日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年函審第20号
    件名
漁船第十六喜美丸機関損傷事件

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年11月12日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

大山繁樹、大石義朗、古川隆一
    理事官
里憲

    受審人
A 職名:第十六喜美丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
1番ピストン頂部周縁溶損、シリンダライナに許容限度を超える摩耗、1番シリンダの連接捧に曲損、過給機損傷ほか

    原因
主機の整備不十分

    主文
本件機関損傷は、主機の整備が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月17日01時00分
北海道知床半島東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船第十六喜美丸
総トン数 19トン
全長 22.20メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 481キロワット
回転数 毎分1,940
3 事実の経過
第十六喜美丸(以下「喜美丸」という。)は、平成元年10月に進水し、6月から11月までをいか一本釣り、12月から3月までを刺網の各漁業に従事する鋼製漁船で、主機として株式会社小松製作所が平成元年2月に製造したEM679A-A型と呼称するトランクピストン型ディーゼル機関を装備し、主機の燃料油にはA重油を使用していた。
主機のピストンは、ピストンリング3本を装着した直径160ミリメートルの一体型アルミニウム合金製ピストンで、ピストン冷却が、シリンダライナ下方の冷却ジェットノズルから噴き出てピストン内側に送られる潤滑油によって行われ、また、シリンダライナとの間の潤滑にははねかけ注油法がとられていた。そして、燃焼室はシリンダヘッド中央に燃料噴射弁を有する直接噴射式で、ピストン頂部が噴霧油と空気との接触をよくするため皿形のくぼみになっていた。
喜美丸は、平成7年12月末に有限会社Aが中古船であった同船を購入したもので、翌8年1月上旬A受審人が船長として乗り組み刺網漁業に従事していた。
ところで、主機のシリンダライナは、喜美丸を購入した時、それまで一度も開放整備が行われていなかったこともあって、摩耗がかなり進んでいる状態であった。しかし、A受審人は、運転時に格別異状がなかったことから主機の開放整備を行わないまま操業を開始し、同年3月刺網漁業を終えて翌月から休漁期間に入ったが、シリンダライナの摩耗は、更に進行する状態となっていた。
A受審人は、休漁期間中に潤滑油フィルタのエレメント新替えなどの簡単な機関整備を行い、同年6月、新潟県佐渡島付近においていか一本釣り漁業を開始し、操業を繰り返しながら日本海を北上して津軽海峡を抜け、同年9月初め知床半島東方沖合に至り、北海道目梨郡羅臼町羅臼漁港を基地として夕方出漁し、翌朝帰港する操業を繰り返していたところ、シリンダライナの摩耗が一層進み、特に摩耗の著しい1番シリンダにおいて圧縮圧力が低下し、これに燃料噴射弁の噴霧不良も重なって燃焼状態が悪化し、燃焼ガスのクランク室内への吹き抜け量も多くなっていた。
同年9月上旬、A受審人は、主機から潤滑油漏れを生じて札幌市の機関販売会社に修理を依頼したところ、訪船した同会社の技術員にクランク室ミスト量が多いので主機の開放整備をした方がよい旨の助言を受けた。ところが、同受審人は、同ミスト量がもう少し多くなってから整備しても遅くないと思い、ピストン抜きをするなどの主機の整備を行うことなく操業を続けた。
その後、主機の1番シリンダは、圧縮圧力の低下と燃料噴射弁の噴霧不良が進んで着火遅れを生じるようになり、未燃焼燃料油がピストン頂部の周縁及びトップランド付近に達して二次燃焼し、このためピストン頂部の周縁が溶損する一方、ピストンの過熱膨張でシリンダライナの磨耗が一層進行するとともに燃焼室内への潤滑油かき上げ量が増大し、主機始動時この潤骨油が燃焼して煙突から白煙が出るようになった。
A受審人は、同年10月10日ごろクランク室ミスト量の増加とともに主機始動後しばらくの間煙突から多量の白煙が出るのを認め、不安になり慌てて前記機関販売会社に修理手配したが、すぐには訪船出来ないといわれ、盛漁期であったこともあってそのまま操業を繰り返した。
こうして、喜美丸は、操業の目的で、A受審人ほか2人が乗り組み、同月16日15時00分羅臼漁港を発し、18時ごろ知床半島東方沖合の漁場に至って投錨し、主機を回転数毎分1,800にかけ集魚灯を点灯して操業中、1番ピストン頂部周縁の溶損が進むとともに同ピストンが過熱膨張してシリンダライナに焼き付き、翌17日01時00分知円別港東防波堤灯台から真方位141度1.5海里の地点において、主機が異常音を発するとともに黒煙を噴き出して停止した。
当時、天候は雨で風力4の北西風が吹き、海上にはやや波があった。
A受審人は、機関室へ急行して見回り、主機の外観に異常がなかったが、急停止したことから再始動不能と判断し、付近で操業中の僚船に救助を求めた。
喜美丸は、来援した僚船に曳(えい)航されて羅臼漁港へ入港し、機関販売会社が主機を開放精査した結果、前記損傷のほか、2ないし6番シリンダにおいて、シリンダライナに評容限度を超える摩耗、ピストンのトップランドに溶融によるエロージョン、1番シリンダの連接棒に曲損及び過給機にピストン溶損片の侵入による損傷がそれぞれ認められ、のちそれらを新替えした。

(原因)
本件機関損傷は、クランク室ミスト量が多くなった際、主機の整備が不十分で、シリンダライナの著しい摩耗及び燃料噴射弁の噴霧不良による異常燃焼状態で運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、クランク室ミスト量が多くなって機関販売会社の技術員から主機の開放整備の助言を受けた場合、燃焼ガスがクランク室内に吹き抜けていることが予想されるから、吹き抜けが進んで出漁中に主機が運転不能となることのないよう、ピストン抜きをするなどして主機の整備を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、クランク室ミスト量がもう少し多くなってから整備しても遅くないと思い、ピストン抜きをするなどして主機の整備を十分に行わなかった職務上の過失により、シリンダライナの著しい摩耗及び燃料噴射弁の噴霧不良による異常燃焼状態で運転を続け、ピストン及びシリンダライナの焼損、ピストン溶損片の侵入による過給機の損傷などを生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION