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1998年(平成10年)

平成8年神審第105号
    件名
貨物船きくしま機関損傷事件〔簡易〕

    事件区分
機関損傷事件
    言渡年月日
平成10年10月21日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

山本哲也
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:きくしま機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
過給機の排気入口及び排気出口各ケーシング内部の冷却水壁に亀裂、ロータ軸の軸受等損傷

    原因
過熱した主機の冷却措置不適切

    主文
本件機関損傷は、過熱した主機の冷却措置が適切でなかったことによって発生したものでる。
受審人Aを戒告する。

適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月28日08時45分
紀伊水道
2 船舶の要目
船種船名 貨物船きくしま
総トン数 171トン
登録長 46.21メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 441キロワット(定格出力)
回転数 毎分385(定格回転数)
3 事実の経過
きくしまは、平成7年4月に現所有者に共同購入されて以来、阪神地区から国内各港へ袋詰めの塩の運搬に従事する鋼製貨物船で、主機として、株式会社新潟鉄工所製のNHP20AL型排気タービン式過給機を付設した、株式会社松井鉄工所製の6M26KGHS-1型ディーゼル機関を装備し、主機の運転操作は遠隔操縦装置を備えた船橋から行われていた。
主機の冷却は、容量250リットルの清水膨張タンクを備えた加圧密閉方式によるもので、直結の冷却清水ポンプにより清水冷却器から吸引された清水が、入口主管で分岐して各シリンダ及び過給機を冷却し、出口集合管で合流して同冷却器に戻っていた。一方、船底のシーチェストから海水吸入弁及び複式の海水こし器を経て、電動の冷却海水ポンプにより吸引された海水が、潤滑油冷却器、空気冷却器及び清水冷却器を順に冷却して船外排出口から排出されるようになっていた。
そして、同海水系統には、冷却海水ポンプが故障したときなどの非常の際に備え、バラストポンプ吐出管から分岐した海水管が潤滑油冷却器入口管に接続されていた。
A受審人は、本船を購入したときから機関長として乗り組み、航海当直にも就きながら機関の運転管理に当たり、主機冷却系統については、清水膨張タンクの水量に注意し、また冷却海水の圧力や船外排出量で判断して海水こし器を掃除するようにしていたが、複式の同こし器はいつも同じ側を使用し、掃除は停泊中主機を停止してから行っており、切替えコックを操作してこし器を切り替えたことがなかった。
本船は、船長及びA受審人の2人が乗り組み、積荷の目的で、平成8年5月27日15時20分三重県四日市港を出港し、徳島県撫養(むや)港に向かった。そして、翌28日07時15分和歌山県日ノ御埼沖を通過し、主機回転数を全速力と定めた毎分335として航行中、海中に浮遊していたビニールシートを吸引してシーチェストの主機冷却海水吸入口が閉塞(へいそく)し、08時30分ごろ船橋で冷却清水温度上昇の警報ブザーが鳴り、当直中の船長が主機回転数を毎分220に減じた。
A受審人は、船長らの呼出しベルで急いで船橋に赴き、主機令却清水の警報ランプが点灯していることを確認して機関室に急ぎ、出口集合管に取り付けた同水の温度計目盛りが摂氏100度近くまで上昇していることを認め、途中で冷却海水が船外排出口からほとんど排出されていないことを見ていたので、海水こし器が閉塞したものと思い、これを切り替えようとした。ところが、長年使用されていなかったため切替えコックが固着していて切り替えることができず、バラストポンプの非常用配管を利用することとしていったん主機を停止した。
こうしてA受審人は、バラストポンプを運転して主機に冷却海水を通水したうえ始動することとしたが、冷却海水さえ通せば大丈夫と思い、始動前に触手点検するなどして、主機各部の温度が十分低下するのを待つことなく、いきなり始動したので、この間に海水で冷却された冷却清水が過熱したままの主機に送水され、08時45分青島灯台から真方位043度9.5海里の地点において、特に高温となっていた過給機の排気入口及び俳気出口各ケーシング内部の冷却水壁に、それぞれ過大な熱応力が作用して亀裂(きれつ)が発生し、冷却清水が排気側に漏洩(ろうえい)し始めた。
当時、天候は曇で風力1の東南東風が吹き、海上は穏やかであった。
A受審人は、しばらくして船橋に上がったところ、煙突からの排気に水蒸気が混入していることに気付き、主機の冷却水壁に破口が生じたものと判断した。
本船は、減速のうえ続航して撫養港に入港し、修理業者の手により点検の結果、主機過給機の前示損傷が判明し、のち過給機は、両ケーシングのほか、ロータ軸の軸受等を新替えして修理された。

(原因)
本件機関損傷は、航行中に冷却海水管系が閉塞して主機が過熱した際の冷却措置が不適切で、特に高温となっていた過給機が急激に冷却されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、航行中、冷却海水管系が閉塞して主機が著しく過熱した際、いったん停止した主機に非常用配管から同海水を通水したうえ始動しようとする場合、過熱したまま始動すると熱応力によって冷却清水系統に亀裂が発生するおそれがあったから、触手点検するなどして主機各部の温度が十分低下するまで待つべき注意義務があったところが、同人は、主機に冷却海水さえ通せば大丈夫と思い、主機各部の温度が十分低下するまで待たなかった職務上の過失により、過熱したままの主機を始動し、冷却清水が送水されて、特に高温となっていだ過給機の冷却水壁に亀裂を生じさせるに至った。






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