点検しなかったため、シート部肉厚が使用限度に違している排気弁が、6番シリンダヘッド右舷側に組み込まれたことに気付かなかった。
本船は、合入渠工事を終えて操業を続けていたところ、前示の排気弁が燃焼残渣物を噛(か)み込み、燃焼ガスがわずかに漏洩(ろうえい)して弁シート面の外周部が過熱し、同弁外周部の一部に微小な亀裂(きれつ)が発生し始めるようになった。
こうして、本船は、A受審人ほか5人が乗り組み、操業の目的で、翌8年5月23日12時10分石川県金沢港を発して福井県越前岬沖合の漁場に到着し、主機を回転数毎分860にかけて魚群探索中、6番シリンダ右舷側排気弁の亀裂が進行し、肉厚が不足していたためシート部が約60ミリにわたって欠損し、脱落した欠損片が排気ガスに運ばれ、排気マニホルドを経て過給機に飛び込み、17時00分越前岬灯台から真方位329度10.9海里の地点において、主機が異音を発した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、水中灯の投入に備えスカイライト周りで待機しているとき、機関室からの異音とともに煙突から黒煙が出たことを認め、急ぎ機関室に入ったところ過給機が異音を発していたので直ちに主機を停止して過給機のタービン側潤滑油カバーを外し、ロータ軸を手で回そうとしたが重くて回すことができなかったため、運転不能と判断し船長に報告した。
本船は、僚船により発航に引きつけられ、主機メーカーによる点検の結果、主機6番シリンダのピストン及びシリンダヘッドには損傷はなかったが、過給機のノズルリングに打こん生じ、ロータ軸が曲損していることが判明し、のち主機6番シリンダ排気弁、過給機のロータ軸及びノズルリングなどの損傷部品をすべて新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、主機シリンダヘッド開放整備において、排気弁シート部肉厚の確認が不十分で、使用限蟹に達して強度が低下した排気弁が継続使用されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、主機の定期整備にあたり、整備業者に排気弁の摺合わせを発注する場合、シート部肉厚が不足した排気弁を継続使用すると損傷するおそれがあったから、同業者に対し、シート部肉厚を計測し継続使用可能が確認するよう指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、整備業者に任せておけば大丈失と思い、シート部肉厚を計測して継続使用可能か確認するよう指示しなかった職務上の過失により、使用限度に達していることに気付かないまま強度の低下した排気弁を継続使用し、同弁が欠損して飛び込んだ欠損片により、過給機を損傷させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION