日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年函審第36号
    件名
貨物船鳳晴丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、米田裕、大石義朗
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:鳳晴丸機関長 海技免状:四級海皮士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
6番シリンダの連接棒曲損、シリンダライナ及びピストンスカートが欠損

    原因
主機の始動準備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の始動準備が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年10月11日13時40分
北海道釧路港
2 船舶の要目
船種船名 貨物船鳳晴丸
総トン数 747トン
全長 68.73メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,618キロワット
回転数 毎分330
3 事実の経過
鳳晴丸は、平成6年6月に進水し、主に秋田県秋田船川港から北海道釧路港または苫小牧港へ液体化学薬品を輸送する鋼製の貨物船で、主機として、ヤンマーディーゼル株式会社が製造したMF33-ET型と呼称するディーゼル機関を装備し、シリンダには、船首方から順番号を付け、船橋から主機の遠隔操作ができるようになっていた。
主機の過給機は、石川島汎用機株式会社が製造したVTR251型排気タービン過給機で、主機の船尾側上部に備えられ、過給機の排気入口ケーシング上側には、1ないし3番シリンダの排気出口管を1本とした排気マニホルドが、同じく下側には、4ないし6番シリンダの排気出口管を1本とした排気マニホルドがそれぞれ接続されていた。
主機冷却清水の主系統は、清水冷却器から電動の冷却清水ポンプによって吸引され1.0キログラム毎平方センチメートルに加圧されだ清水が、入口主管を通って二方に分かれ、一方がシリンダジャケット、シリンダヘッドを順に冷却して冷却清水出口集合管に至り、他方が過給機の排気入口ケーシング及びタービンケーシングを冷却し、次いで双方が清水冷却器を経て同ポンプの吸入管に還流するようになっていた。また、主機の頂部から高さ約4メートルのところには、容量約450リットルの清水膨張タンクが設置され、循環する清水の過不足が、同タンクと冷却清水出口集合管及び冷却清水ポンプ吸入管との間の各連絡管を通して調節されるようになっていた。
鳳晴丸は、A受審人ほか6人が乗り組み、濃硫酸1,500トンを積載して平成9年10月9日18時00分秋田船川港を発し、翌10日22時00分釧路港外に至って投錨仮泊した。
翌11日06時30分A受審人は、荷揚げのため接岸する旨の連絡を受け、主機の油通しを電動のターニングモータを運転してターニングしながら行ったのち主機を始動した。
07時00分鳳晴丸は、抜錨して釧路港西区第一埠頭の1号岸壁に向かい、同時30分同岸壁に着岸後主機を停止して荷揚げを開始したところ、主機過給機の排気入口ケーシング排気通路下側の腐食の進んでいた箇所に小破孔を生じ、これより冷却清水が同ケーシング内に漏洩(えい)するようになり、やがて、漏水が下側の排気マニホルド、排気出口管に流入し、更に、排気弁の開いていた6番シリンダ内に浸入してピストン上に滞留するようになった。
13時20分鳳晴丸は、荷揚げを終了し、空倉の状態で秋田船川港に向かうことになり、A受審人が、同時30分出港前に主機の始動準備のため冷却清水ポンプ、燃料油ブースタポンプなどを運転した。ところが、同人は、停泊中にシリンダ内に冷却清水などの異物が漏入していることはあるまいと思い、ターニング及びエアランニングを行ってシリンダ内の異物の有無を確認しないまま同準備を終え、主機の操縦場所を船橋に切り替え船尾甲板にて出港配置についた。
こうして鳳晴丸は、操船中の船長が船首スプリング索を1本残した状態で、船尾を岸壁から離そうとして主機を遠隔始動したところ、13時40分釧路港西区南防波堤東灯台から真方位014度780メートルの地点において、6番シリンダ内に滞留していた冷却清水がシリンダヘッドと上昇するピストンとの間で挟撃され、主機が異常音を発した。
当時、天候は晴で風力4の南西風が吹き、港内にはうねりがあった。
A受審人は、船尾甲板で係船索を整理中、足元から突き上げる音を聞いて機関室へ急行したところ、主機が異常な音を出していたので指圧器弁を開けで燃焼状態を調査し、6番シリンダが燃焼していないのを認め、秋田船川港までの航行は困難と判断してその旨を船長に報告した。
鳳晴丸は、14時00分釧路港外に投錨仮泊し、A受審人が主機クランク室ドアを開放して点検したところ、6番シリンダの連接俸が曲損してシリンダライナ及びピストンスカートが欠損していたので、修理の手配をしたのち自力で釧路港東区中央埠頭に接岸し、修理業者によって6番シリンダのピストン、シリンダライナ、連接棒及び連接捧ボルト、並びに6、7番の主軸受メタル及び過給機排気入口ケーシングを新替えする修理が行われた。

(原因)
本件機関損傷は、釧路港を出港するに当たり、主機の始動準備が不十分で、ターニンク及びエアランニングが行われなかったことから、停泊中に過給機俳気入口ケーシングの腐食破孔箇所から漏れてシリンダ内に滞留した冷却清水が、シリンダヘッドと上昇するピストンとの間で挟撃されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、釧路港を出港するに当たって主機の始動準備をする場合、停泊している間にシリンダ内に冷却清水などの異物が滞留していることがあるから、異物を発見できるよう、ターニンク及びエアランニングによる始動準備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、停泊中に冷却清水などの異物が漏入していることはあるまいと思い、ターニンク及びエアランニングによる始動準備を十分に行わなかった職務上の過失により、6番シリンダ内に冷却清水が滞留したまま主機を遠隔始動し、水撃作用で同シリンダの連接棒が曲損するなどの損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION